第54話 鼠のチュー兵衛
ここは、玖球帝国の首都、【ニライカナイ】。
「ニライカナイ」は、琉球の概念で、海底にある『異世界』を意味する。これは、アイヌ語で『冥界への入口』を意味する「アフンルパラ」や、『冥界』を意味する「ポクナモシリ」、或いは、日本神話における『黄泉の国』にも酷似している概念である。
ここで、頂点を決めるための武闘会が開かれることになった。
武闘会が開かれた理由は、先帝が病に斃れて失脚したので、【評議会】によって、次代の統治者を決定するため。
先代の玖球帝は、【偶蹄族】の出身であった。【偶蹄族】は、「偶蹄類」とか「偶蹄目」と呼ばれる動物及び、それに酷似した収斂進化を遂げた魔獣と、それらの魔獣から進化した魔人により構成される。
ゑ?「偶蹄類」とか「偶蹄目」とは何かって?これは、現実世界の生物学において、かつて存在した分類で、哺乳類のうち、蹄を持つグループを「有蹄類」と呼ぶのだが、かつては、「有蹄類」を蹄の割れ方の偶奇によって、「偶蹄類」と「奇蹄類」、或いは、生物の分類階級である、「界・門・綱・目・科・属・種」に従って、「偶蹄目」と「奇蹄目」に分類していた時代があった。
具体的には、「奇蹄目」は、主にウマ科、サイ科、バク科の3系統だが、「偶蹄目」は、ウシやシカの仲間を中心に、蹄を持つ多くの動物の系統が分類される。
例えば、キリンはウシの仲間であり、滅多に鳴かないが、その鳴き声は「モー」という感じである。また、その蹴りによって、獅子を殺すこともある程である。
オカピはキリンの仲間だが、キリンのように首が長くはない。キリンは、四霊の「麒麟」と同一視されるが、四霊の「麒麟」もやはり首が長くはない。
この世界でも、キリンと四霊の「麒麟」は同一視される、神聖な動物であり、【奇蹄族】の【一角獣】と対の関係にあるとされている。
もっとも、この世界における【一角獣】は、ウマ科ではなく、サイ科の古生物である、「エラスモテリウム」に近い。
因みに、先代の玖球帝は、キリンから進化した魔族の魔人で、自らも四ツ足の「麒麟」に騎乗して戦う、騎士出身の戦士であった。
ウシから進化した魔族の魔人は、牛鬼、牛頭、牛魔王、
或いは、「Μινωταυρος」等、様々な伝承がある。
同様に、キリンから進化した魔族の魔人を、麒麟児と呼ぶこともあるが、
それは必ずしも子供であることを意味しない。
前回の武闘会の決勝では、死闘の末、先帝がマンティコアノイドを蹄による蹴りによって、倒しているという。
実は、先帝と決勝戦を闘ったこのマンティコアノイドこそ、先代のディアヴォロス公爵なのである。二人は良き好敵手であったらしい。
先帝には、【六王】、或いは、【陸王】という異名もあった。通常、「六」は「ろく」、「陸」は「りく」と読むが、「陸」は「六」の大字としても用いられるから、「六」を「りく」、「陸」を「ろく」と読むこともある。
【龍無き世界を統べる者】といわれている、生態系の頂点である、マンティコアノイドを倒す程の力を持つ、まさに「陸の王」と呼ぶに相応しい力を有していたのである。
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予選開始。ネメシス・ダムドの初戦の相手は、「鼠のチュー兵衛」と呼ばれる、齧歯族の剣豪である。齧歯族は、エピガウルスという古生物から進化した鼠の獣人で、最大級の齧歯類であるカピバラや、ビーバーを二足歩行にした様な魔人であり、地下に生息し、ドリルやレーザー、火炎放射器などを製造している種族である。
「拙者の初戦の相手はネメシス・ダムド殿で御座るか。最近は随分派手に暴れておるようで御座るが~?」
ネメシス・ダムドは、【活力吸鬼】狩りや努力教教徒の残党狩りを行い、名声を得ていた。
「降りかかる火の粉を払ったまでのこと。貴公が気にすることではない。」
「それにしては、少々やり過ぎでは御座らんか?『能ある鷹は爪を隠す』という諺もあるで御座ろう?」
「能力があるのなら、それを隠して使わないのは、『宝の持ち腐れ』だろうが?」
ここにはいないが、郡山少年も中学受験当時、学力が高くて周囲からは、調子に乗っているように見えたのであろうか、『能ある鷹は爪を隠す』だよ、と諭され、それに対し、『宝の持ち腐れ』だろう?と返していた。
「言っても無駄で御座るか。ならば、『力愛不二』の精神に則り、貴殿のような過激な御仁が帝位に就くことを断固阻止するで御座るよ。」
試合開始。
気が付いたら、動物の分類学に関する学術記事みたいな文章が出来ていた・・・。
登場人物の問答が長くなりそうだったので、次回に分割します。




