第43話 【魔導科学】
科学的な内容や工作の手順、折り紙の折り方については、
敢えて厳密な説明はしない方針なので、興味のある方は、
各自、当該項目の解説サイト等を参照されることをオススメします。
【魔導科学】の【武器合成】の実習の打ち合わせにて。常井学長は、愉しそうに話す。
「この国では、子供の頃は砂場で遊ぶのだ。」
「山を作ったり、落とし穴を掘ったりするんですかねぇ。個人的には後者だな。足し算より引き算が得意だったし。でも、前者もトンネル効果を考えると面白いかも。」
「それだけではないぞ。私が子供の頃に砂場に行く時は、必ず磁石を持参していた。」
「砂鉄の採集?」
「砂鉄、或いは、磁鉄鉱は、四酸化三鉄とも呼ばれ、タダ同然で手に入るのに、使い方次第では、強力な武器にもなる。」
「確かに、目潰しには使えそう……。」
「アルミ粉と混ぜてテルミット反応、粉塵爆発……。」
やっぱり、この人は結構危険人物だな。
「この世界では、この容器で蒐集する。幾つか差し上げよう。」
「フィルムケース?」
「高密度ポリエチレン製の容器だな。砂鉄以外にも、海苔や煎餅の乾燥剤に使われている生石灰や、朝顔の種の粉末を入れるのにも使う。」
生石灰は、かつては危険物第3類に指定されていた。今は除外されているが。でも、朝顔の種の粉末って確か……。
「生石灰は、水に濡らせば発熱剤として使える。水溶液は強塩基だから、指紋を消したりするのにも使えたりする。朝顔の種の粉末は下剤だな。これもこの国では一般教養程度の知識だから、常に混入されないよう、細心の注意を払わねばならん。故に、お茶汲みという役職はない。お茶は自分で用意した方が安全だからな。」
そう言って、常井学長は、高密度ポリエチレン製の容器に入れた、砂鉄、生石灰、朝顔の種の粉末をくれた。気前がいい、というよりも、自分の思想に染めるための布教活動に近いのだろうが。
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そして、実習の時間である。常井学長は、相変わらず愉しそうである。
「諸君、ボールペンは、学校指定の銘柄のものを持ってきたかね?ボールペンのインク部分を注射器で抜き取ろう。用意するのは、インクの溶媒として使われている『チオジグリコール』に、酸性洗剤と塩基性洗剤。敢えて『混ぜるな危険』を自ら禁を破る形で実行すると……『マスタードガス』が生成される。この時、くれぐれも換気には注意したまえ。」
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【武器合成】
ボールペンのインクの溶媒
+酸性洗剤
+塩基性洗剤
↓
マスタードガス
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あれ、これって違法じゃね?と思ったが、よくよく考えてみると、ここは日本じゃなかった。似て非なる異世界の国なんだよなぁ……。
常井学長が手元の端末を操作すると、液晶画面に動画が再生され、明らかに学生の一般教養程度の水準ではない、【武器合成】の演示が行われる。例えば、以下のような内容である。
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【武器合成】
ライター
+消火器
↓
火炎放射器
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常井学長が手元の端末を操作し、途中で動画を停止する。
「我々が火炎放射器を作るのなら、ライターと注射器だな。」
いや、やるのかよ?!
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【武器合成】
ライター
+注射器
↓
火炎放射器
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常井学長が手元の端末を操作すると、再び液晶画面に動画が再生される。
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【武器合成】
消火器
↓
空気銃
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或いは、
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【武器合成】
エアー釘打ち機
↓
空気銃
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常井学長は手元の端末を操作し、途中で動画を停止した。
「我々が空気銃を作る場合は、注射器とボールペンのインク部分を抜き取った残りの部分を使う。」
これは、郡山青年も実は作ったことがある。パイプカッターを使って、ボールペンを切断していき、注射器と合体させ、BB弾を発射する。
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【武器合成】
ボールペン
+注射器
↓
注射器銃
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常井学長に至っては、暇だったのか、クロスボウを作成して遊んでいた。勿論、時々学生の様子は見ながらだが、質問される以外では、手取り足取り教えることはしない。でも、その愉しそうな姿こそが、結果として、学生達の学習意欲を向上させるという好循環となる。
常井学長の講義は、「特別講義」であり、分野横断型の内容である。そこには、本来、学問とは、不可分のものであり、不当に分割されてしまった、学際的領域の統合が必要である、という彼の信念がある。
「今回は、【研究生】の郡山君にも何か面白いネタがないかと伺ってみたところ、特別に披露して頂く機会を得た!是非、傾聴し、その技を盗むつもりで学びたまえ。」
郡山青年の持ちネタは、先程の注射器銃を除けば、これしかない。それは、「折り紙で正多面体を作る」こと。折り紙2枚で「正四面体」、4枚で「正八面体」、10枚で「正二十面体」が出来る。
「え~っ?!今更、折り紙かよ?!」
「初等学校の生徒じゃあるまいし……。」
最初は、学生達の反応は芳しくなかったが、実際に、折り紙で「正四面体」、「正八面体」、「正二十面体」等の正多面体を作ってみせると、次第に場の雰囲気が変わっていく。
