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別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
第参章 蝦夷共和国編
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第37話 紅炎と蒼炎

 アッシュ少年が、弓削青年に模擬戦を挑んできた。


 アッシュ少年は、準備運動として、四股を踏んでいる。まるで土俵入りのようだ。雲竜型か?不知火型か?或いは、そのどちらでもないのか。


 蝦夷(えぞ)エルフの少女、エテル、ウィン、エズの三人は、闘技場の代わりに、障壁結界を生成する詠唱を開始した。

 この結界内では、負傷しても漸次回復する、所謂(いわゆる)「リジェネ」効果が付与される他、障壁によって、流れ弾が観戦者に向かうことを防ぐ。


 そして、村長のヨッホが自ら、模擬戦の審判をする、と申し出た。


 アッシュ少年が闘志を燃やすと彼に魔素が集まり、赤い炎の魔力色(オーラ)を纏う。


 もし、郡山青年がこの様子を見ていたなら、【決闘術】の授業での堀田少年との模擬戦を思い出すだろう。


 実際には、この世界の時系列的には、どちらの模擬戦も同時期に行われているのだが。


 対峙する弓削青年は、青白い炎の魔力色(オーラ)を纏う。これがもし酸素を糧とする炎の話であれば、一般的には、青白い炎の方が、赤い炎よりも温度が高いとされる。


「来いよ、少年。【路上の流儀】というものを教えてやろう。」


「行くぜ、短命種(ウェンペ)。オラアアアアア!」


 アッシュ少年の赤い炎は、真紅の炎となり、炎を纏った拳による正拳突きが繰り出される。


 弓削青年は、その攻撃を左右にユラリユラリと(かわ)しながら、(わら)う。


「随分と直情径行型の攻撃だな。」


 そして、横に回り込むと、肩を押して重心をずらし、軸足を払う。裾払い。アッシュ少年は、大地に叩き付けられる。


 アッシュ少年は、受け身をとって立ち上がり、再び正拳突き。弓削青年は、しゃがんでアッシュ少年の手を手繰り、その懐に潜り込むと、脇の下に中高一本拳を叩き込む。


「脇の下がガラ空きだ。」


 脇の下は人体急所の一つだが、隙だらけだ。アッシュ少年は、暫く手が痺れて動けない。


 アッシュ少年は、普段はいつも、ソーン少年と模擬戦をする。ソーン少年以外の相手とは、あまり闘ったことがないので、絶対的に経験が不足している。


 アッシュ少年は、攻撃方法を真紅の炎を纏った蹴りに切り替える。通常、路上格闘において、無闇な蹴り技は、悪手でしかない。例えば、軸足のみで体を支えている時に、その足を取られたら、体の均衡(バランス)は、あっという間に崩れてしまう。


 だが、魔力を纏っている場合、同じ魔力色(オーラ)以外の相手が触れれば、多少の損傷(ダメージ)を負うため、必ずしも悪手とは言い難い。


 弓削青年は、蹴りを(かわ)し、アッシュ少年の体の均衡(バランス)を崩すと、青白い炎の魔力色(オーラ)を両手に纏い、足刀蹴りを「真剣白刃取り」すると、軸足を中心にして廻転をかけ、遠心力を利用して投げ飛ばす。


 これは、郡山青年が、【体感する物理】と称して、堀田少年に対して使った技に他ならないが、実は、彼は、高校物理の力学で「遠心力」の概念を習うよりも前に、この技を使用している。

 そう、10年前、郡山少年は、弓削少年と決闘紛いの死闘をしたとき、弓削少年の蹴りを利用して、この技を使ったことがあるのだ。

 弓削少年は、この技を喰らったことを執念深く?覚えていて、弓削青年となった現在、それを野生の勘で再現したのだ。


 アッシュ少年と弓削青年は、共に相手の出方を窺っていたが、結界内では、負傷しても漸次回復するため、両者は決着を付けるべく、蓄えていた魔力を全開にして放出する。

 アッシュ少年の赤い炎は、真紅の炎となり、弓削青年の青白い炎もまた、蒼炎となって燃え上がる。


「行くぜ、【幽者】ユゲタイ!オラアアアアア!」


 いや、「ト」は何処に行った?


「受~け~て~立~つ!」


 紅炎と蒼炎が交差する。


 両者がすれ違い、そして振り返って、残心をとる。


 そのうちの一方が、片膝をつき、倒れる。


 他方は、一切よろけることなく、ただそこに屹立(きつりつ)していた。


 模擬戦が終わったとき、そこに立っていたのは……


「勝者、【幽者】ユゲタイ!」


 村長のヨッホが、勝利した者の名を高らかに宣言する。だから、「ト」は何処に行った?


「あのアッシュがこんなに簡単に、しかも一方的に倒されてしまうとは・・・。【幽者】ユゲタイ、次は僕が貴方に模擬戦を申し込ませて頂きたい。」


 寡黙で沈着冷静な印象のソーン少年だったが、この模擬戦の熱気が、彼の闘争本能を揺り動かしたのだろうか。

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