第61話 【冥界入口(アフンルパラ)】であって、【冥界(ポクナモシリ)】ではない
ブックマーク等して下さった方に感謝します。
続きが読みたいという意思表示と判断し、
第陸章の執筆を開始することにします。
2021/08/30(月)列車の外観について、少し修正。
2021/10/01(金)第漆章→第陸章に変更。
郡山青年は、【転移の鳥居】から、【蝦夷共和国】へ転移した。
しかし、ここは【蝦夷共和国】ではないだろう。どう考えても列車の中である。列車の内装は、鉄道博物館に展示している、明治時代や大正時代に走っていた汽車の様な車両を思わせる、木目と赤い座席が特徴であった。
しかもこれから車庫に入る車両なのか、自分以外誰も乗っていない。いや、以前も同様のことがあったな。
荒脛巾皇国の首都、【荒脛巾】へ転移するとき、ブルクドルフ氏は、何故か【蜘蛛神社】へ転移させた。結局、あの時、【蜘蛛神社】へ転移させられた理由は何だったのだろうか?
・可能性1:ブルクドルフ氏がやらかした。あの爺さん、結構抜けているところあるからな。
・可能性2:転移自体が結構繊細な技術。転移先の微調整が難しいのかも知れない。
・可能性3:何者かの妨害。未だ正体不明の黒幕とやらが関与か?
・可能性4:ブルクドルフ氏に何らかの思惑がある。まぁ、突然、一面の銀世界に放り出されるよりはマシではあるが。
そして、どうやら今回は、可能性4が正解のようだ。列車内の液晶画面にブルクドルフ氏の映像が映し出される。こちらの動作に反応しないところから鑑みるに、事前に録画された映像と思われるが……。
「列車がトンネルを抜けた後、停車する駅は、かつては、終着駅だった。今はその先にも駅が出来たが、必ず、その駅で降車すること。今はまだ、その先の駅に行ってはいけない。」
それだけを言い残し、映像は消えてしまった。
郡山青年は、ブルクドルフ氏の指示通り、トンネルを抜けた直後に列車が停車した駅で降りた。
降りた列車は、1両編成で、「スカ」色の紺色を黒に、クリーム色を白にした、所謂「お葬式色」で、殆どが白黒の中に若干の金色の帯があり、まるで、霊柩車を想起させる。そんな悪趣味な外装の列車は、扉が閉まり、駅を発車していった。
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10年前は、駅舎すら存在しない程の田舎だったという、水色のフェンスに囲われた、その駅にも、仮設ではあるが、駅舎らしき小屋が建っていた。
駅名標は、日本語ではない文字で、
【Афунрупар】
と書かれており、そのまま電車に乗っていた場合、次に停車する駅の名
【Покнамосир】
も隣に併記されていた。郡山青年は、Webサイトや論文作成用言語の多言語処理等で、見たことがあったので、キリル文字であることに気付く。
確か、キリル文字は、アルファベット通りの発音で読む筈だが、露西亜語の単語ではない気がする。抑も、ここ異世界だし。
その時、背後に誰か人が立っていることに気が付く。弓削少年から影の動きで読む技を教わっていなかったら、決して気が付くことは無かっただろう。
「ようこそ、アフンルパㇻへ。」
その者は、幽霊と言っても過言ではないぐらいの気配で、この白銀の世界で、暗殺者の如く、物音一つ立てずに、背後に忍び寄ってきていたのだから。
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背後に立っていたのは、黒に限りなく近い灰色、灰黒色の髪の地元民の青年だった。
彼こそが、常井氏とブルクドルフ氏が言っていた、現地の協力者、即ち、蝦夷共和国側の拠点の結社の構成員であった。
「アフンルパㇻ?」
「『アフンルパㇻ』は、アイヌ語で『冥界への入口』っていう意味だ。君は表の世界の日本から来たと聞いているから、こう言った方が分かり易いかもな。【蝦夷共和国】の公用語は、表の世界の『アイヌ語』に相当している。向こうでは、もう母語話者は殆どいないらしいがな。とはいえ、この世界では、キリル文字やギリシャ文字、或いは、古英語や中英語で使われていたアルファベットで転写するから、殆ど別言語かも知れないがな。」
自己紹介より先に場所の説明を始めたぞ、この地元民。まぁ、彼が本当に暗殺者であれば、自己紹介などするわけがないか……。
「ああ。この駅で降りるように、と言われたのでね。」
それとも、以前どこかで会ったっけ?いや、この声に聞き覚えはない。完全に初対面の筈だ。それでも、この喋り方。抑揚が、過去に会った誰かに似ている気がするな……。
「この駅で降りるのは、当然さ。次の駅は、『ポㇰナモシㇼ』。文字通り、アイヌ語で『冥界』っていう意味だからね。ここは、【冥界入口】であって、【冥界】ではないのさ。」
まさか……あのまま列車に乗っていたら、死んでいたとでもいうのか?
