第38話 【幽者】ユゲタイ
アッシュ少年との模擬戦を制した弓削青年に、今度は、ソーン少年が模擬戦を挑んできた。
だが、村長のヨッホがその前に確認をとる。
「待ち給え。客人に連戦させるというのは如何なものか……。【幽者】ユゲタイ殿。客人である貴方に、この連戦を受けるか否かの選択権がある。貴方にその判断を委ねましょう。」
「構いませんよ。」
「けっ、涼しい顔しやがって。俺との対戦は準備運動にもならなかった、ってか。」
アッシュ少年が悪態をつく。余程悔しかったんでしょうねぇ。
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ソーン少年は、普段はいつも、アッシュ少年と模擬戦をする。他の相手と闘う経験を積むことができる機会は滅多に訪れない。
アッシュは、直情径行型の性格をしているから、今回、【幽者】ユゲタイに挑戦をする動機は理解できる。勿論、客人が模擬戦に応じてくれるかどうかは別であるが。
だから、【幽者】ユゲタイが、アッシュの挑戦を受けたとき、模擬戦に持ち込んだアッシュの手柄を評価したい気持ちと、自分が先にその機会を得たアッシュへ嫉妬する気持ちがあった。
だが、【幽者】ユゲタイの立ち回りを見て、アッシュでは敵わないだろうな、という予感がした。自分とほぼ互角の技量を持つアッシュがまるで相手にならない。
そんな相手に自分ならどう闘うか?実際に闘ってみたい。アッシュだけが闘うのは不公平だし、自分がアッシュの雪辱を果たすのも面白い。
しかし、そうすると彼は連戦する羽目になる。それでも余力を残していそうだから、駄目元で頼んでみるか?
そして、【幽者】ユゲタイは、どうやら、模擬戦に応じてくれる模様。これは、またとない絶好の機会だな。
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エテル、ウィン、エズの三人の少女が、結界に綻びがないかを確認している間、弓削青年は、束の間の休息をしていた。
何故、皆「ユゲタイ」、「ユゲタイ」と呼ぶのだろう?本当は、「弓削泰斗」なのに。
だが、弓削青年は一つの結論に達した。エテル、ウィン、エズ、ヨッホ、アッシュ、ソーン。もしかして、蝦夷エルフには名字がない?
だから、「ユゲタイ」という一つの名前だと思っているのだろう。但し、「ト」が何処に行ったのかは、相変わらず不明だが。子音を発声しない読み方なのかもしれない。
もう、訂正するのも煩わしいから、「ユゲタイ」でいいや。
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模擬戦の審判は、村長のヨッホが引き続き担当する、という。
若い蝦夷エルフでは、公平な判断には難がある。それに、結界があるとはいえ、万が一ではあるが、大怪我を負うかも知れない。それを未然に防げるのは自分しかおるまい。
ソーン少年も、準備運動として、軽く四股を踏む。しかし、武闘派のアッシュ少年とは違い、ソーン少年は、どちらかといえば頭脳派だ。まだ古代魔法の全容は無理であるが、その片鱗は再現できる。
彼の纏う魔力色は緑色。
「先攻は僕が貰う。行くぞ、【幽者】ユゲタイ!」
「来るがいい。受けて立とう。」
ソーン少年は、影属性の魔術を行使する。陰陽術の五行説、火・水・木・金・土のうち、木の属性を影属性の魔術に付与する。
青白い炎を纏った弓削青年に、深緑の荊が巻き付き、その棘を突き立てる。更に、緑色の稲妻が襲い掛かる。
しかし、「雷の矢は炎の鎧を貫けない」。青白い炎は、蒼炎となって、深緑の荊を焼き尽くす。
突然変異である短命種、「病みエルフ」の魔力は、その寿命を縮めるという代償を支払っている分、長命種である、通常の蝦夷エルフの魔力を遙かに凌駕する。
深緑の荊は、一瞬で灰となって、塵と化した。
近接格闘技に関しては、アッシュの方が若干上。そのアッシュでさえ、【幽者】ユゲタイには歯が立たなかった。
それなら魔法戦で挑むしかない。しかし、それも魔力量で上回られてしまえば勝ち目はない。ソーン少年は、投了して、弓削青年の勝利が決まる。
「勝者、【幽者】ユゲタイ!」
郡山青年が、堀田少年、ノワール般若の二人との模擬戦に連勝したのと、時を同じくして、弓削青年もアッシュ少年、ソーン少年との二連戦を制したのであった。
【模擬戦の結果まとめ】
・1回戦
第23話 ○郡山俊英 vs 堀田針壱×
第37話 ○弓削泰斗 vs アッシュ×
・2回戦
第24話 ○郡山俊英 vs ノワール般若×
第38話 ○弓削泰斗 vs ソーン×




