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別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
第伍章 玖球(クーゲル)帝国の過去編
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第59話 「聞け、【死者の聲(こえ)】を!」

 ネメシス・ダムドは、自ら拷問ともいうべき尋問をケイカに実行して、既に、【瀬戸】の水軍が玖球(クーゲル)帝国の領土に上陸し、反ネメシス・ダムド包囲網が築かれている事を知るのだった。


「先代公爵が病に(たお)れたのは、【死神兄弟】の仕業ニャ。アタイは、湖の水底(みなそこ)に沈めて埋葬されていた、【死神兄弟】を【死靈術(しりょうじゅつ)】によって蘇らせてやったのニャ。そして、先帝の失脚は、努力教の元・枢機卿(カーディナル)、キャプテン・イグアナが主犯ニャ。奴もアンタに恨みを持っているから、勿論、今回の反ネメシス・ダムド包囲網にも加わったニャ。」


 【死靈術(しりょうじゅつ)】は、【陰陽術】の中でも、禁術級の術である。


活力吸鬼エネルギーヴァンパイアや、努力教、反知性主義者、売国奴といった、儂が憎んでいる存在を全て揃えたとでもいうのか……。」


 だが、ネメシス・ダムドは、全く動じない。身の程知らずの有象無象の相手をすると思えば、少し憂鬱ではあるが、武闘会以降、体がなまってしまっているから、丁度いい運動になる、程度にしか思っていない。


――――――――――――――――――――――――――――――


 ネメシス・ダムドは、一人で砦から飛翔する。


「敵の大将が一人で出てきたぞ。討ち取れぇ~」


 元寇の際、名乗りを上げる日本の武士に対し、蒙古軍は集団で毒矢や「てつはう」と呼ばれる、手榴弾のようなものを浴びせたという話は有名である。


 だが、宙に屹立し、睥睨する者の闘志は、微塵も揺らぎはしない。


「有象無象が。【渾沌昇華】!」


 紫と黄色の魔力色をした炎が、まるで床屋のサインポールの如く、ネメシス・ダムドの周囲を、二重螺旋を描きながら上昇していく。


「【鎧袖一触】!」


 紫炎を纏った不死鳥が飛翔し、敵の群れへと急降下すると、大地は、深く抉れてクレーターと化し、敵は全て弾き飛ばされ、地面に叩き付けられ、その殆どが気絶する。


「この程度で、儂に挑むとは笑止。片腹痛いわ。」


 再び飛翔して、宙に屹立し、睥睨する。今度は立ち上がる者はいない。だが、その静寂を破るかの如く、パチパチパチと拍手の音がした。


「御機嫌よう。新たなる玖球(クーゲル)帝よ。私が、【瀬戸】の領主の()ィ~(ざァ~きィ~)だァ~。」


鬼裂(きざき)」と名乗る、この道化師(ピエロ)の様な者は、ニタニタと(わら)い、左手を背に、右手を胸に当て、慇懃無礼なお辞儀をするのであった。


「さあ、降りて来いチャンピオン!」


 まぁ、間違ってはいない。武闘会の優勝者(チャンピオン)が、帝位に就くことで、玖球(クーゲル)帝となるのだから。


――――――――――――――――――――――――――――――


 どうやら、先方も敵の大将が自ら前線に出てきて、一騎打ちをご所望のようだ。


「【鎧袖一触】!」


 紫炎を纏った不死鳥が体当たりをする。しかし、


「【夢幻泡影(むげんほうえい)】!【衝突判定:無効】!」


鬼裂(きざき)の肉体の濃度が一瞬で薄くなり、透過してすり抜ける。


「変化とは卑怯な。」


「変化を喰らう方が悪いとは思わんかね?アッハ、ハハハ、ハッハ、ヒィ。」


 鬼裂(きざき)は、高笑いしながら、数枚の「型紙」を片手に持ち、手札を扇の様に拡げて呪詛を唱え出す。


「聞け、【死者の(こえ)】を!【百鬼夜行】!」


 型紙から召喚されたのは、【死神兄弟】とキャプテン・イグアナであった。腐敗したゾンビの様な彼等は、黒板を爪で引っ掻いた様な、或いは、ガラスを金属製の爪で引っ掻いた金属音の様な、声で歌い始めた。


「こうなった~のは、お~前のせいだ。こうなった~のは、お~前のせいだ。こうなった~のは、お~前のせいだ。こうなった~のは、お~前のせいだ。ど~してくれる~?!ど~してくれる~?!ど~してくれる~?!ど~してく・れ・る~う↑ ~?!」


「……。」


「さァ、【死者の(こえ)】を聞いて混乱だァ~。イ~ッヒッヒッヒ~。」


「過去の亡霊如きが囀るな。永遠なる墓の下で、黙って寝てろ。」


「【鎧袖一触】!」


 紫炎を纏った不死鳥によって、有象無象が弾き飛ばされる。


 ばさばさ、バサバサ。


 だが、それでも【死神兄弟】は立ち向かってくる。


「ほう。その背中の羽を毟られたいのか?だったら、その背中の羽を毟ってやろうか?背中の羽を毟り取ってやるからな!」


 ドグシャ!ボコボコボコ!バキッ!


