第53話 「キャプテン、逮捕だ。貴様を拘留する。」
ここは、努力教の総本山であるイグアナス教会。
ネメシス・ダムドとドンザ・ウルスが訪れると、中からエリマキトカゲの蜥蜴人間が出てきた。
「ご用件は?」
「枢機卿のキャプテン・イグアナ殿に面会したい。」
「予約はありますか?」
「火急の件故、予約などない。」
「それでは、努力教徒でもない方をお通しできません。」
「退け。末端に用はない。」
エリマキトカゲの奥襟を掴むとポイッと投げ捨てる。
すると、そのエリマキトカゲは壁に向かって走り、壁に備え付けられている釦を押下したのであろう。
直ちに、この招かれざる客である無頼漢共を放り出すべく、教会の建物全体に警報が鳴り響くのであった。
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大量のエリマキトカゲが、ネメシス・ダムドとドンザ・ウルスの二人を取り囲む。その様子を見て、ネメシス・ダムドはニヤリと嗤う。
「有象無象が。儂を阻むつもりか?覚悟は出来ているのだろうな?」
蝙蝠、蠍、獅子の合体種である、マンティコアから進化した魔族の魔人、【マンティコアノイド】は、通常の魔族に換算して、少なくとも3倍の魔力を有する。
しかも、それが原初の魔神とされる3柱の末裔とされる名門、純血の【マンティコアノイド】、ディアヴォロス公爵家の直系であれば、その比は計り知れないであろう。
その絶大なる魔力の殆どを筋力の増強に注ぎ込む。
「【渾沌昇華】!」
紫と黄色の魔力色をした炎が、まるで床屋のサインポールの如く、ネメシス・ダムドの周囲を、二重螺旋を描きながら上昇していく。
「【鎧袖一触】!」
紫炎を纏った不死鳥が飛翔し、エリマキトカゲの群れへと急降下する。その風圧だけで、エリマキトカゲ達は弾き飛ばされ、壁に叩き付けられて気絶する。
「さァ、確認するぞォ~。点検の時間だァ!!」
巨漢ドンザ・ウルスの気迫に抗うことの出来るエリマキトカゲはもういなかった。教会の床には深く抉れたクレーター。その中心に立っているもう一人の巨漢、ネメシス・ダムドは、超音波を使い索敵を開始する。
「どうやら、地下に通じているようだな。」
「入り口は何処だ?」
「階段下の物置だ!」
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地下牢には、鎖に繋がれた奴隷がいた。玖球帝国では、奴隷は違法である。
地下牢の看守をしていたエリマキトカゲも拳圧だけで弾き飛ばし、気絶させると、鍵を奪い、ドンザ・ウルスは、奴隷達の解放へと向かった。
そして、さらに奥の部屋に行くと、玉座には、どちらかといえば、コモドオオトカゲに近い顔をした、緑色のイグアナ型の肥え太った蜥蜴人間が座っていた。
奴こそが、枢機卿のキャプテン・イグアナだろう。
「ようこそ、イグアナス教会へ。ネメシス・ダムド公爵。入会希望かね?」
「いや、今日は貴様を断罪しに来た。領民に『布施』という重税を課しているそうだな?」
「それは自治権の範囲内だと思うのだが?」
「領民からは、『大量の布施をしているにもかかわらず報われない』という声が上がっているのだが?」
「それはその者の信仰心や『フダンの努力』が足りないだけだ。卿が心配することではない。」
ここで、「フダンの努力」の「フダン」とは、「普段」と「不断」を掛けているらしい。
「その『布施』の使途は、努力教の上層部が外遊した際に、バラ撒いているそうだな?国外勢力への過度な資本の流出は、外患誘致罪が適用される。」
「我が国は今、先帝が失脚し、帝位が空位という、国難の状況にある。国際関係を維持するために必要な投資であるとは思わないかね?」
「先程、地下牢にて、違法奴隷の現場を押さえた。加虐趣味かと思っていたが、さては、それも輸出目的か?」
「あれは修行中の信徒だよ。そう、私の忠実な兵隊となって、この国を変革するためのね。」
「この売国奴め。正規の手順を踏まずに、帝国の統治機構を乱すのは、紛れもなく叛逆罪だ、キャプテン、逮捕だ。貴様を拘留する。」
「我が努力教の教徒達に数々の狼藉を行っておきながら、よくもそのようなことが言えたものだな。ならば、聖戦だ。貴様こそ浄化してやろう。」
「良かろう。武闘家として相手してやる。来いッ!」
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「デロデロデロッ、ハァ~ッ。」
枢機卿のキャプテン・イグアナは、大きく息を吸って吐いた。その息は腐臭が漂い、もし嗅ぎ続ければ失神してしまうだろう。
ネメシス・ダムドは翼を羽ばたかせて、風を起こし、腐臭の瓦斯を吹き飛ばそうと試みる。
その瞬間、炎が部屋全体を覆った。どうやら引火性の瓦斯だった模様。
「この邪悪なる生き物め。聖なる炎をその身に受けよ。」
だが、ネメシス・ダムドは、表情一つ変えずに、己の魔力を全開にして超音波を放つ。
「なっ?!火が消えただと?!」
「火は音で消せるのだ。知らなかったのか?そう、火属性は音属性に弱い。どうやら知らなかったようだな。」
【縮地】で枢機卿の懐に潜り込む。これに対して、キャプテン・イグアナは、尻尾で薙ぎ払おうと試みる。だが、肥え太った体では、俊敏さが足りない。
気が付けば、蠍の尾の毒針が急所を貫いていた。【死神兄弟】戦では、相手が【マンティコアノイド】であり、簡単に解毒されてしまうので、この戦法は使えなかったのだが。
「これで終わりだ、お前の人生。」
そう、彼の枢機卿としての「人生」は終わりを告げたのだ。これからは、蜥蜴人間ではなく、ただの「イグアナ」として、地面を這いながら、生きていかざるを得ないだろう。