「フハハハハ。これはいい。初等学校の授業内容に是非取り入れよう。」
一番夢中になって折っている常井学長の影響が大きいかも知れないが。
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【登戸研究所】の所長室にて。常井学長の今週の3コマ分の報酬として、銀貨12枚を渡される。現在の残高は、金貨32枚、銀貨53枚、銅貨1枚。
「今日の折り紙の講義は実に傑作だったな。是非、初等学校の授業内容に是非取り入れたい、と思うのだが、如何かね?」
「構いませんよ。評価頂けて何よりです。」
「いや、実に素晴らしい技能だな。」
「そういえば、技能って、どうやって習得するんでしょうか?」
「何度も同じ技を使っていると、やがて熟練度が上がって、気が付けば自然に覚えていることが多いが、予兆として、知恵熱が出る場合が多いな。鑑定すれば、既に習得している技能についても調べられるが、如何かな?」
「是非。でも、技能の鑑定って、どのように鑑定するんです?」
「【読心の宝珠】という魔道具を使う。但し、これは使うと相手の心を読むことになるため、思想の自由を侵害しかねない。今回はあくまで技能の鑑定が目的だが、勿論、そうした必要最低限以外の用途には、あまり使うべきではない。無闇矢鱈に使えば、相手の心の闇に呑み込まれることさえある。」
「使われた側だけでなく、使用者にも危険があるのか……。その話を聞いた後だと、気が乗らなくなりますねぇ。」
「用途を絞れば問題ない。それに、私が君の心の闇に呑み込まれるとでも?勿論、不用意に君の心の深淵を覗き込まないことも誓おう。ただ、私としては、君の技能に関しては、一度調べておいた方が良いと思うのだがね。」
ああ、そういえばこの人は研究者だった。好奇心が満足しない限り、断っても食い下がりそうだ……。取り敢えず、承諾する。
「フム。では、まず最初に、君の座右の銘とでもいうべき、諺・格言を最低5つ、出来れば7つ以上書いて貰おう。」
いきなり、【読心の宝珠】を使うのではないのか……。言われた通り、諺・格言を列挙してみる。
・学問に王道無し
・奇貨居くべし
・鶏口となるも牛後となるなかれ
・疾風に勁草を知る
・天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず
・ペンは剣よりも強し
・目には目を、歯には歯を
「では、君の技能を【読心の宝珠】を使って読み取るぞ。」
結果は、以下の通り。
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【与える力】:小隊構成員の能力上昇補正
【完璧主義】:技能の習得には時間を要するが、
習得した技能の性能は、通常より高め。
【向学心】:知力上昇傾向大
【支配者的性格】:小隊構成員の
技能の模倣が可能。
【反骨精神】:一度被弾した技への耐性上昇補正
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「ふむ、悪くない。極めれば、一度喰らった技は二度と喰わないし、模倣とは言え、仲間の技も学習できる。狭く深くの少数精鋭主義が基本だな。交友範囲は狭くとも、絆を深めていけば強力な戦力となろう。」
「少数精鋭主義どころか、殆ど一匹狼のような気が……。」
「それで構わない。天に二つの太陽は要らない。君の世界ではよく、『リーダーを育てる教育』等と言うらしいが、『船頭多くして船山に上る』とも言うだろう?もし、リーダーだらけになれば、収拾がつかなくなってしまうだろうが。」
「確かに。一匹狼なら、実質自分がリーダーというわけか。」
もし、「リーダー経験などはありますか?」という質問があったら、「オンラインゲームでギルドリーダーをしていました。」と答えることをオススメしよう。ゲームによって、
「ギルド」、「クラン」、「チーム」、「同盟」など、名称は異なるけれど、自分で設立した場合、自動的にリーダーになるからだ。
「でも、そうすると、『技能の模倣可能』が、宝の持ち腐れになってしまうなぁ。」
「学習の系統には幾つか種類がある。一つは、斃した相手の技を盗む場合。英雄が斃した好敵手への敬意精神から、その技を模倣したり、勇者が戦っている相手の技を盗んで、不利な戦況を覆したりする場合が該当する。例えば、ノワール般若の固有技能である、【猫婆】もこれに相当する。もう一つは、勇者が仲間の技を模倣して、不利な戦況を覆したり、英雄が斃れた仲間の技を継承したり、或いは、魔王が部下の技を全て使えるといった場合。前者の斃した相手の技を盗む場合を『狩猟民族型』とすれば、後者の仲間や部下の技を使う場合は、『農耕民族型』ともいえる。」
「固有技能?」
「ノワール般若の【猫婆】という技能自体は、別名称の効果が殆ど同じ技能は存在するものの、現状、本人しか所持者が確認されていないため、『固有技能』と呼ばれているに過ぎない。もし、同族が習得できるのであれば、『種族技能』等と呼ばれるようになる。私の研究結果によれば、固有技能の習得は、熟練度が関係している可能性が高い。」
「熟練度?」
「熟練度は、同様の動作を繰り返すことにより、技能として覚醒する他には習得できないというのが定説だったが、私は……この【熟練度上昇薬】を開発することに成功した!!」
常井所長は、緑のフラスコに入った緑色の液体を容器に注いだ。ゑ?まさか、このサイケデリックな液体を飲めと?
「この緑の液体は何ですか?」
「抹茶と本わさび、ツツジの花の蜜、他にも色々入っているが……。」
「ツツジの花の蜜って、確か毒が入っているのでは?」
「ツツジの種類によっては、毒を持っている場合もあるな。だが、ブルーベリーもツツジ科だぞ。もし、自作するのであれば、蜂蜜で代用しても構わない。ブルーベリージャムや蜂蜜を入れた場合は、別の技能が覚醒するかもしれないが……。それは、また別の機会に試してみることにしよう。さぁ、飲みたまえ。遠慮なんか要らないよ?」
「もし飲むのなら、常井所長も是非一緒に。」
「毒見が必要か?まぁ、私は既に飲んだことがあるのだが……。しかもその時、実際に、【衒學趣味】という、技能が覚醒した。効果は、小隊構成員の知力上昇補正だな。では、乾杯するとしようか。」
自分すら実験体とは、かなりのマッドサイエンティストだな。だが、これで退路は断たれた。仕方ない、飲むか。
「「乾杯!」」
次の瞬間、郡山青年は目眩がした。何だコレ……。




