第56話 【赤と緑のキョウエン】
玖球帝国の首都、【ニライカナイ】にて、開かれた武闘会。
ネメシス・ダムドは、数々の強豪を倒して、次々に勝ち進み、ついに決勝戦に進出するのであった。
決勝戦に勝ち残った猛者は以下の4名。
【マンティコアノイド】にして、ディアヴォロス公爵家嫡男「ネメシス・ダムド」。
【恐竜人間】「ドンザ・ウルス」。
【狗族】の【人面犬】、「ボルゾ・イぞい」将軍。
【鳥人族】の【朱雀鳳凰】種、「スサノオ・ニーチェ」。
【狗族】の「ボルゾ・イぞい」将軍は、「犬獣人」や「人狼」を想像すれば、分かり易いだろう。
通常の彼は、犬面人とでも形容すべき魔人だが、実は、獣形態として、四足歩行の魔獣になることも出来て、その姿は不断とは逆に、【人面犬】なのである。
【鳥人族】の「スサノオ・ニーチェ」は、玖球帝国の南方の島々を治める領主であり、空軍の幹部でもある、「朱雀」と「鳳凰」の合体種、【朱雀鳳凰】種の鳥人である。
東西南北を司る、「青龍」、「白虎」、「朱雀」、「玄武」は、「四神」と呼ばれ、件の「朱雀」は、「赤帝」とも呼ばれ、「南」の方位を司る他、「夏」や「赤」を意味し、五行では「火」を表す。
一方、「鳳凰」は、「麒麟」、「霊亀」、「応竜」とともに「四霊」と呼ばれる。朱雀は、鳳凰の眷属であるとか、或いは、両者を同一視する場合もある。
同一視の所為か、「火の鳥」の印象が強いが、本来、「鳳凰」が司るのは、「火」ではなく、「風」という説もある。また、鳳は雄、凰は雌を指すという説もある。
この世界では、「朱雀」は、赤い羽を持ち、「火」を司る。「鳳凰」は、緑の羽を持ち、「風」を司る。
そして、両者の合体種である、【朱雀鳳凰】種は、赤と緑の2対4枚の翼を持ち、それが進化した魔人は、鳥頭の天使のような外見をしている。
――――――――――――――――――――――――――――――
武闘会の決勝戦は、遺恨を残さないように、総当たり戦で行われる。しかし、死闘とはいえ、人死にが出ることは極力避けたい。
何故なら、決勝に勝ち残った4人の実力者は、「四天王」と呼ばれ、帝位に就く優勝者以外も、全員が要職に就くエリート四人衆だからだ。
ドンザ・ウルス 対 ボルゾ・イぞい。
ドンザ・ウルスは、両手に槍のような長柄の武器と盾を装備している。一方、ボルゾ・イぞい将軍は、【闘犬の刀劍】という伝家の宝刀と【ワン公の腕甲】を装備している。
「行くぞ。【犬から狗へ】。」
「来い。痩せ犬が。」
ボルゾ・イぞいが獣形態に変身し、ドンザ・ウルスが盾で防御する。
恐竜人間である、ドンザ・ウルスは、尻尾を第三の足の様に使い、ボルゾ・イぞいの追撃を躱す。
更に、口から吐いた体液が空気中で引火し、その竜頭は、擬似的な火炎放射器の様相を呈する。
相手に、飛びつき、掴んで、投げる。
相手に、飛びつき、掴んで、投げる。
相手に、飛びつき、掴んで、投げる。
互いにこうした一連の流れを繰り返す。
相手に、飛びつき、掴んで、投げる。
相手に、飛びつき、掴んで、投げる。
相手に、飛びつき、掴んで、投げる。
そして、両者は根比べの様相を呈してくる。
「そこまで。」
やがて、審判が時間切れを宣言して、両者引き分けとなる。
――――――――――――――――――――――――――――――
ネメシス・ダムド 対 スサノオ・ニーチェ。
両者とも飛行能力を有する、この組み合わせは、事実上の決勝戦と言っても過言ではないだろう。
先帝は麒麟系の牛頭だった。麒麟と鳳凰は、どちらも「四霊」と呼ばれ、ある意味では、先帝の好敵手と言っても差し支えない実力がある。
実際、【朱雀鳳凰】種の鳥人である、スサノオ・ニーチェは、朱雀と鳳凰、「四神」と「四霊」の、その両方の力を宿しており、少なく見積もっても、二人分の戦闘能力を有しているだろう。
そんな彼が、南方の島々という辺境の地域を治める領主の地位に甘んじていたのか。甚だ謎であった。しかし、今その謎が暴かれようとしていた。
「スサノオ・ニーチェ、インストールしようねぇ!」
「は?」
そう、この御仁、意味不明なのである。
「【ドレッド・レッド】、インストールしようねぇ!」
スサノオ・ニーチェは、赤い魔力色を帯びた紅炎を纏う。
「【ボブ・グリーン】、インストールしようねぇ!」
スサノオ・ニーチェは、更に緑の魔力色を帯びた炎を纏う。
やがて、赤と緑の炎は、まるで床屋のサインポールの如く、スサノオ・ニーチェの周囲を、二重螺旋を描きながら上昇していく。
「【赤と緑のキョウエン】!!わーはっははー。」
ここで、「キョウエン」は、「共演」と「饗宴」を掛けているのだろう。
「この技は?!」
見たことがある。それは当然だろう。ネメシス・ダムドは、これと同等の技を使えるのだから。
「面白い技だが、儂には通用しない。【渾沌昇華】!」
紫と黄色の魔力色を帯びた炎が、まるで床屋のサインポールの如く、ネメシス・ダムドの周囲を、二重螺旋を描きながら上昇していく。
複数の魔力色を同時に顕現させる技は、合体種の十八番だが、それは、【朱雀鳳凰】種だけの特権ではない。
獅子と蝙蝠と蠍の合体種である、マンティコアや、その進化形である、【マンティコアノイド】も魔力操作を極めれば、同様の事が可能となる。
「【鎧袖一触】!」
紫炎を纏った不死鳥が飛翔し、急降下する。
「受~け~て~立~つ!」
スサノオ・ニーチェは、これを真っ向から受けて立つ構えである。
「わーっはっはっはっはっはー。アタック・オブ・フィナーレ!」
ばさばさ、バサバサ。
紅炎を纏った不死鳥は、笑いながら体当たり。
両者とも、闘っているのが他の相手であれば、必殺技として機能したのであろう一撃が、交錯する。
だが、鳥人はまだ倒れない。
「究極形態だっ!タラランタタラタタン、ジシ!」
ばさばさ、バサバサ。
赤い羽と緑の羽が乱舞する。「武闘は舞踏に通じる」ものがある、と言われるが、まるで舞踏を踊るかのようである。
「【一気呵成】!」
ドグシャ!ボコボコボコ!バキッ!
