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別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
第零章 荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)編
4/120

第4話 「【重力の軛(くびき)】の前に跪(ひざまず)け」

カクヨムのPVがこの第4話からガクッと落ちていたので、

本文を追記し、一部推敲を加えました(2022/03/13)。

【ここまでのあらすじ】


 【転移の鳥居】で転移した【蜘蛛神社】にて、大型自動車級の大きさの二匹の蜘蛛と交戦。一時撤退を余儀なくされ、暫く走り続けていると……気付いたら周囲は墓地だった。


――――――――――――――――――――――――――――――


 蜘蛛達が追ってくるにはまだ少し時間がかかるようだ。周囲を見渡すと墓石と、卒塔婆で溢れている。表世界の日本では、墓石は漢字で墓碑銘が刻まれ、卒塔婆には、梵字―悉曇(しったん)文字ともいう―で書かれていた。

 これは、古代インドの文字であるシッダーマトリカーであり、ブラーフミー系文字から、ナーガリー文字を経て、現在のインドで用いられている、デーヴァナーガリー文字へと至る過渡期の文字である。


 この世界でも、それは概ね変わらないようだが、よく見ると独自の文字で書かれている可能性もある。


 似ているようで、異なる世界。


 墓参りに、花を手向ける風習は同じなのか、紫色の花が二種類ほど、手向けられている。


 一つは、ヘリオトロープ。花言葉は確か、「太陽に向かう」という意味だったか。


 もう一つは、トリカブト。その花言葉には、複数の意味が考えられるが、確か、「復讐」という意味が含まれていたように思う。


 この二つの言葉の意味を統合すると、「太陽への復讐」となるだろうか。現在の郡山青年は、その意味を知る由もない。


 花は供えられてからそれほど時間は経っていないようだ。墓参りに来た者は、まだこの近くにいるに違いない。


 道を尋ねたい気もするが、言葉が通じるかは不明。多分問題ない気もするが、蜘蛛に襲われている状態で巻き込みたくはない。

 避難を促すか、援軍を呼んで貰うか、或いは、戦力になりそうなら、共闘を要請してみるか。


――――――――――――――――――――――――――――――


 暫くして、別の墓に紫色の花を手向けている白装束を発見した。後ろ姿は黒髪の長髪で中性的な印象を与える。

 声を掛けようと近づいたら、白装束は、太陽に背を向けていたので、影の動きで気付いたのだろうか、こちらが声を掛けるよりも先に振り返った。


 白装束の着物は、向かい側から見ると襟が「y」字状ではなく、逆「y」字状になっていた。死装束だ。

 黒髪の長髪は、整えられてはおらず、まるで落ち武者のよう。まさか幽霊なのか?


 死装束は、走るのではなく、滑るようにこちらに近づいてくる。しかも、無言なのが余計に恐怖を煽る。


 背後からはカサカサと巨大蜘蛛が追ってきていた。巨大蜘蛛に襲われ、墓場へ逃走。墓地にて、死装束と巨大蜘蛛に前後を挟み撃ちにされた。

 前門の虎、後門の狼。挟み撃ちの構図だ。いや、この場合、「前門の死装束、後門の巨大蜘蛛」か。


――――――――――――――――――――――――――――――


 先に動きを見せたのは、死装束の方だった。死装束は、重力に逆らって上昇し、空中に浮いていた。

 何もない空中に(あたか)も透明な足場があるかの如く仁王立ちし、その状態で地上の巨大蜘蛛を睥睨(へいげい)する。


「タランチュラに、アラクネーか。ふむ、悪くない。」


 言葉を発した?この死装束は幽霊でないかどうかは定かではないが、少なくとも言葉が通じるということは分かった。

 それに、二匹の蜘蛛は、タランチュラに、アラクネーというのか。


「この獲物は、中々の上物だ。(われ)が狩る故、是非寄越して貰おう。」


「それは、共闘して頂ける、という認識で構いませんか?」


「否、(むし)ろ下がっていて貰おう。(われ)の術に巻き込んでしまうかも知れぬ。」


「では、助けて頂く形になってしまいますが……。」


 ここまで、巨大蜘蛛に追われていたのは自分だ。(むし)ろ、通りすがりに巻き込んでしまった形になる。


「構わぬ。礼は不要だ。(むし)ろこちらが礼を言いたいぐらいだ。最近は、連中も(われ)に怯えて姿を現さなかったのでな。それにしても連中は随分と殺気立っているようだな。」


 「タランチュラ」と呼ばれた、毛深い方の蜘蛛が先に襲ってくる。死装束は呪文を唱えた。


「【重力の(くびき)】の前に(ひざまず)け」


 死装束が唱えた呪文は、言靈術(げんれいじゅつ)の効果により、その威力が増幅され、タランチュラは、【重力の(くびき)】によって、己の影に縫い止められる。しかもその呪文は、「五・七・五」調になっており、術者の高い知性を示していた。


「タッ、タッ、【竹槍】」


 時空が穿たれ、その裂け目から2本の竹槍が顕現し、巨大蜘蛛「タランチュラ」に刺さり、これを瞬殺する。

 一方、「アラクネー」と呼ばれた、背中に赤い模様が有る方の蜘蛛は、死装束の背後に忍び寄っていたのだが、


「お見通しだ。」


死装束は、太陽に背を向けていたので、既に影の動きで気付いていたのだろう。

 アラクネーは、死装束に強酸を吐きかけたが、死装束は、滑るような動きで優雅にその攻撃を(かわ)した。強酸は揮発性で、石畳の上を溶かし、黒紫色の瘴気の様な瓦斯(ガス)を発生させる。