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「では、まず、政治結社【草茅危言】の蝦夷共和国における拠点にご招待するとしよう。」
この地元民の青年こそ、【蝦夷エルフ】の短命種、【病みエルフ】の少年と【幽体融合】、略して、【幽合】をした弓削青年、【幽者】ユゲタイである。
容貌も声紋も変わっているため、郡山青年は、彼がかつての弓削少年であることは、まだ気が付いていない。
弓削青年の方も、【幽体融合】の影響なのか、過去の記憶が若干曖昧になっており、どこか懐かしい声だとは思うものの、眼前に立っている青年が、かつての郡山少年が成長した姿である、という確信には至っていない。
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政治結社【草茅危言】の蝦夷共和国における拠点に到着する。
「俺は、ここを拠点として、サンケベツ村周辺の生態系の異常に関しての調査という任務に就いている。」
「サンケベツ村?」
「サンケベツ村は、【蝦夷エルフ】の集落だな。」
「でも、君だって【蝦夷エルフ】だろう?」
「違う。俺は、【蝦夷エルフ】じゃない。この身体は、【蝦夷エルフ】の短命種で、通称【病みエルフ】と呼ばれている。『光と闇』の『闇』ではなく、『精神を病む』方の『病み』だ。」
「不治の病なのかい?」
「どちらかと言えば、病ではなく、呪いの類いだな。サンケベツ村の蝦夷エルフの連中には、【祟りの子】とも呼ばれているから、『呪い』と言うよりは、『祟り』かもな。」
「解呪できないのか?」
「ある意味では、『特性』だからね。【蝦夷エルフ】の寿命は、普通の人族の1.5倍から2倍。その突然変異である短命種の寿命は、普通の人族と同程度。けれども、寿命の代わりに、長命種を凌ぐ強力な魔素探知能力、即ち、【魔力】を有しており、白銀の髪に真紅の眼という、『アルビノ』の外見も合わさって、恐怖の対象となっているらしい……。」
「でも、君は『アルビノ』には見えないけど?」
「ああ。俺は、厳密には【病みエルフ】でもない。ある意味では、俺は、ここで生まれた。【病みエルフ】の身体と、表の世界の日本人の魂を【幽体融合】、略して、【幽合】させることによってな。俺は、そういった経緯により、幽体離脱の『幽』に、暗殺者の『者』と書いて、【幽者】の称号を持っている。」
「では、君は……日本人なのか?!」
「その通りだ。」
衝撃的な事実だった。彼は、この世界で出会った初めての自分以外の日本人なのだ……。
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「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は、郡山俊英……。」
「蝙蝠山卿だと?!」
今度は、【病みエルフ】の青年の方が驚く。若干曖昧だった過去の記憶が鮮明になる。
「君は、俺の渾名を知っているのか……?」
「ああ、勿論知っているとも。君こそ俺のことを忘れたか?この世界での俺の名前は『ユゲタイ』と呼ばれているが、それは、日本に居た頃の『弓削泰斗』という名前に由来するのだからな。」
「生きていたのか?」
「俺がいなくて淋しかっただろう?」
本来なら二度と聞くことが出来ない筈の【死者の聲】を聞いて、郡山青年は混乱した。
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「どうやら君の世界線では、俺は既に死んでいるようだな。俺の……死体でも見たか?ちゃんと死体を確認したのか?ククククク。」
「いや、正確には、君が昏睡状態となって、函館の病院に行ったという噂以降、情報が途絶えている。」
「では、君にとっては、まだ俺が死んだという未来は確定していないわけだな。」
ここは、【冥界入口】であって、【冥界】ではない……。
「まさか、シュレーディンガーの猫じゃあるまいし……。」
「だが、本来、君の隣にいるのは俺でなくてはならないだろう?」
「俺がこの世界に来た意味が漸く分かったよ。でも、どうすれば君を取り戻すことが出来るんだ?」
「その答えはきっと、この世界の何処かにあるのだろう……。」
そして、二人は、生態系の異常に関しての調査のため、サンケベツ村へと向かった。
ラテン文字からキリル文字への転写自体、複数通りの表記法が考えられるため、
本文のアイヌ語のキリル文字転写が、必ずしも正しいとは限りません。
あと、最近知ったのですが、「きさらぎ駅」等の異界駅の話があるらしい・・・。
本作はあくまで「架空鉄道」の範疇のつもりですが、
設定が似ている側面があるので、何か使えそうかも?