それに対して、こちらは荒削りで優雅さの欠片も無い。
「そこまで。」
こちらも、審判が時間切れを宣言して、両者引き分けとなった。
――――――――――――――――――――――――――――――
ドンザ・ウルス & ボルゾ・イぞい 対 スサノオ・ニーチェ。
スサノオ・ニーチェの「面倒だから二人まとめてかかってこい」という、強い要望により、こういう対戦の組み合わせとなった。しかし・・・。
「わーっはっはっはっはっはー。アタック・オブ・フィナーレ!」
ばさばさ、バサバサ。
紅炎を纏った不死鳥に、笑いながら体当たりされ、一瞬で弾き飛ばされてしまう。場外判定である。
「勝者、スサノオ・ニーチェ!」
連携することが出来れば、多少は抗えたのかも知れないが、豪放磊落なドンザ・ウルスと、真面目と言うよりは、寧ろ、神経質なボルゾ・イぞいは、犬猿の仲とまではいかないが、あまり馬が合わない。従って、これは必然の結果と言えるだろう。
――――――――――――――――――――――――――――――
ネメシス・ダムド 対 ボルゾ・イぞい。
「お前みたいな粗暴な若造が、帝位に就こうなどと考えるとは、世も末か。」
「貴様の時代は終わりだ。痩せ犬の将軍よ。」
「まだ終わらんよ。【犬から狗へ】。」
「【一気呵成】!」
ドグシャ!ボコボコボコ!バキッ!
歴戦の将軍も連戦で疲労していたのだろう。勝負は一瞬で終わった。
「勝者、ネメシス・ダムド!」
そして、審判が高らかに宣言する。勝者であるその者の名を。
――――――――――――――――――――――――――――――
試合終了後、選手控え室にて。
「若造にこれをくれてやろう。フン、餞別代わりだ。」
ボルゾ・イぞい将軍は、【ワン公の腕甲】をくれるという。
「有り難く頂戴するが、何故儂に寄越すのだ?」
「決勝戦をともに闘った仲として、お前の力を認めた証だな。【マンティコアノイド】の基となった、マンティコアは『獅子』、大雑把に言えば、『猫族』だ。我々、『狗族』と『猫族』は、祖先を辿れば、共に『ミアキス』に至る。それが、いつの日か、猫と犬に分岐し、犬から熊や鼬、更に、狐や狸へと分かれていった。要するに、遠い親戚の前途を祈って、ミアキスのご加護の有らんことを、というわけだ。」
┌────────────────────────┐
│ボルゾ・イぞい将軍との戦闘に勝った。 │
│ネメシス・ダムドは、【ワン公の腕甲】を入手した。│
└────────────────────────┘
――――――――――――――――――――――――――――――
ネメシス・ダムド 対 ドンザ・ウルス。
「この時を待っていたぞ。我が友よ。」
「ああ。俺達の決着をつけよう。」
互いの手の内は既に分かっている。言葉は要らない。後は拳で語るだけ。
ドンザ・ウルスの口から吐かれた体液は、空気中で引火し、火柱となるが、ネメシス・ダムドは、超音波を放ち、これを打ち消す。
今回、ドンザ・ウルスが使う長柄の武器は、トライデントとも呼ばれる、熊手のような三叉の鉾。だが、ネメシス・ダムドの隆起した筋肉の鎧は貫けない。
一方、ネメシス・ダムドの蠍の尾は、ドンザ・ウルスの盾に阻まれる。ドンザ・ウルスは、尻尾を第三の足の様に使い、飛び退く。そして、地面に刺さった三叉の鉾が蠍の尾を縫い止め、ネメシス・ダムドの飛翔を妨害する。
こうして、暫く二人は戦闘を愉しむのであった。
変な語尾の例として、語尾に「~ぞい」と付ける登場人物がいますね。
では、「ボルゾイ」を指差して、その人に
「あの犬の種類は何というのですか?」
と尋ねたらどうなるのでしょうか?
「ボルゾイぞい。」
そう、これが「ボルゾ・イぞい」将軍の元ネタです。
「スサノオ・ニーチェ」の方は、アニメで不死鳥が出てきた時、
スペイン語かポルトガル語に吹き替えた際、
元の日本語をどう翻訳したのか、
「スサノオ・ニーチェ、インストールしようねぇ!」
と聞こえたので、この台詞をそのまま頂戴することに。




