第63話 【夜の音】の傾向と対策
【夜の音】に関して。
発想の経緯:現時点で、黒幕の名称が不明
→黒幕が、最終ボスになる予定。
→最終ボスに相応しい名称を考えよう。
→造物主デミウルゴスの名をグノーシス主義では、
「ヤルダバオト」と呼ぶらしい。
→「ヤルダバオト」の発音による表記揺れに、
「ヨルダバオト」という名称がある。
→「ヨル」が「夜」、「オト」が「音」を連想させる。
→【夜の音】は、正体不明の黒幕の仮称としても、
相応しい気がする。
再び立ち上がる郡山青年。彼には、もう迷いはない。
「ククク。俺に勝ちたい、勝ちたい、という強い闘志を感じるぞォ!そうだ。やはり俺達の闘いはこうでなくてはなァ。」
郡山青年が立ち上がったことで、弓削青年も心から悦んでいる。
こいつは既に一度倒している奴だ、という認識は棄てたほうが良さそうだ。
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自分より強い相手に創意工夫もなしに挑むのは無謀だ。
上には上がいる。
大学でも、自分よりも数学やプログラミングが得意な者というのはいた。しかし、どんな奴にも弱点はある。前者は数学は得意だけど、プログラミングは苦手だったし、後者はプログラミングは得意だけど、数学は苦手だった。
では、数学とプログラミングを組み合わせたら?結果は火を見るよりも明らかだった。郡山青年は、件の両者よりも成績が上位となった。
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そこで、どのように創意工夫をすれば良いのだろうか?
この世界での【決闘術】は、表の世界の日本での路上格闘と殆ど同じ。しかし、それは両者ともに経験がある。大差はない、或いは、少し不利かも。
この世界独特の技術。【陰陽術】と【魔導科学】。好敵手は、その両方を既に十年使っている。熟練度では大差がある。全く敵わないだろう。この世界にいる限り、外地での戦闘を強いられる。
でも、どんな奴でも弱点の無い敵はいない。
最強の敵であっても、無敵というわけではない。「最強」は最も勝率が高い者、「無敵」は勝率100%の者。両者は、似て非なる存在なのだ。
だったら、相手の隙を窺えばいい。
物理や数学の講義で板書の間違いや、専門書の誤植―負符号や二乗の冪が抜けていたりする―を見つけたように。
或いは、プログラミングの実習で、コンパイルエラーのバグ―綴り間違いや全角半角の混在―を見つけたように。
そして、相手の隙を狙って、意外性の高い技を仕込む。武術の達人であればあるほど、素人の動きは読み難い。
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それに、自分以上の実力者に一人で挑む理由はない。
あの時だって、自分の影に潜んでいた魔族と共闘していた。
方針は決まった。
【陰陽術】を使い、式神を召喚する。
「来い、【八咫烏天狗】!」
「ほう。それが君の式神か。だが、意外だよ。以前の君なら、この決闘は、意地でも一対一の勝負に拘っていた筈だ。」
確かに、二対一では「卑怯」と思われるかも知れない。
「君こそ、熱くなり過ぎて、この模擬戦の意味を見失っていないか?」
「何?この模擬戦は、互いの実力を確認することが目的の筈だ。」
【幽者】ユゲタイは、興奮して、昂ぶる闘志を抑え切れていないようだ。【幽体融合】が解除されかかっており、【幽体分離】、略して、【幽離】によって、幽と体が分離し、黒に限りなく近い灰色である、灰黒色の髪であった青年は今、【病みエルフ】の特徴である、白銀の髪に真紅の眼へと変貌を遂げ始めていた。
そういえば、十年前、弓削少年の髪型が癖毛が強く、ブロッコリーの形に似ていたので、
「ブロッコリー、年をとったらカリフラワー」
と揶揄われていたな、と思い出す。
「それだけでは不足だな。この模擬戦は、これから対峙するであろう、【夜の音】の傾向と対策も兼ねているはずだ。」
