第62話 短命種(ウェンペ)と隣人(シャモ)の闘い
ついに、郡山青年と弓削青年という、
十年前のかつての好敵手が再会。
物語は次の舞台へ。そして、運命が大きく動き出す……。
忠告・助言:あまりモブキャラに感情移入しない方が良いかも。
※カクヨム版のみ、独逸語の単語を
独逸の旧字体「フラクトゥール」に変更(2022/03/01)。
サンケベツ村に到着すると、青い服を着た村長が出迎えにやって来た。
「はじめまして。サンケベツ村へようこそ、荒脛巾皇国の隣人。儂は村長のヨッホ。此度は、生態系の異常に関しての調査だとか?」
「はじめまして。政治結社【草茅危言】所属、登戸研究所の研究生、郡山と申します。最近、この付近で何か変わったことはありましたか?」
「普段、羆が出没するような場所ではない筈の、人里付近で、羆の目撃例が増えてきており、村の衆も危険のため、山菜採りに行き難くなっておりますな。」
「温暖化の影響かな?」
弓削青年は、首を横に振る。その原因には、心当たりがあるのだ。
「いや、恐らく、特殊な個体が彼等の生息域を荒らしているらしい。胸から背中にかけて白毛が通った、『袈裟懸け』模様が特徴だ。俺は、その個体の行方を追っている。ヨッホ村長は、そういう個体を見てませんか?」
「うむ。最近、山の神の名に違わぬような、一際巨大な羆を見たが、直ぐに悟った。あれは、別格だとな。」
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「どうやら、今回の任務は、その別格の個体とやらを斃せば、達成になりそうだな。問題は、どうやって斃すか、だけど……。」
勿論、郡山青年は、羆と戦ったことはない。
「これは、簡単な問題ではない。君は、『三毛別羆事件』を知っているか?」
「羆による獣害事件だっけ?」
「その時、退治された個体が、その『袈裟懸け』だ……。」
「は?ということは、表の日本で退治された羆の亡霊が、裏の世界で化けて出た、とでも言うのか?」
「察しが良いな。その通りだ。でも、ただの亡霊じゃない。影で、操っている奴がいるんだよ。確実にな。君だって、そういう技術には、心当たりがあるんじゃないか?」
「ゑ?そんな技術あったかな?【陰陽術】で降霊とかできたっけ?」
「【陰陽術】の中でも禁術とされる、【死靈術】なら可能だ。」
「だとしたら、相当な【陰陽術】の使い手が敵の背後にいるわけか……。」
「その仮想敵の【陰陽術士】、或いは、【死靈術士】を便宜的に【夜の音】、その式神を【袈裟懸け】と呼ぶことにしよう。俺でも、【夜の音】と【袈裟懸け】の両方を同時に相手にするのは、不可能に近い。というわけで、まずは、援軍である君の力を見せてもらおうか?」
これは、模擬戦をする流れになりそうな雰囲気だ……。
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サンケベツ村の住民達も、模擬戦に協力してくれるらしい。彼等にとっても、高度な演武は参考になるからだという。或いは、変化の少ない日常における娯楽としての意味もあるのかも知れないが。
まず、村長のヨッホ自ら、模擬戦の審判をする、という。
そして、蝦夷エルフの少女、エテル、ウィン、エズの三人は、闘技場の代わりに、障壁結界を生成する詠唱を開始した。
この結界内では、負傷しても漸次回復する、所謂「リジェネ」効果が付与される他、障壁によって、流れ弾が観戦者に向かうことを防ぐ。
だが、ヨッホが言うには、
「高度な演武の場合、三重詠唱による障壁でも貫かれることがある。」
らしい。そして、対戦者二人の魔力量と、結界の術者三人の魔力量を鑑みると、恐らく確実に結界の方が保たないだろう、という。
そのような話を聞いた蝦夷エルフの少年アッシュは、
「三重詠唱による障壁を破る程の闘いなんて滅多に見られないからな。短命種と隣人の闘いか……楽しみだぜ!!」
と言って、この模擬戦の観戦をかなり楽しみにしているようだ。
ヨッホ村長とアッシュ少年は、ともに「隣人」という言葉を使っているが、両者のルビが異なることに気付いただろうか。その意味は、「外人」と「害人」ぐらいの温度差がある。勿論、前者が「外人」、後者が「害人」である。
余談だが、「シャモ肉」と言った場合、「軍鶏」のことであり、蝦夷エルフが、「和人」の肉を食べる人喰い人種である、という意味ではないから、くれぐれも勘違いしないように。
「ウェンペ」も「悪党」みたいな意味で使っており、アッシュ少年は、かなりの毒舌であることが分かる。恐らくこの模擬戦がなければ、歓迎されていないだろう。
もう一人の蝦夷エルフの少年ソーンも
「いつも冷静な印象のある、あの【幽者】ユゲタイが、ここまで闘志を燃やす相手……何者だ?」
と、この模擬戦に強い興味を持っているようだ。
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ブルクドルフ氏と常井氏は、登戸研究所の【決闘術】の実習に使う闘技場に移動していた。魔道具の鏡を恰も、映写機の様に用い、白壁にサンケベツ村での郡山青年と弓削青年の二人が決闘する様子を映し出す。
郡山青年と弓削青年の二人は、このブルクドルフ氏と常井氏という師弟から、陰陽術と魔導科学を学んでおり、ある意味、同門ともいえる。そんな二人の同門対決を、二人の師匠は複雑な気持ちを抱きながら観戦する。
