第42話 玖球(クーゲル)帝国の帝王
科学的な内容については、敢えて厳密な説明はしない方針なので、
興味のある方は、各自Wikipedia等を検索されることをオススメします。
【登戸研究所】の食堂にて、常井学長と玖球帝国について話をしていると、堀田少年とノワール般若が会話に混ざってきた。
そして、今明かされる衝撃の真実。なんと、玖球帝国の帝王が直々にこの傍迷惑な猫を留学生として送り込んできたらしい。
「ほう。どうやらその玖球帝国の帝王は、荒脛巾皇国の国力低下を目論んで、工作員を送り込んできたというわけか。確かに適任者ではあるな。」
「違うのニャ!常井センセも笑ってないで、そこは否定してほしいのニャ!」
「いや、これは失敬。しかし、あの帝王殿も今頃失望しているだろう。送り込んだ工作員殿は、講義をサボっているのだからな。」
「サボっていないニャ!今は空き時間なのニャ!」
堀田少年も援護射撃をする。
「今が空き時間なのは本当っすよ。」
「そうニャ!アタイが帝王サマを失望させるハズがないのニャ!」
「しかし、彼の御仁も懐の深いことよ。己に刃を向けた者をも、こうして利用するのだからな。」
「そういう常井センセは、帝王サマのことを好敵手視しているくせにニャ。」
え~と、玖球帝国の帝王は、この人達とどういう関係?
「玖球帝国の帝王の人物像がよく分からないな。」
堀田少年が、補足説明をする。
「え~と、現在の玖球帝国の帝王は、武闘家で、凄い筋肉をしていて、僕も憧れるっす。」
説明されて逆に混乱する。叛逆者であったノワール般若を留学生として派遣した?常井学長が好敵手視している存在で、堀田少年が憧れる程の凄い筋肉をした武闘家?
「凄い筋肉といえば、彼の御仁には、【魁帝】という異名もあったな。」
「隆起したあの筋肉は、短刀も刺さらないし、もう鎧みたいなものニャ。しかも、蠍の部位を持つ【マンティコアノイド】だから、短刀に毒を塗っても斃せなかったニャ。」
完全に暗殺未遂じゃないか。それを罪に問わないだと?暗殺者如き、歯牙にもかけていないというのか?
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常井学長の講義。
「金剛石よりも硬い物質を挙げよ。堀田君、答え給え。」
その意地悪問題まだ続いていたの?最初の授業だけじゃないのか?
「え~と、分かりません。」
「では、郡山君、答え給え。」
「ロンズデーライト。別名、六方晶金剛石。」
「フム。正解だ。他にもウルツ鉱型窒化ホウ素が挙げられるな。」
問題は、まだ続くぞ。
「では、次の問題。火星のテラフォーミングについて述べよ。」
「メタンや二酸化炭素などの温室効果瓦斯を用いて、気温を上昇させ、大気中に放出させた二酸化炭素と水蒸気を用いて、植物が光合成し、人間が住める環境にすることです。」
「その通りだ。メタンや二酸化炭素などの温室効果瓦斯は、地球温暖化の原因だが、それを逆に利用するという発想だな。物事には必ず複数の側面がある。多面的な見方を心掛けるようにな。」
現実の火星の地表面積はアフリカ大陸と同じ程度でしかないことから非現実的とする見方も多いが、この異界ではその辺りの事情も少し異なってくるのだろうか。
さらに、問題は続く。
「では、次の問題。超臨界水による、ポリエチレンテレフタレートの分解について述べよ。」
「ポリエチレンテレフタレートは、アルコールである、エチレングリコールと、カルボン酸である、テレフタル酸のエステルなので、高温高圧にして、超臨界状態という液体と気体の性質を併せ持った水により加水分解します。」
「そうだ。もし、通常の状態の液体の水で加水分解出来てしまったら、逆に、ペットボトルは、水を入れておく容器としての用途を果たせない。」
こういう問題を出題することで、科学への興味を誘っているのだろう。
「臭化水素酸スコポラミンについて述べよ。」
「昔は目薬、今は酔い止め薬に入っている成分で、抽出し濃縮することで、睡眠薬として使えます。」
「その通りだ。とはいえ、普段から酔い止め薬を服用している場合には、耐性があったりもするがな。」
中には、結構危険な問題もあったりする。答えられている生徒もある意味ヤバイ気がするが。
「トリカブト由来のアコニチンとフグ毒由来のテトロドトキシンを同時に摂取した場合、どうなるか答えよ。」
「どちらも即死級の毒ですが、拮抗作用により相殺され、遅効性の毒になります。」
「正解だ。フグは、オオツノヒラムシ等からテトロドトキシンを摂取し、生体濃縮しているらしいことが最近になって明らかになった。」
化学だけでなく、物理の問題もある。
「ゼーベック効果について述べよ。」
