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別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
第肆章 過去の記憶編
45/120

第45話 【蝙蝠山卿】と呼ばれる所以

以降、本章は過去編に入りますが、

過去編は、鬱展開シリアス要素を含みます。


鬱展開シリアスが苦手な方向けに、

過去編を飛ばしても話の展開に影響がないよう構成しているので、

鬱展開シリアスが苦手な方は、

本話以降を飛ばして、次章に進んでも構いません。


寧ろ、そういう方は、過去編は飛ばすことをオススメします。

 ブルクドルフ氏は、ドス黒い霧に覆われた【読心(とうしん)の宝珠】で覗いた、郡山青年の過去の記憶―想像を絶する心の闇―を常井氏と【思念共有】する。


――――――――――――――――――――――――――――――


 時は1990年代。幼稚園を卒園した郡山俊英少年は、小学校受験に失敗し、公立の底辺校である、久曽小学校に入学する羽目になった。


 この久曽小学校に入学する児童は、転勤族などを除けば、概ね、地元の3つの幼稚園やその付近の保育園の出身である。


 地元でありながら、周囲との面識はなく、失敗したとはいっても、小学校受験をする程度には知能が高い郡山少年は、すぐに目立ち、安定指向型の地元民からは、クラスカーストの秩序を破壊するからなのか、或いは、単純に学習能力面への嫉妬からなのか、いじめの対象となった。


 底辺校は生徒の素行が悪く、治安も悪い。例えば、幼稚園では、「僕、君、やっつける」といった言葉を使っていたが、久曽小学校では、「俺、テメエ、ぶっ殺す」といった言葉を話さなければいけない。


 久曽小学校は、保健体育のモデル校に指定され、その生徒連中は、周辺校からは、山猿とも呼ばれ、例えば、公園の砂場にある、藤棚の上に乗るぐらいの猛者もいた。


 それに比べれば、運動神経で劣り、さらに、家の教育方針なのか、テレビアニメやゲーム等の情報にも疎く、社交性にも乏しい郡山少年は、いつも悪者扱い。


 幼稚園の頃から短気でもあり、決して黙ってやられる一方ではなかったのだが、持ち物を隠される、集団行動では村八分、体育館裏で集団リンチ、同級生だけではなく上級生や下級生も含め、全校生徒540人超が全て敵に回った。毎日腹を殴られるので、腸捻転を起こし、給食が食べられずに責められ、トイレに駆け込めばそれも揶揄われた。


 そんなある日、流行り物のキャラクターグッズを私物として、学校に持ち込む生徒が多かった時期に、クラスで盗難事件が発生した。


 郡山少年は、学習面以外はトロかったので、片付けの準備が遅く、下校時にいつも最後に教室を出ることが多く、盗難の犯人として疑われた。


 まぁ、冷静に考えれば、流行に疎い彼がキャラクターグッズを盗むわけがないだろう、ぐらいのことは誰にでも分かりそうなものなのだが、いじめっ子共が主導で彼を犯人に仕立て上げ、郡山少年はそれに嵌められた。


 しかも、小学校というのは閉鎖的な空間故に、小学校教師も視野狭窄に陥る者が多く、彼を犯人だと決めつけた。


――――――――――――――――――――――――――――――


 そんなわけで、もう我慢の限界だった。自分の死で同級生達は後悔するだろうか?学校が休みになって喜ぶぐらいか?


 「勉強して見返してやれ」と親は言う。しかし、どれだけ学業成績を伸ばしても、連中が跪くとは思えない。


 今頃、家の窓際では、ぬいぐるみ達がご主人様の帰りを待っているだろう。もし、自分が不帰(かえらず)の人となったら、悲しむのは彼等ぐらいだろうか。


 学校の窓の桟に足を掛け、三階の高さから飛び降りようとして……


 気が付いた時には、空中で蝙蝠の翼と蠍の尾を持つ巨漢に抱えられていた。物語に登場する悪魔の様な姿をしている。


「力が欲しいか、小僧?」


 頷く。力が欲しいと。だが、中途半端な力では駄目だ。


「我との契約を望むか?比類無き力を得る代償として、その魂を贄とする覚悟は出来ているか?」


 俺は死ぬつもりだったんだ。絶対的で圧倒的な力を得られるのなら、寿命が縮むとか、人格が歪む程度の代償、くれてやる!


