第34話 【病みエルフ】との【幽合】
発想の経緯:
・弓削少年→幽体離脱中→精神のみの状態で、実体がない。
・病みエルフ→心無き身体を有している。
幽と体を融合させる→【幽体融合】→略して、【幽合】。
→【幽合】して、転生→『勇者』に準えて、【幽者】。
幽体離脱した弓削少年は、【蝦夷エルフ】の短命種、通称【病みエルフ】の少年と【幽体融合】、略して、【幽合】をして、この地、【蝦夷共和国】に転生することとなった。
【病みエルフ】の少年は、白銀の髪に真紅の眼、所謂、「アルビノ」と呼ばれる容貌だったが、弓削少年と融合したことで、彼の黒髪と混ざり、黒に限りなく近い灰色、灰黒色の髪になり、眼の真紅もかなり薄くなった。
「予め注意しておくが、興奮して昂ぶったりすると、【幽体融合】は解除され、『幽体離脱』ならぬ、幽と体の分離、所謂、【幽体分離】、略して、【幽離】が起こる。言い換えれば、キレて意識が飛ぶようなものか。その場合、【病みエルフ】の白銀の髪に真紅の眼といった特徴が強く出てくるだろう。」
「俺もこの【病みエルフ】の少年も殆ど同い年ぐらいみたい。今、この少年の記憶というか、情報が流れ込んで来たんですけど。」
「人間の記憶は、言語などを司る『意味記憶』、運動などを司る『手続き記憶』、経験などを司る『エピソード記憶』、等に分類されるが、この少年の心は既に壊れてしまっているので、『エピソード記憶』以外の『意味記憶』や『手続き記憶』が継承されたのだろう。
とはいえ、10歳と10歳の記憶が合わさったから、精神年齢が20歳になる、といった単純な計算になるわけではない。」
「俺は弓削氏だから、木を削って弓を作るけど、この少年も【蝦夷エルフ】だから、実際に、イチイの木を使って、弓を作った経験があるようだな。そういえば、この少年には名前がないみたい。」
「【病みエルフ】は、【蝦夷エルフ】の短命種で、突然変異だ。その寿命は、長命種よりは短いが、普通の人族と同程度だ。それよりも、長命種よりも強力な魔力を有していることで、【祟りの子】として忌み嫌われていたから、名前も付けられていなかったのだろう。名前に関しては、君の名前をそのまま継承すればいいだろう。【幽合】しているから、新生【幽者】弓削泰斗、といったところではないかね。」
【病みエルフ】との【幽合】。それによって、転生したから、【幽者】というわけか。
「ところで、もう元の世界には戻れないのでしょうか?」
「また、幽体に分離して、元の身体に戻ればいいだけさ。この世界にいる間は、この世界を楽しむといい。敢えて名付けるなら、『どうぞ異世界の旅をお楽しみ下さいツアー』といったところか。」
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クネヒト・ループレヒトの【蝦夷共和国】における拠点。そこに一人の青年がやって来た。
「師・ブルクドルフ。また誰か拾ったんですか?」
【クネヒト・ループレヒト】と名乗った老人は、ブルクドルフ氏というらしい。ブルクドルフ氏は、青年にこれまでの経緯を説明した。
「常井君か。彼こそが、【病みエルフ】と【幽合】した【幽者】弓削泰斗!どうだ、素晴らしい作品だとは思わんかね?」
青年の名は、常井参狼。この老人の弟子で、荒脛巾皇国第参皇児らしい。
「弓削君というのか。君もこの変な爺さんに目を付けられて災難だったな。」
常井氏は、ロシア帝国末期の怪僧ラスプーチンを思わせるような、黒髪長髪、痩身にして長身の眼光の鋭い巨漢だが、憐憫の視線を向けてきた。
「それで、どうだろう。彼の年齢なら、中等、及び、高等学校の8年間の教育を受ける権利があるのではないかね。」
「【蝦夷エルフ】の短命種で、突然変異でもある【病みエルフ】を荒脛巾皇国の学校に通わせろと?確かに、その特殊な出自を考えると、【蝦夷共和国】内よりは差別は少ないとはいえ、その莫大な魔力を抑えられる設備は当方にはないから無理ですな。」
「では、君が家庭教師に来るというのは?最近、【転移の鳥居】を習得したのだろう?」
「私は、これでも大皇に教育行政を一任され、多忙の身なのですが?」
因みに、この常井氏は、郡山青年と出会う10年前である。
「【魔導科学】は私が教えるから、君は時々でいいから、【陰陽術】を教えてやってくれないか。この少年は、【陰陽術士】の系統の家系の生まれらしく、ある程度の素養はありそうだぞ。」
「師がそこまで仰るのなら。あくまで無理のない範囲で、ですが。」
「では、【幽者】よ。私の弟子になれ。」
ブルクドルフ氏は、実に愉しそうである。
「宜しく御願いします。」
「あまり期待しないでくれ。」
一方、兄弟子、兼、新しい師匠となる常井氏は、あまり愉しく無さそうではあったが。
こうして、弓削少年は、【陰陽術】と【魔導科学】の教育を受ける機会を得た。そして、8年間の修行を終え、最初の依頼を受諾した弓削青年は、初任務の地である、【蝦夷共和国】のサンケベツ村へと向かうのだった。




