第36話 サンケベツ村
羆が襲われていた、三人の【蝦夷エルフ】の少女を助けた弓削青年は、任意同行を求められる形で、サンケベツ村に連行される流れとなった。
道中、三人の【蝦夷エルフ】の少女が名乗る。赤い服を着た、一番背が高い少女の名前は、エテル。緑の服を着た、中ぐらいの背の少女の名前は、ウィン。青い服を着た、一番背が低い少女の名前は、エズ。
「俺は、弓削泰斗。」
「ユゲタイさん?」
待て、「ト」は何処に行った?
「短命種は、【祟りの子】。名前などあるわけがないでしょう。」
「確かに、この名前はこの身体の持ち主である、【病みエルフ】自身の名前ではなく、【幽体融合】した精神の方である、異世界人の名前だ。」
「【幽体融合】?」
「略して【幽合】ともいう。【幽合】した者は【幽者】とも呼ばれる。」
「【幽者】?『勇者』ではなくて?」
「この短命種は、自身の魔力に酔って、精神まで狂ってしまったのでしょう。」
随分辛辣な評価だな。次回この連中が魔獣に襲われたとしても、見殺しにして助けない、という選択肢も有り得るかも知れないな。
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サンケベツ村に到着すると、青い服を着た村長が出迎えにやって来た。
三人の【蝦夷エルフ】の少女が、部外者を連れてきた経緯を説明する。
「はじめまして。サンケベツ村へようこそ、客人の【幽者】殿。儂は村長のヨッホ。この度は、村の者が羆に襲われていたところを助けて頂いたとか。世話になったようで、感謝する。その上、肉と毛皮まで下さるとは……。」
サンケベツ村は、閉鎖的な村のようだが、村長は、まだ常識的な方の人物のようだ。
左右に太刀持ちと露払いの如く侍る二人の少年の一人は、
「爺さん。折角の肉だ。今晩は宴にしようぜ。」
とか言っている。赤い服を着た、この少年の名前は、アッシュ。緑の服を着た、もう一人の少年の名前は、ソーン。
三人の少女は、華奢な外見とは裏腹に、かなりの剛力で、エッホエッホと羆を解体場へと運んでいき、解体を始めた。
「新し~い餌が来た♪」
「所望の餌~が♪」
「悦~びてその身開き♪」
ここで、猟奇的な解体の歌?の通りに、羆の毛皮がアジの開きの如く包丁で真っ二つに裂かれる。
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中略
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「「「その薫~る肉~を開けよ♪それ壱!弐!参!」」」
やがて、羆は解体され、肉と毛皮に変わった。
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宴の時間。村長のヨッホが、サンケベツ村の現状を弓削青年に説明している。
普段山菜採りをしている場所に、本来、この辺りでは出現しない筈の羆が出現したこと、生態系に何らかの異常がある可能性。
そして、このサンケベツ村の沿革。村長のヨッホが、孤児を引き取り、この村で自給自足の生活をしていること。
村長のヨッホ自身は、短命種を差別するつもりはないが、短命になる呪い、或いは、呪いよりも強力な祟りによって、突然変異である短命種が生まれたのではないかと考えられ、【祟りの子】と呼ばれる傾向が、昔からあること。
通常の蝦夷エルフにとって、自分達長命種よりも強力な魔力を有している短命種は、白銀の髪に真紅の眼という、「アルビノ」の外見も合わさって、恐怖の対象であること。
特に経験の乏しい、若い蝦夷エルフにその傾向が、見受けられること。
こうして、宴の時間は過ぎていった。
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宴の時間が終わると、アッシュ少年が、模擬戦を申し込んできた。
「オイ、短命種。アンタ凄ぇな。山の神を瞬殺したって聞いたぜ。オレと勝負しようぜ!」
因みに、「wenpe」は、アイヌ語で「悪人」とかいう意味の蔑称であるが、このアッシュ少年的には、そこまで悪意はないらしい。
「いいだろう。受けて立つ。」
この直情径行型の性格をした少年は、どこか過去の郡山少年を彷彿とさせる。弓削青年は、一見すると、寡黙なため、冷静に見えるが、実際は、かなり好戦的で、当時はよく郡山少年を挑発したものだ。
闘争本能が疼き、昂ぶる精神が、青白い魔力の奔流となって迸り、久しぶりに、血湧き肉躍る闘争ができそうだ、と嗤うのであった。
サンケベツ村は、三毛別羆事件の三毛別に由来。
村人のモブ6人の名前は、古英語や中英語のアルファベット
œ(エテル)、ƿ(ウィン)、ð(エズ)、ȝ(ヨッホ)、æ(アッシュ)、þ(ソーン)に由来。