「熱エネルギーを電気エネルギーに換することができる、『ペルチェ素子』を使って、熱起電力電池などに応用されています。」
「そうだ。変換効率は決して高くはないがな。『熱電効果』とは、2種類の金属の温度差から電気が生まれる現象で、金属をループ状にして片方の接続点を加熱して2つの接続点に温度差をつけると、接続点間に熱起電力が発生して電流が流れる。例えば、ニクロム線と銅線を用意し、2本の一端ををきつくねじり合わせ、他端をそれぞれ正極、負極として、豆電球などに繋ぎ、きつくねじり合わせた方の端をライターなどで熱すると、豆電球が点灯する。最近では、量子力学のスピンを利用した、『スピンゼーベック効果』というものもあるようだ。量子力学がエネルギー問題に応用されて、役に立っているという例だな。」
高度な授業の背景にあるのは、この世界では、中等学校までに、表の世界の日本における、中学・高校の6年間分か、或いは、それ以上の科学を学んでいることが挙げられる。
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では、この世界の高等学校では、何を学ぶのか?この世界には表の世界の日本には存在しない、魔素という素粒子がある。
科学の前身が錬金術であるように、【魔導科学】も錬金術から派生した、魔素という素粒子がある世界版の科学である。
【武器合成】も【魔導科学】の副産物にして、一分野を築いている。【武器合成】は、雛形となる武器、或いは、防具の作成である。
そして、【刻印術】は、作成された武器、或いは、防具に魔術の術式を刻む、異世界小説に登場する「付与魔法」みたいなもので、表の世界の日本における、プログラミングの概念に近い。
基地にあった、3Dプリンターに似た、巨大な機械は、【魔漆】の樹液を固めた樹脂で、造形を行う機械だが、【魔漆】の樹液は、魔力に反応する性質を利用し、魔力を操作するための魔術の術式として物体に刻む。
要するに、【刻印術】の専用機であって、基盤となる素材は、自分でガチャを回すか、店で購入する必要がある。
【登戸研究所】の裏には、【参番道路】が表の世界の日本における、『三軒茶屋』から『町田』まで通っている。この世界での地名も、読みは同じだが、それらと区別するために、【参軒茶屋】、【街田】と書くことにしたらしい。
また、【参番道路】と直角に『川崎』から『聖蹟桜ヶ丘』まで、【玖番道路】が通り、それに沿うように『川崎市営地下鉄』が通っている。
【烏天狗の仮面】を装備することによって、背中から鴉の様な黒翼が生え、飛行能力が付与されるが、その状態なら鉄道と同等の速度で移動できる。
では、【街田】と『川崎』で、【武器合成】に必要な汎用素材を購入してくることにしよう。
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まずは、【参番道路】上空を飛行して【街田】まで移動する。現在の残高は、金貨23枚、銀貨45枚、銅貨3枚。
注射器が銅貨2枚で売っている。これは、注射器銃という、空気銃の素材になる。取り敢えず5本買う。銅貨10枚。銀貨1枚で釣り銭は、銅貨10枚。
一度【登戸研究所】に戻り、銅貨5枚を支払い、『川崎市営地下鉄』に乗る。【玖番道路】を飛行すれば、銅貨を節約出来るのだが、その分、背筋は疲労する。等価交換である。
学校指定のボールペンの銘柄は、1本銅貨2枚だが、5本セットで買うと、割引で銅貨8枚になるというので、それを銅貨14枚のパイプカッターと合わせて、銀貨1枚と銅貨2枚で、購入。
再び、銅貨5枚を支払って、『川崎市営地下鉄』に乗り、【登戸研究所】に戻る。
【登戸研究所】付属の購買部とか生協みたいな位置づけの店で、銀貨2枚分で色々と買う。アルミ定規、折り紙、金鎚、鎖、磁石、単行本ノート、文庫本ノート、ライター、エコバッグの様な手提げ袋、工具箱等々……。
【登戸研究所】では、【九尾の火狐】の討伐依頼の報酬として、金貨9枚が支払われる。現在の残高は、金貨32枚、銀貨41枚、銅貨1枚。【妖狐の仮面】も返却される。その鑑定として次の結果を得た。
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【妖狐の仮面】
装備時、火力が上昇する。
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【火力】とは、火属性魔術の威力と考えて構わない、とのこと。あとは、蜃気楼・逃げ水・陽炎・不知火といった、影属性の魔術や、今回の常井学長の講義に出てきた「ゼーベック効果」も、温度差が生じさせ易くなって、使い勝手が向上するらしい。