「良かろう。汝に絶対的で圧倒的な力を!

何者にも染まることのない孤高の黒を!」


 ドス黒い霧が全身に流れ込んでくる。郡山少年は、意識を手放した……。


――――――――――――――――――――――――――――――


 気が付くと、郡山少年は、廊下に倒れていた。冷静に考えれば、窓の桟に足を掛けた際、足が滑ったために、窓の外側ではなく、校舎内側に倒れ、廊下で気絶していたのだろう。


 だが、郡山少年は、頭でも打ったかのように高笑いをする。


「怒りで我を忘れれば、苦痛からも解き放たれるであろう。」


 姿無き声に従い、連中への憤怒を糧とすると、全身に力が溢れてくる。


 そして、己の影の中に潜む存在―蝙蝠の翼と蠍の尾を持つ巨漢―に向き合う。


「アンタは悪魔なのか?」


「我々は魔族。人は、その中で、人に害をなす者を悪魔と呼んでいる。」


「では、アンタは善魔?」


「呼び方は何でも構わない。貴様は今日から俺の……弟子兼部下―使徒とでも呼ぶことにするか?―となった。俺が貴様を直々に鍛えてやろう。」


「ああ。俺は奴等を凌駕する力が欲しい。連中に復讐するためにな。」


「豆電球の様な小さな光は、太陽の様な大きな光の前では輝くことが出来ない。一方、闇はどんな小さな光でも輝かせることが出来る。そして、どれほど大きな光であろうと闇の全てを照らし尽くすことは出来ないのだ。」


 後に、郡山少年は、己の影の中に潜む魔族の助言に従い、黒い頭巾(フード)付きの外套(コート)を着るようになった。その姿はまるで蝙蝠の様であり、彼の名字に因んで、「蝙蝠山」と呼ばれるようになる。



「我等は闇、我等は目に見えぬ者。黒は何物にも染まらぬ、究極にして完璧なる孤高の色。その絶対的で圧倒的な力で(もっ)て、永久(とこしえ)の闇と、永遠(とわ)渾沌(こんとん)を与える力となるのだ。」


 ゑ?中二病?そう、余談だが、「中二病」の人は、黒い服を着たがったり、長い呪文を好む傾向にあるらしい。黒い服を喪服、長い呪文をお経、と考えると、お葬式が一番に思い浮かぶんだが……。

 但し、まだ1990年代半ば頃のこの時代にはまだ、そういう意味不明な造語は、人口に膾炙してしていなかった。

 確かに、郡山少年は、まだ10歳になるかどうかの小学生だが、実際、中学生に相当する語彙力を有する可能性がある。()し、中学二年生に飛び級する制度があったなら、彼はこの凄惨ないじめから解放されるために、迷うことも躊躇することもなく選んだだろうことは間違いない。



 蝙蝠の翼を持つ魔族の姿は、郡山少年以外には見えることがなかった。後に邂逅し、【永遠の好敵手】となる、たった一人を除いては。その者は、郡山少年に憑依した魔族に敬意を表し、「卿」という称号を付け加えて呼んだ。


 これが、彼が【蝙蝠山卿】と呼ばれる所以(ゆえん)である。


――――――――――――――――――――――――――――――


「取り敢えず、ここまでにしておくか。さもなくば、君の精神力が保たないであろう。」


 ブルクドルフ氏が、【思念共有】を解いたとき、常井氏は、腰を抜かし、冷や汗をかいて、呼吸が乱れていた。


「なっ……。何故、彼の過去の記憶の中に、奴がいるんだ?!玖球(クーゲル)帝国の帝王、【ネメシス・ダムド】が!!」

冒頭で断るほど、鬱展開シリアスではないって?

それは、あまり書き過ぎると、書いている

作者本人まで鬱になりかねないからです。

ただ、確かに学校に良い思い出はありませんねぇ。

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