「面白い。互いを仮想【夜の音】と考えて闘おう、というのか。」
「それなら、【陰陽術】を使って、式神を召喚するのも必然だろう?」
これで、多対一で闘う大義名分が出来た。
「良いだろう。だが、【陰陽術】を使えるのは君だけではないぞ。」
そして、二人の決闘は、第二段階へと進んでいく。
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召喚された【八咫烏天狗】は、郡山青年に助言をする。
「小さな光は大きな光の側では輝けないが、闇はどんな小さな光でも輝かせることが出来る。そして、どんな大きな光でも闇の全てを照らし出すことは出来ないのだ。」
要するに、真昼の太陽の下では、豆電球の光は霞んでしまう。しかし、太陽が沈んだ夜であれば、豆電球の光は輝くだろう。そして、太陽がどれだけ輝いても、全宇宙という闇の全てを照らし出すことは出来ないのである。
この場合、郡山青年が豆電球、弓削青年が太陽、【八咫烏天狗】が闇、ということになるだろう。
確かに、【八咫烏天狗】の戦闘経験なら、眼前の相手をも上回るだろう。以前、八咫烏天狗との戦闘に勝ったときは、相手が油断した一瞬の隙を利用しなければ勝てなかったのだから。
そういえば、八咫烏天狗との戦闘に勝った際に入手した、八咫烏の風切羽をまだ使っていなかったな。ゲームでも、入手したアイテムを温存しておく方だったが、八咫烏の風切羽の効果は、未だ使途不明。折角だからここで試してみるか。
「顕現せよ、黒キ楯!」
そして、最初にブルクドルフ氏に貰った、今では使い慣れたアダマンタイト製の楯を自身の【コンテナ】から取り出す。
郡山青年がブルクドルフ氏から、黒キ楯を貰ったのと同様に、弓削青年が入手した、【祟りの凶杖】もブルクドルフ氏の制作である。
即ち、両者は同格であり、黒キ楯なら、【祟りの凶杖】の攻撃を防ぐことが出来るであろう。
郡山青年は、黒キ楯のもう一つの能力を思い出す。【重力の軛】を発動した際、楯の表面に橙の眼の様なブラックホールが描かれ、吸い込んだ素材や魔物の能力を得る、という能力を。
ミスリル鉱石を吸い込んだ際は、鏡ノ楯という、反射能力を有する楯が顕現し、【メデューサ・ゴルゴン】を吸い込んだ際は、「アイギス」という、石化光線を放てる楯が顕現した。
では、八咫烏の風切羽を吸い込んだら、どのような楯が顕現するだろう?
「【重力の軛】を発動!」
八咫烏の風切羽を吸い込んだ黒キ楯は、黒翼が生え、翼ノ楯となった。この楯は、リュックサックの様に背負うことが可能になっており、装備時に飛行能力が付与されるようだ。
ところで、【祟りの凶杖】の素材にも、八咫烏の風切羽が使われている。奇しくも、ブルクドルフ氏の制作した、八咫烏の風切羽を素材とする、武器と防具が、対峙することになったことなど、郡山青年も弓削青年も知る由もなかった・・・。
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【祟りの凶杖】と翼ノ楯が対峙した瞬間、両者の纏う魔力の波が重なり合い、共鳴を起こした。
凄まじい暴風が吹き荒れ、エテル、ウィン、エズの三人が生成した、三重詠唱による障壁結界が崩壊する。
「なっ?!何だよ、コレ?!」
術者の三人だけでなく、アッシュ少年とソーン少年も戦慄し、ヨッホ村長でさえ、恐懼する。
エテル、ウィン、エズの三人が障壁結界を修復するため、再び三重詠唱を開始し、模擬戦は一度中断することになった。
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暫くして、模擬戦が再開される。
だが、郡山青年の実験は、続いていた。
八咫烏の風切羽と同じく、八咫烏天狗との戦闘に勝った際に入手した、【烏天狗の仮面】も装備時に飛行能力が付与される防具だった。では、重複する効果を持つ二つの防具を同時に装備したらどうなるか?