何故なら、特に常井氏にとっては、二人とも弟の様な存在であり、しかも、彼等の十年前の決闘の記憶を観戦した際に、既に、【別次元の領域】と呼べる程の死闘をしていたのだ。あれから十年の経験を積んだ二人が決闘したらどうなるのか、想像することさえ、怖ろしい。
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「十年ぶりの決闘か……。」
あれはいつの日の出来事であったか……。それは、遠い過去の記憶でありながら、鮮明に思い出される。
「あれから十年経った。君は表の世界の日本で。俺は裏の世界の蝦夷で。互いに経験を積んだ今、十年前とは、【別次元の領域】に達している筈だ。どちらの世界の経験が優れているのか、検証してみようじゃあないか。」
かつての郡山少年は、魔族を憑依させていたが、今の郡山青年の影には、魔族は潜んでいない。彼は、表の世界の日本で、物理学や数学等を学び、危険物と情報処理の資格を取得しただけの少し成績が上位というだけの大学生に過ぎなかったが、つい最近、裏の世界に来て、荒脛巾皇国にて、陰陽術と魔導科学を学んだ。
一方、十年前の弓削少年は、名門の出身であり、当時既に、危険物や言語学、殺人術等の知識を有していた。そして、裏の世界の蝦夷共和国で、極めて膨大な魔力を持つ、【病みエルフ】と【幽体融合】し、本格的に陰陽術と魔導科学を十年間の修行を積んでいる弓削青年。
「どう考えても俺の方が不利な気がするんだが?」
「まぁ、いいじゃねぇかよ。俺にとってはあの日の雪辱を果たす絶好の機会なんだからよォ。愉しませてくれよ?」
「そうか。それなら、今の俺の力が何処まで通用するか、その試金石とさせて貰おう。ところで、何やってんの?」
弓削青年は、天然ゴム製の風船を膨らましている。
「フーッ、フーッ。決闘開始の合図には、この登戸研究所謹製の『風船爆弾』を使わせて貰うぜ。行くぜ、ミ~カ~ン~の~皮~♪」
「リモネンか。」
ミカンの皮には、「リモネン」という物質が含まれており、天然ゴム製の風船にミカンの皮を搾ってかけると、風船を割ることが出来るのである。
バンッ!
「試合開始ッ!」
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弓削青年は、自身の【コンテナ】に収納されていた、【祟りの凶杖】を取り出す。かつて、弓削青年は、アッシュ少年、ソーン少年との二連戦を制しているが、その際は、【祟りの凶杖】を未入手の状態であった。そんな彼が、奥の手である【祟りの凶杖】を使ったら、何処まで強くなるのか、想像すらできない。
そして、彼がいきなり切り札を用いることを躊躇することなく決定したのだ。あの黒い頭巾付きの外套を着た、郡山青年は、それ程の相手なのかと、アッシュ少年とソーン少年は思った。
弓削青年は、【祟りの凶杖】をフェンシングの片手剣の様に構え、ユラリユラリとした足捌きで左右に揺れ動き、恰も刺突武器の如く突いてくる。そういう武器だったっけ?
「Mutieren Stechen」
独逸流剣術の「変化する刺突」である。
「『変突き』か。」
郡山青年も、最小限の足裁きで、同様に左右に動いて躱す。
だが、まだまだ小手調べ。弓削青年は、恰も魔素を攪拌させるかの様に剣道の巻き小手気味の刺突を繰り出す。
「Durchwechseln」
独逸流剣術の「替え通し」。
郡山青年の前腕に螺旋状に絡みついた魔素が、錬金化して、赤銅色のヒヒイロカネの鎖となり、青白い稲妻が迸る。
弓削青年は、大地に倒れた郡山青年を睥睨し、高笑いをする。
「ククク。あれから十年経ったが……どうやら平和呆けしたようだな。」
郡山青年は、大地に這いながら、改めて弓削青年のその強さに戦慄する。もし、雷属性の奥義【ガルバノ】を使われていたら、一瞬で殺られていた。それは、まるで彼が戦闘を愉しむために敢えて急所を外した様なものだ。
「弱っているライバルに勝てて嬉しいです、なんて言えないよなァ。どうしたァ!もっと、愉しませてくれよ?」
或いは、ヒヒイロカネの鎖が有刺鉄線だったら?現在も継続して、全身を切り裂かれていたであろうと、恐懼する。
一瞬でも気を抜けば殺られる!
「どうした、蝙蝠山卿?俺達の十年は、こんなもので終わるのか?立て!立つんだ!立たなければそこに待っているのは死だけだ。」
「終わる?フフフ。終わるものかぁあああああ!」
郡山青年は、再び立ち上がる。もう迷いはない。
読者諸氏の中には、
「独逸語は、響きが格好良いから使っているのだろう。」
とか、
「アイヌ語を使うのは、何か政治的な意図があるに違いない。」
とか邪推される方もいるかも知れないので、
予め断っておくと、アイヌ語も独逸語も適当です。
作者の専門は物理学なので、言語学は専門外。
そんな門外漢にとって、書店の言語学の棚を見たとき、
使用する言語として優先される要素は何か?
それは……ルビを振ってある本が多いということ。
ルビがないと、それだけで、初学者にとって、敷居が高いと感じます。
独逸語とアイヌ語の本には、ルビを振ってある本が、
比較的多くあるように感じました。初学者にオススメ……かなぁ?