「タッタタ、竹槍」


 再び時空が穿たれ、その裂け目から3本の竹槍が顕現し、巨大蜘蛛「アラクネー」に刺さる。アラクネーは、未だ(たお)れず、シャーと威嚇するが、


()ぜよ。」


死装束が呪詛を唱えた瞬間、ボンという音とともに巨大蜘蛛は吹き飛び、

空中で反転して、仰向けの状態で地面に叩き付けられた。これも瞬殺である。


「つ、強い……。」


「約束通り、この獲物は、(にえ)として、(われ)が貰う。」


 そう言って、死装束が影属性魔術の収納術を使うと、二匹の巨大蜘蛛は、

己の影の中に引きずり込まれるようにして、沈んでいくのだった……。


――――――――――――――――――――――――――――――


 墓地にて、巨大蜘蛛二匹と交戦中に介入して、巨大蜘蛛達を(たお)してしまった、死装束。


「ところで若僧、何故(なにゆえ)ここに来た?」


「【転移の鳥居】で【荒脛巾(アラハバキ)】に行こうとしたら、転移先が【蜘蛛神社】になっていて、そこで、蜘蛛達に襲われました。」


(そもそ)も、何故(なにゆえ)荒脛巾(アラハバキ)】に行こうとした?」


「首都の【荒脛巾(アラハバキ)】に【荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)】の統治者がいるので、亡命の挨拶に行くように言われました。」


「【荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)】の統治者は、(われ)だが?誰に言われた?」


 死装束を着ていて、幽霊のようだが、本当に【荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)】の統治者なのか?

 いや、この世界では「左前」が正しいのかも知れないし、もう少し情報を聞き出してみるか。


「黒い頭巾(フード)付きの外套(コート)を着ている老人で、【クネヒト・ループレヒト】とか、【老魔法王】とか名乗っていました。」


「ブルクドルフか?そういえば、彼奴(きゃつ)から亡命者が一人来るとか連絡が来ていたな。」


「ブルクドルフ?そういえば、本名は名乗っていなかった気が……。」


「今から120年以上前の話だが、彼奴(きゃつ)もここで、蜘蛛共に襲われておった。今の君の様に戦うことも出来ずに。(ゆえ)(われ)が助けてやった。その時に彼奴(きゃつ)は『ブルクドルフ』と名乗った。下の名前も聞いたような気もするが、使わないので失念した。」


「そういえばまだ名乗っていなかったですね。俺は、郡山俊英といいます。」


「知っているぞ。君が【蝙蝠山卿】と呼ばれていることもな。(われ)は、【荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)】の【大皇(おおきみ)】だ。2600年前に大和民族に神武東征で滅ぼされた時、地下に逃れた後、こちらの世界に転生した。(ゆえ)にこちらの世界では名乗る名はない。」


「自分で名前を決めたりしなかったんですか?或いは、前世の名を名乗るとか。」


「前世の名は2600年前に棄てた。後世の大和民族は、当時の指導者達を『ニギハヤヒ』や『長髄彦』等という名前で呼んでいるようだが、実は、(われ)が何者だったのかは、記憶も結構曖昧だ。自分で名前を決めるのも気が乗らなかった。」


「では、取り敢えず【大皇(おおきみ)】と呼ぶことにします。」


「名前など単なる識別信号だ。自由に呼んで構わないが、字は、【大皇(おおきみ)】で頼む。【大王(おおきみ)】だと、大和朝廷の称号と同じだし、【大君(おおきみ)】だと『たいくん』と紛らわしい。」


「自分の死後の後世の記憶があるんですか?」


「転生後に、こちらの世界に【荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)】を建国し、表大和(おもてやまと)とこちらの世界を【転移の鳥居】で行ったり来たり。表大和(おもてやまと)の世界の技術をこちらの世界に持ち込んで模倣したり。2600年の悠久の刻を(われ)は、そうやって過ごしてきた。」


「ということは、2600歳以上?」


「左様。【荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)】は、表大和(おもてやまと)と似て非なる国。良いところは取り入れ、悪いところは他山の石としてより良い制度にした、理想郷。君の亡命を歓迎しよう、蝙蝠山卿。是非【荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)】を満喫してくれ。」


そして、【クネヒト・ループレヒト】―本名は、ブルクドルフというらしいが―からの紹介状を大皇(おおきみ)に手渡すと、彼の案内の下、首都【荒脛巾(アラハバキ)】にある屋敷へと向かうことになった。

卒塔婆に書かれている文字は、梵字や悉曇しったん文字と呼ばれる。

ヘリオトロープ。花言葉は「太陽に向かう」。

死装束は、向かい側から見ると襟が「y」字状ではなく、逆「y」字状になる。


・旧12話 前門の死装束、後門の巨大蜘蛛

・旧13話 「【重力のくびき】の前にひざまずけ」

・旧14話 【荒脛巾アラハバキ】の【大皇おおきみ

を再編し、改めて、

第4話 「【重力のくびき】の前にひざまずけ」

としてまとめたもの。

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