第35話 山の神(キムンカムイ)
【蝦夷共和国】のサンケベツ村。【陰陽術】と【魔導科学】の8年間の修行を終えた弓削青年が、向かった初任務の地である。
「君がこの世界に来る前に、君を昏睡状態にした原因。その黒幕ともいえる者が、この世界にも干渉を始めた。連中の手先となっている魔獣をこちらが先に見つけ出し、始末してしまった方がいいだろう。」
弓削青年自身にも黒幕の心当たりはある。心理的外傷ともいえる、当時の記憶を思い出し、戦慄するが、今は、怒りや憎悪、復讐心の方が強く、恐怖心や絶望を凌駕する。
俺は10年の時を経て成長したが、奴等は10年の時を経て、その分老いているだろう。今はもう俺の方が強い……筈だ。
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三人の【蝦夷エルフ】の少女が山菜採りに来ていた。それぞれ、赤・緑・青の服を着ている。要するに、光の三原色である。赤は一番背が高く、緑が真ん中、青が一番背が低い。多分年齢順。
そこに、本来ならこの辺りにいる筈のない羆が襲い掛かる。緑が後ろに下がって、弓を構え、赤と青が左右に分かれてから拳を構える。
しかし、どう見ても劣勢であると思わざるを得ない。人道的見地から鑑みて、見殺しにするのは躊躇われるが……。
「助けが必要か?」
一応、加勢の必要性の有無を尋ねる。勝手に加勢して、戦利品の分け前を狙う、「狩り場荒らし」という存在がいるため、自分が「狩り場荒らし」ではないことを示すためである。
三人の少女が僅かに頷く。よし、言質はとった。
「顕現せよ!【痛矢串】!」
漆黒の弩が現れる。弓削青年と病みエルフの叡智の結晶と呼んでも過言ではない作品だ。熊がこちらの気配に気付き、背後を振り返って、咆吼する。
「グオオオオオ!」
surkuの毒属性を付与した、paskurの風切羽の矢を口腔内に叩き込むと、羆は怯み、その動きが止まる。
因みに、surkuは、アイヌ語で「トリカブト」を、paskurは、アイヌ語で「カラス」のことである。
「【コンテナ】を召喚!」
3[m]×4[m]×5[m]の直方体が、羆の上空に出現し、重力によって羆の上に落下。その重量で以て、羆を押し潰して、圧殺した。
「山の神をこんな方法で殺すなんて……。」
どうやら、三人はドン引きしているようだ……。アイヌ語でkimunkamuyは、「山の神」、或いは、「山に住む神」という意味である。勿論、箱根駅伝の5区を走ったりするわけではない。
「まだいたのか。俺が戦っている間に逃げれば良かったものを。」
逃げていない以上、一応先に交戦していた者にも戦利品の分配をしなければならない。要するに、分け前が減るのだ。
「腰が引けちゃって……。」
「羆は逃げる者を追う習性があるので。」
成程。それも一理ある。死んだふりも効果が無い。昔のアイヌ民族は、山で羆に遭遇したときは、祝詞を唱えたという。羆からすれば、何をしてくるか分からないのだから、さぞかし不気味であろう。
己の影から【コンテナ】を亜空間へ収納し、うつ伏せに斃れていた羆の死体を蹴り上げて仰向けにする。山の神に対する敬意の欠片もない蛮行に三人は若干の不快感を示す。
「どうやら俺が探している個体とは別の個体のようだな。」
「別の個体を探しているんですか?」
「ああ。胸から背中にかけて白毛が通った、『袈裟懸け』模様が特徴でな。この辺りでそういう個体を見なかったか?」
「抑も、普段この辺りでは羆は出ません。」
「そんな物騒な場所だったら、山菜採りに来ないし。」
「では、生態系に何らかの異常と。それでこの羆の素材はどう分配する?」
「iyairaykere。助けて下さって感謝します。素材はそちらの総取りで構いません。」
「それでも、そちらが先に交戦していたのも事実。持ち運ぶのも面倒だし、肉と毛皮はそちらで引き取って貰いたい。」
「では、今回の経緯に関して、事情説明のため、私達の村まで同行願えますか。」
何だか職務質問のような雰囲気になってきた。一応助けた側の筈なのに。これも、【病みエルフ】だからなのか。そういうわけで、サンケベツ村に任意同行を求められる流れとなった。
ゑ?「吊り橋効果」?そんなものは存在しない。何故なら、抑も、【病みエルフ】という存在は、【祟りの子】として、それだけ【蝦夷エルフ】にとって忌み嫌われ、恐れられているのだから。
脳内が桃色のお花畑思考の展開は、
他所の作品に枚挙に暇がないぐらい沢山あるので、
下手に真似して書こうとすると、二番煎じになりかねない。
本作は、異世界小説特有のフラグは、へし折っていく方向で。




