第41話 蝙蝠山卿の帰還
今回から再び、主人公である郡山青年の視点に戻ります。
九尾の火狐との戦闘に勝った郡山青年が、政治結社【草茅危言】の基地に帰還した。蝙蝠山卿の帰還である。
怒涛の連戦を制した郡山青年は、既に初心者の領域は脱している。寧ろ、熟練の猛者の様相を呈する、と言っても過言ではないだろう。
常井氏でさえ、その恐るべき成長速度には恐懼するものがあった。
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「そろそろ、【転移の鳥居】について教えて頂きたい。」
「待ち給え。【転移の鳥居】については、勿論教えよう。既に【武器合成】に関しては教えたと思うが、【転移の鳥居】もまた、【魔道具】に他ならない。要するに、素材が必要となる。」
「【転移の鳥居】に必要な素材とは?」
「抑も、転移とは、任意の時空座標を繋ぐもの。複雑な術式を組んで、それを【刻印術】で刻むのだ。素材もそれに耐えうるものでなければならない。中には、荒脛巾皇国では入手不可能な素材もある。国内の在庫を用いても作れなくはないが、出来れば鮮度の高い素材を蝦夷共和国や玖球帝国で入手した方が望ましい。」
「具体的には?」
「例えば、魔漆。【武器合成】で使う程度なら問題ないが、【転移の鳥居】に使う場合は、玖球帝国で入手出来る、鮮度の高い魔漆が望ましい。」
「それなら今すぐ玖球帝国に行って……。」
「それも少し待ち給え。今、荒脛巾皇国と、玖球帝国の関係は、極めて不安定なのだ。蝦夷共和国で入手すべき素材一覧を渡すので、もし先に行くのであれば、蝦夷共和国の方だが・・・それ以前に、転移系の術や、魔道具の作成を中心に【魔導科学】を学んでからの方がいい。習得するまでに入手した素材の鮮度が劣化したり、或いは、素材の鮮度が劣化する前に技術を習得しようと焦って、転移に失敗する危険性もある。」
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ここで、ブルクドルフ氏が会話に混ざってきた。
「この第参皇児殿は、最初に転移したとき、時空座標の設定を一箇所だけ間違えてな。その結果、この世界の地図になかった太平洋上の無人の大陸に転移したのだ。その結果自体は功績となったが、その過程は本人にとっては、大きな心理的外傷となったようでな。」
失敗が原因で、新大陸を発見したのは凄いが……発見者は、常井氏だったのか。
「当時の私には、辛うじて1回分の転移が出来る程度の魔力しか有していなかった。もし、魔素が無い世界に転移していたら、自力で戻ってはこれなかっただろう。」
成程、随分と繊細な技術のようだ。もし、焦って転移して、この世界でもなく、転移元の世界の日本でもない世界に転移したら?
「それは……慎重に取り組んだ方が良さそうですね。」
「分かってくれればいい。慣れてしまえば、世界の表裏を自由自在に行き来することも容易だが、どうしても最初の1回目だけは、慎重に行った方がいい。出来れば、複数回転移可能な魔力量を有していることが、より望ましいのだが。」
「ところで、その新発見された大陸には何があるんでしょうか?」
「約10年前に発見されたその大陸には、表の世界では既に絶滅した古生物などが生息しているようだ。しかし、無人のため、未だに名称も決まっておらず、調査も殆ど進んでいないのが現状だ。」
もし、両方の世界を行き来できるようになったら、この太平洋上の無人の大陸を調査する目的で、探索できたら面白いかも知れないな。
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【魔導科学】の学習には、最近は【登戸研究所】の方が設備面では充実しているらしいので、【登戸研究所】に行く。
【登戸研究所】では、まず、【九尾の火狐】討伐依頼の事後処理を行う。
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[討伐依頼] 【九尾の火狐】の討伐
・場所:封印地点は機密扱いのため、記載なし。
・条件:封印手段は問わないが、完全に斃すことは
不可能であるため、封印することが難しければ撤退すること。
・報酬:金貨9枚
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報酬額は、【代田ラボッチ】の討伐依頼の報酬と同額か……。そう思っていると、常井氏が、
「【九尾の火狐】の討伐依頼の報酬が、【代田ラボッチ】の討伐依頼の報酬と同額であるわけがないだろう。あれは表向きの額で、追加報酬が支払われる。とはいえ、君が元の世界に帰還した場合、この世界の通貨は玩具の硬貨になってしまう。それよりは、【登戸研究所】の食券の束や、各種鉄道の半年分の定期券、【武器合成】の素材の融通、等々の方が望ましいだろう。」
と言って、【登戸研究所】の食券の束と各種鉄道の半年分の定期券を渡してくる。これで食費と交通費が節約出来る。
「あと、他には、以前に大皇から、男爵相当の臨時の爵位を与えられていると思うが、此度の【九尾の火狐】の討伐を称え、その臨時爵位を子爵相当にまで昇格させることになった。」
討伐証明として、【九尾の火狐】戦でドロップした戦利品の防具【妖狐の仮面】を預ける。その鑑定も事後処理に含まれるそうだ。
【妖狐の仮面】の返却と金貨の支払いは、その結果を待ってから、行われるらしいが、今回の鑑定には時間を要する模様。
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鑑定結果を待つ間、【登戸研究所】の食堂にて、常井学長の講義の補助業務について打ち合わせを行う。といっても、殆ど雑談だが。
「それで、話を戻してしまうけれど、今、荒脛巾皇国と、玖球帝国の関係が極めて不安定なのは何故ですか?」
「今から約10年前の話になるのだが、玖球帝国の最高統治者が、先代の失脚に伴って交代したのだが、その数年後、交代直後の混乱をしている時期に我が国の領主の一部、表の世界の日本では、『四国』に相当する領地を治めている領主が、独断で、玖球帝国に戦争を仕掛けて返り討ちにあってな。帝国側に攻め込まれる前に、停戦協定を結んだという経緯があるのだ。」
ここで、会話に混ざってきた者達がいた。
「玖球帝国の話をしているのかニャ?」
会話に混ざってきた者達とは、堀田少年と……。
「ノワール般若ッ……。」
【決闘術】の実習で暴走したことを思い出し、思わず警戒してしまう。
「そんなに警戒しなくてもいいニャ。」
「そういえば、君は玖球帝国からの留学生だったな。」
「そうニャ。常井センセは、よ~く御存知のハズだニャ。でも、研究生は知らないだろうから、教えてやるニャ。現在の玖球帝国の帝王サマこそ、アタイを留学生として送り込んだ張本人なのニャ!」
まさか、玖球帝国の帝王が直々にこの傍迷惑な猫を留学生として送り込んできたというのか。




