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別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
第参章 蝦夷共和国編
32/120

第32話 トンネルを抜けると、そこは……「別次元の領域」であった。

2021/08/30(月)列車の外観について、少し修正。

 これは、郡山青年がもう一つの日本に転移する約10年前の話である。


 とある病室にて。


 小学校高学年の一人の少年が、寝台(ベッド)の上で眠っている。少年の名は、弓削泰斗。かつて、郡山少年の親友であり、好敵手(ライバル)であり、そしてある意味では、人生の師でもあった人物は、とある理由で昏睡状態に陥った後、この函館の病院へと転院してきた。


 郡山少年にとっては、衝撃(ショック)が大き過ぎるのではないか、という周囲の配慮からなのか、弓削少年が陥っている状態について、郡山少年には情報を伝えられず、単純に転校扱いとなっていたが、郡山少年は、年齢の割には賢かったため、最後に塾から帰った時、彼の様子がいつもと違うことに気付いていたし、詳細は分からなかったものの、ある程度の状況を察していた。


――――――――――――――――――――――――――――――


 黒幕は、二人の絆を分断するため、二人のどちらかを退塾させようとしていた。何故なら、二人のどちらかが、黒幕にとって知られたくない情報を握っている可能性があるから。


 それでも、二人の成績はそれなりに高いため、二人同時に辞めさせた場合は、逆に周囲に不審がられる可能性がある。結論としては、どちらか一方が消えれば充分だ。

 何故なら、二人とも人間不信に陥っているので、他の人間に情報を漏らすことはないだろうから。


 最初の頃、黒幕は、郡山少年の方を消そうとした。しかし、彼の方が成績は上。中学受験に挫折した、と周囲に思わせるには、説得材料に欠ける。黒幕は、標的を弓削少年に変更することにした。


 弓削少年は、自らが陥っている問題に関して、郡山少年を巻き込みたくなかった。互いにとって初めての親友だからこそ、命を賭して守ろうという、強い決意があった。


 弓削少年は、黒幕に対して単身で挑んだ。黒幕は弓削少年に暴力を振るい、恐怖で脅し、絶望させて心を折ろうとした。


 しかし、弓削少年は、暴力を嘲笑い、恐怖に抗い、絶望に屈することなく、黒幕に不利な情報を流し、逆に、表舞台から退場させた。

 だが、その代償として、心身に癒えることのない傷を負い、昏睡状態に陥って、寝台(ベッド)の上で眠ることになってしまったが。


――――――――――――――――――――――――――――――


 弓削少年が眠る病室に、黒い頭巾(フード)付きの外套(コート)を着ている、厳格そうな強面の老人が訪れた。


 この約10年後に、郡山青年をもう一つの日本に(いざな)い、【クネヒト・ループレヒト】、【老魔法王】と名乗った彼と同一人物である。


 老人は、病室に直接転移してきたため、受付の入場記録には、面会者としてお見舞いに来たという記録は残っていないだろう。


 老人は、呪詛を唱えて、何らかの魔術を行使して、弓削少年の精神世界に干渉することにした。魔素の半減期が短すぎて観測すら出来ない表の世界では、この魔術もあくまで祈祷の範疇を出ないが、弓削少年の高い魔素検知能力に賭けることにした。


――――――――――――――――――――――――――――――


 弓削少年は、見覚えのある駅にいた。いつも塾に通っていた駅。実際は、病室で眠っており、夢を見ているのだが、本人はそのことを知る由もない。


 そんな、いつもの駅に見慣れない列車が停車していた。明治時代や大正時代に走っていた汽車の様な内装であり、木目と赤い座席の車両だった。

 路面電車みたいに、1両編成で、外装は、「スカ」色の紺色を黒に、クリーム色を白にした様な、所謂(いわゆる)「お葬式色」で、殆どが白黒の中に若干の金色の刻印が施された帯があり、その組み合わせは、まるで、霊柩車を想起させる。


 しかし、あの列車に乗ったら何処に行くのだろう、という好奇心が疼く。それでも、気が付いた時には、決して乗るまいと思っていた(はず)の列車の中にいて、既に扉が閉まっていた。


 列車の中には自分以外誰もいない。終電でも他に誰かいるだろう。間違えて回送電車に乗ってしまった?車庫に入る前に車掌が確認に来るのではないか?

 座席に座ってそんなことを考えている間に、走り出した列車は、やがて隧道(ずいどう)とでも呼ぶのが相応(ふさわ)しい、長いトンネルの中へと入っていった。


――――――――――――――――――――――――――――――


 トンネルを抜けると、そこは……「別次元の領域」であった。終着駅と思われるその場所は、駅舎すら存在しない程の田舎だった。

 その駅は、水色のフェンスに囲われており、フェンスの向こうには、地平線が広がり、その先には、森林に囲まれて、ゴルフ場みたいになっており、さらにその向こうには、山が見える。


 それだけならまだ問題ない。当駅始発に乗って折り返せば、元の駅まで戻れるはずだから。問題は、駅名の看板等に書かれている文字が、日本語ではないこと。


【Афунрупар】


 一件、普通のラテンアルファベットに見えるが、違うな。これは、キリル文字か?露西亜(ロシア)語の教本なら、弓削家の蔵書の中にあったことを覚えている。確か、キリル文字は、ラテン文字と読み方は違うが、アルファベット通りの発音で読む筈だ。


「アフンルパラ?」


 最後が子音で終わっているが、どう考えても、露西亜(ロシア)語の単語ではない気がする。モンゴル語やニヴフ語もキリル文字を使うが、モンゴル語でもニヴフ語でもないだろう。

 確か、「アフンルパラ」という単語は、アイヌ語で「冥界への入口」とかいう意味だったような……。


「すると、この文字は、アイヌ語のキリル文字転写なのか?」


「ご名答。その年で、このような言語学の推理が出来るとは見事だ。」


 気が付いたら、何もない空中に、黒い頭巾(フード)付きの外套(コート)を着ている、厳格そうな強面の老人が立ち、拍手をしていた。誰だ?この爺さんは。

ラテン文字からキリル文字への転写自体、複数通りの表記法が考えられるため、

本文のアイヌ語のキリル文字転写が、必ずしも正しいとは限りません。

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