【烏天狗の仮面】と翼ノ楯を装備して、飛翔した郡山青年は、2対4枚の黒翼が生え、堕天使の様な姿に変貌していた。
空中に屹立し、睥睨する郡山青年に対し、弓削青年は、自身の【コンテナ】に収納されていた、漆黒の弩、【痛矢串】を取り出す。
郡山青年は、翼ノ楯を黒キ楯に変更する。飛行能力の付与が【烏天狗の仮面】のみとなって、郡山青年の機動力も半減するが、弓削青年が発射した矢を防御できる筈だ。
しかし、矢に火属性が付与されていたため、弓削青年の魔力色である、青白い炎が黒キ楯に燃え移り、郡山青年は、黒キ楯を手放さざるを得ない。
「ククク。この【痛矢串】は、矢に火属性や毒属性を付与することが出来るのさ。機動隊の盾に火炎瓶を炸裂させて、盾ごと燃やすようにな。」
「くっ・・・一酸化二水素!」
落下しながら燃え続ける楯に鉄砲水をぶつけて、弓削青年の方に弾き飛ばすと、水蒸気爆発によって、霧が発生し、その視界を塞ぐ。
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だが、即席の水蒸気爆発は、弓削青年には届かなかったようだ。落下しながらも燃え続けた楯は、冷却され、奪われてしまった。
「ククク。いい楯じゃねぇかよ。使い方はこうか?【重力の軛】を発動!」
奪われた黒キ楯の【重力の軛】が、飛翔する郡山青年に襲い掛かり、地面に引きずり下ろした。
【烏天狗の仮面】が付与する飛行能力は、重力軽減によるものであり、【重力の軛】による重力増幅の効果と相殺されたためだ。
「くっ・・・仕切り直しか。」
「いや、そうでもねぇぜ。出でよ、【餓者髑髏】!」
・【餓者髑髏】:
最近、常井氏の影響を受け、「ガチャ」を回す趣味に目覚めたことから、「ガチャ髑髏」とも呼ばれているとかいないとか。
[弱点]:妖刀【骨無双】、妖刀【骨無双】―真打―
郡山青年の背後の影の中から、弓削青年の式神である【餓者髑髏】が顕現し、郡山青年の足を掴んでいた。そのまま影の中に引きずり込もうとする。
「言った筈だ。【陰陽術】を使えるのは、君だけではないのだよ!」
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「だったら、こっちも式神を召喚するまでだ。出でよ!【九尾の火狐】!」
「なっ?!二体の式神を同時に使役するとはな。かなりの高等技術の筈だぞ?!」
弓削青年は驚愕した。陰陽術士の末裔に産まれ、この裏世界で十年の修行を経た自分は、確かに複数の式神を同時に使役することは出来る。
しかし、郡山青年はそれと同等の技術をこの短期間に習得したのだ。これが、彼の天賦の才が成せる業なのか。
「妾を呼ぶ程の手練れか。良かろう。この不浄なる生き物め。聖なる炎をその身に受けよ。」
【九尾の火狐】の火炎放射は、郡山青年の魔力色である、紫色に染まっていた。【九尾の火狐】級の眷属と共鳴させるのに要する魔力量は膨大となる。
「何だ、この魔力量は?!人族の魔力量を遙かに超えている・・・。」
【餓者髑髏】は一瞬で焼き尽くされて無に帰った・・・正確には、魔素の粒子の塵となって、弓削青年の型紙へと戻った。これで、【餓者髑髏】を式神として再使用するには、ある程度の冷却時間を要することになる。
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その頃、玖球帝国の帝都ニライカナイの城の執務室。玖球帝、ネメシス・ダムドは、自分の内側からごっそりと魔力を持って行かれる感じがした。
「だるい・・・。」
郡山少年との在りし日の契約は、まだ有効なのかも知れない・・・。
両者の実力が拮抗する模擬戦の決着は次回以降に持ち越し。




