第57話 「儂がセイケンをとったからには~」
ネメシス・ダムド 対 ドンザ・ウルス。
闘いは続いていた。だが、ネメシス・ダムド側としては、愉しんでばかりもいられない。
戦績で2勝1引き分けのスサノオ・ニーチェに並ぶ必要があるからだ。
「「次で決めるぞ!!」」
二人の声が重なる。その重ねの響きは、嵐の前の静けさを生み出した。だが、一瞬の静寂は、すぐに破られる。先に動いたのは、ドンザ・ウルスの方だった。
というのも、既に、蠍の尾を縫い止めるため、三叉の鉾は地面に刺さっており、火炎放射も超音波によって封じられている。盾で防ぐだけでは、膠着状態に陥ってしまうだろう。
「カイテンの時間だァ!!」
だから、盾を捨てた。いや、正確には、盾が変形して、その中から廻転鋸が出てきた。それは、八方手裏剣のようにも、血滴子のようにも見える暗器だった。
因みに、ドンザ・ウルスは、食堂【丼次郎】の経営をしており、「カイテン」は、「廻転」と「開店」を掛けているらしい。
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「まさか、こんなに早く使うことになるとはな。」
ドンザ・ウルスの廻転鋸に対抗して、ネメシス・ダムドが取り出したのは、ボルゾ・イぞい将軍から寄贈された、【ワン公の腕甲】。
廻転鋸の刃は、腕甲によって阻まれる。ドンザ・ウルスは、尻尾で腕甲を弾こうとして、逆に尻尾を掴まれる。ネメシス・ダムドは、両手で尻尾を掴んだまま、片足を軸にして廻転をかけていく。
そして足を掴んでいた両手を放すと、ドンザ・ウルスは遠心力の勢いで投げ飛ばされて行った。場外判定である。
「勝者、ネメシス・ダムド!」
審判が勝者の名を高らかに宣言し、これで全ての試合が終わった。
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武闘会の優勝者は、百万年の歴史を踏みしめた大地から、聖剣を引き抜くという儀式を経て、帝位に就くことになる。因みに、この聖剣は、先帝が自ら埋めたものだという。
しかし、今回は、2勝1引き分けという戦績で、ネメシス・ダムドとスサノオ・ニーチェが並んでいる。
もし、決定戦を行えば、死闘となることは必至。どちらかが絶命するというリスクをも孕んでいる。
前回大会の決勝戦進出者4名、即ち、先帝、先代ディアヴォロス公爵、スサノオ・ニーチェ、ボルゾ・イぞい将軍、が前回の四天王である。
今回は、前回と2名が同じ組み合わせである。そのことに鑑み、スサノオ・ニーチェが先にこの聖剣を引き抜くという儀式を行う、という順番となったわけだが・・・結論を先に言うと、スサノオ・ニーチェは、聖剣を引き抜くことが出来なかった。
ばさばさ、バサバサ。
本人は、潔く諦め、爽やかな表情で、領主として治める南方の島々へと戻るため、飛び立っていった。
ネメシス・ダムドに順番が回ってくる。そこで彼は考えた。単純に考えて、力ずくではこの聖剣を引き抜くことは出来ないのではないか。
この聖剣を埋めた先帝の得意とした属性は何か。雷属性。魔力色は黄色。彼は聖剣を大地に突き立て、幾度も大地を割った。
ネメシス・ダムドの魔力色は、紫と黄色。そこで、前者を弱め、後者を強めてみる。更に、雷属性の魔力を帯びた状態で、聖剣の柄に手を触れると、ブーンという駆動音とともに、聖剣が起動し、聖剣を引き抜くことが出来たわけだが・・・。
どう見ても、この聖剣、【電動鎖鋸】である。
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戴冠式。帝位に就いたネメシス・ダムドは、警備員のケヴィンから寄贈された【牛骨の冠】をその頭に戴き、就任演説を行う。
「この玖球帝国は今、未曾有の国難にある。活力吸鬼!努力教!反知性主義者!売国奴!こうした連中が跋扈し、国力を低下させようと日々、暗躍しておる。だが、儂がセイケンをとったからには~その様な事は許さぬぞ!~」
そして、この「セイケン」が、「聖剣」と「政権」を掛けていることは、勿論、言うまでも無いであろう。
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新玖球帝となったネメシス・ダムドであるが、帝位に就いたからとはいえ、別に型破りで破天荒な側面は変わらない。
戦闘訓練と称して、近衛中隊全員を叩きのめして病院送りにしたり、競泳用の【鮫肌水着】の耐久性能試験と称して、表の世界の日本における、『桜島』まで遠泳したり、しかも、筋肉を隆起させるだけで、背広がブチブチッと破れてしまうので、その【鮫肌水着】を普段着として着用していたりする一方、【コンテナハウス】の技能を普及させて、浮浪者を減らしたり、といった時代の先端を行き過ぎた事もしていたので、所謂「暴君」とまでは言われていないものの、【魁帝】、【賢帝】、【魔王】等といった様々な称号が乱立することになる。
因みに、ボルゾ・イぞいは、引き続き、将軍に留任。スサノオ・ニーチェも、引き続き、空軍の提督と、南方の島々の領主を兼任。ドンザ・ウルスは、帝都ニライカナイにある、都市探索協会の玖球帝国側の本部長と、その付属の食堂【丼次郎】の経営をしている。
「カイテンの時間だァ!!」
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だが、その平和も長くは続かない。数年後、政権交代直後の混乱もまだ続いているその時期に、表の世界の日本では、『四国』に相当する領地【瀬戸】を治めている領主が、独断で、玖球帝国に戦争を仕掛けてきたのである。