「【一気呵成】!」


 バシク、バシカラ、バシク、バシカリ、バシ!

 バシキ、バシカル、バシケレ、バシカレ!


「【シシ切断】!」


 聖剣【電動鎖鋸(チェーンソー)】により、ゾンビ共は、文字通り、「四肢」を切断され、両手両足を奪われて、その動きを止める。


――――――――――――――――――――――――――――――


「次の相手は誰だ?と言いたいが、残っているのは貴様だけのようだな。【瀬戸】の領主の鬼裂(きざき)よ。覚悟は出来ているか?」


「イ~ッヒッヒッヒ~。先程の攻防をもう忘れたのか?私は、既に半分精霊と化している。玖球(クーゲル)帝よ。貴様に私は(たお)せない。アッハ、ハハハ、ハッハ、ヒィ。だが、余程死に急ぎたいようだな。では、望み通り死を与えてやろう……何者だ?」


 だが、そのとき、鬼裂(きざき)の背後の影、その地面の中から、ヒヒイロカネ製の鎖が出現し、鬼裂(きざき)を縛り上げてしまった。


「これはこれは。第参皇児(だいさんおうじ)殿。」


常井参狼(つねいさぶろう)荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)第参皇児(だいさんおうじ)。文部卿、登戸研究所所長、暗黒学問塾(シャドウ・アカデミー)学長。陰陽術士にして、魔導科学者。政治士にして、魔導師。黒髪長髪、痩身にして長身、眼光の鋭い巨漢である。


鬼裂(きざき)ィ……貴様ァ!独断で、玖球(クーゲル)帝国に戦争を仕掛けた上に、返り討ちにあうとはな。当然覚悟は出来ているのだな?」


 皇族に相応しい威厳のある喋り方と、貫禄のある外見から放たれる殺気にも似た威圧感。


「良かれと思って。アッハ、ハハハ、ハッハ、ヒィ。」


 だが、鬼裂(きざき)は、怖じ気付くことはない。【瀬戸】の領主という地位は、荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)大皇(おおきみ)とは、義兄弟の関係にあり、いつでもその座を脅かすことができる存在なのだ。


 また、精霊化とは、無機知性体と契約することにより、生来与えられし寿命を超過しても存在し続けることをいう。これこそが、荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)大皇(おおきみ)が2600歳以上、ブルクドルフ氏が150歳近く、生きている理由でもある。


 精霊化した存在は、同様に精霊化した存在でなければ、(たお)せない。(たお)せなくても、ある程度なら、魂に損傷(ダメージ)を負わせることは出来るのだが。

 【瀬戸】の領主である鬼裂(きざき)も、既に半分精霊と化している。従って、(たお)すことは殆ど不可能と言っても過言ではないだろう。


――――――――――――――――――――――――――――――


 常井氏は、現状を鑑み、妥協案を探る。


 既に、開戦しているが、玖球(クーゲル)帝国側の本土襲来は避けたい。


「ハァ・・・。貴様には何を言っても無駄か……。玖球(クーゲル)帝閣下。この者はこちらで引き取りますので、停戦協定に調印を……?」


 だが、何故か玖球(クーゲル)帝は、興味深そうに常井氏を観察していた。


「お前、強そうだな。」


「は?」


 常井氏は、嫌な予感がした。


荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)第参皇児(だいさんおうじ)殿は、噂では、長兄や次兄に比べると、()えない青年だと聞いていたが、実際に会ってみると、噂の方が間違っていたのだろうな。」


「初対面の相手に随分と失礼ではないかね?噂では、玖球(クーゲル)帝閣下は、型破りで破天荒な方であると聞いてはいたが、噂通り、随分と【豪放磊落】な御仁のようですな?」


「儂にも同い年の双子の叔父がいた。昔から何かと抑圧してきて、邪魔だったから抹殺したが、第参皇児(だいさんおうじ)殿も、兄貴達に抑圧されて、本来の力を発揮出来ないのではないか、と親近感を持ってな。」


