第6話 【荒脛巾(アラハバキ)】の民とは何か?
架空の設定とはいえ、論説文のようになってしまうなぁ。
一応、登場人物の台詞の形式をとっているので、小説の範疇には入るでしょうけど。
【荒脛巾】首都にある屋敷にて。
【大皇】は、郡山青年にこの世界の概要を説明していた。
「さて、話が脱線してしまったが、この世界のことについて説明しよう。といっても、久方振りの客人故、何から説明したら良いか……。そうだな。寧ろ質問があれば、答えられる範囲で極力答えていこう。」
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「【大皇】は、自分を滅ぼした大和民族を憎んでいないのでしょうか?一応、自分も表の世界の出身で、大和民族の末裔、ということになると思うのですが、随分親切に、それこそ国賓待遇ともいえる歓迎を受けている様な気がして。」
「大和民族は、全ての【荒脛巾】の民を殺戮したわけではない。連中は、『和』というお題目を唱えるが、言い換えれば、『皆で仲良くやろう』という意味だからな。時代を経て、両者の血は混ざっていった。つまり、現在、表大和の者は、大和民族の末裔であると同時に、【荒脛巾】の民の血を引いている者もいるのだ。それを見分ける方法がある。【荒脛巾】の民の血を引いている者は、総じて、魔素検知能力、即ち、【魔力】が高いのだ。故に、他人の転移に巻き込まれて転移することも出来る。」
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「ブルクドルフ氏は、どう見ても大和民族ではないですよね。彼の【魔力】が高い理由は?」
「造物主がこの裏世界を創造した際、西洋では【悪魔】と呼ばれる堕天使が3柱ほど、裏世界の創造に関与した。極東の八百万の神々は、当時の亡命者達にも寛大だったというわけだ。その亡命者達の出身は、現在のギリシャ辺りだろう、といわれている。中には熱心な信奉者もいたに違いないから、ブルクドルフ殿は、その血を引いているのではないか?だから、吾の転移に巻き込まれた可能性が高い。」
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「【大皇】は2600歳以上、ブルクドルフ氏も150歳近く。長命といっても、これはもはや別次元の領域。これは何故でしょう?」
「【魔力】が高い者は、それを自身に適用することによって、老化を抑え、寿命を延ばせる。定かには分からぬが、両者の世界で転移を繰り返したことにも起因するかも知れない。或いは、肉体の一部を人工物で代替すれば、人造人間になる。」
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「では、【荒脛巾】の民は長寿の傾向が高いと?」
「そうとも限らない。初期の大和朝廷の統治者の中には、120年国を治めたという記録がある。当時の平均寿命が30歳代だとしたら、これは当時の記録を現代の基準で考えることが間違いではないかと考えがちだ。しかし、この記録は正しいとしたら?」
「大和民族にも長命の者がいた?」
「日本列島がプレートの移動によって、ユーラシア大陸から切り離されて以降、初期に海を渡り、列島に住み着いたのが、所謂縄文人。それが、【荒脛巾】の民や、アイヌ民族の祖先だ。それから時が経ち、大陸から渡ってきた者達が稲作を伝えたという、弥生人。縄文人と弥生人は混交していった。現在の大和民族の祖先だ。そのどちらでもない者がいた。これが【神族】と呼ばれる者達だ。」
「当時の人間の平均寿命が30歳代である中において、【神族】は120年以上の寿命を有し、当時の文明の水準を越える、別次元の領域とでも形容すべき知識と知恵を持っていた。それ故に、人間からは畏敬の念を持たれ、崇拝された。【神族】もまた、縄文人や弥生人と混交していき、平均寿命は次第に均され、人間の平均寿命は長くなった。大和民族も【荒脛巾】の民も、祖先を辿れば遠い親戚関係にあり、特に、【神族】の血を濃く引いている者は、【魔力】が高かったり、長命だったりする。」
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【荒脛巾】の民とは何か?【悪魔】と【神族】。まるで、理解を超えた【別次元の領域】が、神話と科学の狭間にあるようだ……。