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別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
第伍章 玖球(クーゲル)帝国の過去編
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第53話 「キャプテン、逮捕だ。貴様を拘留する。」

 ここは、努力教の総本山であるイグアナス教会。


 ネメシス・ダムドとドンザ・ウルスが訪れると、中からエリマキトカゲの蜥蜴人間(リザードマン)が出てきた。


「ご用件は?」


枢機卿(カーディナル)のキャプテン・イグアナ殿に面会したい。」


予約(アポ)はありますか?」


「火急の件故、予約(アポ)などない。」


「それでは、努力教徒でもない方をお通しできません。」


「退け。末端に用はない。」


 エリマキトカゲの奥襟を掴むとポイッと投げ捨てる。


 すると、そのエリマキトカゲは壁に向かって走り、壁に備え付けられている(ボタン)を押下したのであろう。

 直ちに、この招かれざる客である無頼漢共を放り出すべく、教会の建物全体に警報が鳴り響くのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――


 大量のエリマキトカゲが、ネメシス・ダムドとドンザ・ウルスの二人を取り囲む。その様子を見て、ネメシス・ダムドはニヤリと(わら)う。


「有象無象が。儂を阻むつもりか?覚悟は出来ているのだろうな?」


 蝙蝠、蠍、獅子の合体種である、マンティコアから進化した魔族の魔人、【マンティコアノイド】は、通常の魔族に換算して、少なくとも3倍の魔力を有する。

 しかも、それが原初の魔神とされる3柱の末裔とされる名門、純血の【マンティコアノイド】、ディアヴォロス公爵家の直系であれば、その比は計り知れないであろう。


 その絶大なる魔力の殆どを筋力の増強に注ぎ込む。


「【渾沌昇華】!」


 紫と黄色の魔力色をした炎が、まるで床屋のサインポールの如く、ネメシス・ダムドの周囲を、二重螺旋を描きながら上昇していく。


「【鎧袖一触】!」


 紫炎を纏った不死鳥が飛翔し、エリマキトカゲの群れへと急降下する。その風圧だけで、エリマキトカゲ達は弾き飛ばされ、壁に叩き付けられて気絶する。


「さァ、確認するぞォ~。点検の時間だァ!!」


 巨漢ドンザ・ウルスの気迫に(あらが)うことの出来るエリマキトカゲはもういなかった。教会の床には深く抉れたクレーター。その中心に立っているもう一人の巨漢、ネメシス・ダムドは、超音波を使い索敵を開始する。


「どうやら、地下に通じているようだな。」


「入り口は何処だ?」


「階段下の物置だ!」


――――――――――――――――――――――――――――――


 地下牢には、鎖に繋がれた奴隷がいた。玖球(クーゲル)帝国では、奴隷は違法である。


 地下牢の看守をしていたエリマキトカゲも拳圧だけで弾き飛ばし、気絶させると、鍵を奪い、ドンザ・ウルスは、奴隷達の解放へと向かった。


 そして、さらに奥の部屋に行くと、玉座には、どちらかといえば、コモドオオトカゲに近い顔をした、緑色のイグアナ型の肥え太った蜥蜴人間(リザードマン)が座っていた。


 奴こそが、枢機卿(カーディナル)のキャプテン・イグアナだろう。


「ようこそ、イグアナス教会へ。ネメシス・ダムド公爵。入会希望かね?」


「いや、今日は貴様を断罪しに来た。領民に『布施』という重税を課しているそうだな?」


「それは自治権の範囲内だと思うのだが?」


「領民からは、『大量の布施をしているにもかかわらず報われない』という声が上がっているのだが?」


「それはその者の信仰心や『フダンの努力』が足りないだけだ。卿が心配することではない。」


 ここで、「フダンの努力」の「フダン」とは、「普段」と「不断」を掛けているらしい。


「その『布施』の使途は、努力教の上層部が外遊した際に、バラ撒いているそうだな?国外勢力への過度な資本の流出は、外患誘致罪が適用される。」


「我が国は今、先帝が失脚し、帝位が空位という、国難の状況にある。国際関係を維持するために必要な投資であるとは思わないかね?」


「先程、地下牢にて、違法奴隷の現場を押さえた。加虐趣味かと思っていたが、さては、それも輸出目的か?」


「あれは修行中の信徒だよ。そう、私の忠実な兵隊となって、この国を変革するためのね。」


「この売国奴め。正規の手順を踏まずに、帝国の統治機構を乱すのは、紛れもなく叛逆罪だ、キャプテン、逮捕だ。貴様を拘留する。」


「我が努力教の教徒達に数々の狼藉を行っておきながら、よくもそのようなことが言えたものだな。ならば、聖戦だ。貴様こそ浄化してやろう。」


「良かろう。武闘家として相手してやる。来いッ!」


――――――――――――――――――――――――――――――


「デロデロデロッ、ハァ~ッ。」


 枢機卿(カーディナル)のキャプテン・イグアナは、大きく息を吸って吐いた。その息は腐臭が漂い、もし嗅ぎ続ければ失神してしまうだろう。


 ネメシス・ダムドは翼を羽ばたかせて、風を起こし、腐臭の瓦斯(ガス)を吹き飛ばそうと試みる。


 その瞬間、炎が部屋全体を覆った。どうやら引火性の瓦斯(ガス)だった模様。


「この邪悪なる生き物め。聖なる炎をその身に受けよ。」


 だが、ネメシス・ダムドは、表情一つ変えずに、己の魔力を全開にして超音波を放つ。


「なっ?!火が消えただと?!」


「火は音で消せるのだ。知らなかったのか?そう、火属性は音属性に弱い。どうやら知らなかったようだな。」


 【縮地】で枢機卿(カーディナル)の懐に潜り込む。これに対して、キャプテン・イグアナは、尻尾で薙ぎ払おうと試みる。だが、肥え太った体では、俊敏さが足りない。


 気が付けば、蠍の尾の毒針が急所を貫いていた。【死神兄弟】戦では、相手が【マンティコアノイド】であり、簡単に解毒されてしまうので、この戦法は使えなかったのだが。


「これで終わりだ(FINISH)、お前の人生。」


 そう、彼の枢機卿(カーディナル)としての「人生」は終わりを告げたのだ。これからは、蜥蜴人間(リザードマン)ではなく、ただの「イグアナ」として、地面を這いながら、生きていかざるを得ないだろう。

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