「貴殿にどのような親族がいようが私は構わんが、兄者達は、天賦の才があり、凡庸な私を憐れんでいるくらいの人格者だ。」


「だが、今彼等は此処には居ない。」


「兄者達は、大臣(おおおみ)大連(おおむらじ)という多忙な地位に就いており、私も彼等ほどではないが、それなりに多忙ですからな。」


「時々はある程度息抜きも必要ではないか?儂も事務作業ばかりでは、体がなまってしまうからな。そういう意味では、今回は良い息抜きになった。」


「は?」


 今後、この脳筋の息抜きの度に、本土が蹂躙されてしまうのか?それだけは何としても避けなければならない。


「私は、和睦のために参ったのだが、貴殿は、停戦協定に調印しては頂けないというのか?」


「ん?和睦?良かろう。停戦協定?それも別に調印しても構わんぞ。だが、条件がある。」


「条件?戦没者の遺族への補償か?【瀬戸】の水軍はともかく、玖球(クーゲル)帝国側の被害は皆無のようだが?」


第参皇児(だいさんおうじ)殿は、強そうだからな。ここでは、貴公の兄貴達に遠慮する必要は無い。全力の貴君との一騎打ちでの模擬戦を所望する!」


「ハァ……。貴殿にも何を言っても無駄か……。仕方ない。模擬戦の件、受けて立とう。」


――――――――――――――――――――――――――――――


 常井氏は、この面倒な試合を早く終わらせて、公務に復帰しようと考えていた。


 ネメシス・ダムドの背後の影、その地面の中から、ヒヒイロカネ製の鎖が出現し、ネメシス・ダムドを縛り上げる。


「勝負ありですな。」


 このヒヒイロカネ製の鎖には、魔力を吸収する力があり、拘束してしまえば、鬼裂(きざき)でさえ、無力化されてしまう。


「フンッ!」


フチブチ、フチブチブチッ!


 だが、ネメシス・ダムドは、少し筋肉を隆起させただけで、ヒヒイロカネ製の鎖による拘束を破ってしまう。


「もっと攻めて来い。どうした?もっと、攻めて、来い!」


「左様か。では、これならどうだ?【一酸化二水素ジヒドロゲンモノオキシド】!」


 拘束することが無理だというのなら、鉄砲水の水圧で吹き飛ばしてやろう。だが、その常井氏の目論見は通用しない。水流は、【鮫肌水着】に当たった瞬間に切り裂かれていく。


(ぬる)いぞォ!【渾沌昇華】ァ!」


 紫と黄色の魔力色をした炎が、まるで床屋のサインポールの如く、ネメシス・ダムドの周囲を、二重螺旋を描きながら上昇していく。


「何ィ?!【二重魔軸】だと?!」


 通常、魔力色は、単色が普通だが、合体種である【マンティコアノイド】は、複数色の魔力色を軸として組み合わせることが出来る。それが【二重魔軸】だ。勿論、使いこなすのは難しいが。


「そちらから来ないのなら、こちらから行くぞ。【一気呵成】!」


 バシク、バシカラ、バシク、バシカリ、バシ!

 バシキ、バシカル、バシケレ、バシカレ!


 掌打、掌底、裏拳、といった乱打を、魔方陣の障壁を生成し、それを盾にして防いでいく。乱打が命中する度に魔方陣は、消滅していく。


「フハハハハ。愉しい。愉しいぞ。」


「私もだ。信じられないが、どうしようもない。」


――――――――――――――――――――――――――――――


 生成と消滅の速度は、拮抗していた。


「フハハハハ。どうした?防戦一方ではないか?」


「だが、貴様の技は全て防いでいる。」


「本当にそう思うか?では、我が奥の手を見せてやろう!【獣形態】!」


 【マンティコアノイド】の(ビースト)形態(モード)は、勿論、「マンティコア」である。


「先祖返りか?【影縫い】ッ!」


 「マンティコア」形態の時には、【マンティコアノイド】の時の理性は殆ど残っていない。常井氏がヒヒイロカネ製の鎖を出現させ、マンティコアとなったネメシス・ダムドを拘束しても、ただ狂ったように暴れるのみ。


「マンティコアも【マンティコアノイド】も毒物が効かないらしいですな。では、劇物も同様ですかな?カプサイシンを経口投与!」


 【緑のフラスコ】の中身を口の中に流し込まれ、苦しむマンティコア。捕食者と被捕食者の関係が逆転した瞬間だった。


「オオオオオォ、オオオオオォ、オオオオオォ!」


 『カプサイシン』は、唐辛子の主成分であり、マンティコアは、蝙蝠の翼と蠍の尾を持っているだけの獅子(ライオン)、即ち、究極的には、猫の一種に過ぎない。


「テオブロミンを経口投与!」


 続いて、投与した『テオブロミン』は、チョコレートなどのカカオ加工製品にも含まれている物質であり、犬や猫にとっては死に至ることもある猛毒である。


「ööööö、ゑゑゑゑゑ、æ"æ"æ"æ"æ"!」


 マンティコアは、苦しみのたうち回った末に、(ビースト)形態(モード)を解除して、【マンティコアノイド】に戻った。


「御機嫌よう。」


「……。」


 理性を取り戻し、両者の間に沈黙が訪れる。今日は、調子に乗り過ぎた……。


 結局、模擬戦は引き分けに終わったが、常井氏とネメシス・ダムドは、互いを好敵手(ライバル)と認識するに至った。


――――――――――――――――――――――――――――――


 停戦協定において、唯一出された講和条件、それは……名目上は、異種族の交流によって、相互理解を深め、平和の礎を築くこと、実際には、常井氏の管理する、荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)の教育機関に、玖球(クーゲル)帝国の留学生が留学に行くことを受け入れることである。


 その役割に選ばれたのは、【ノワール般若】と改名したケイカだった。


 こうして、荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)玖球(クーゲル)帝国の間に不可侵条約が締結されたのであった。

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