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別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
第弐章 登戸研究所編
28/120

第28話 【九尾の火狐】

 政治結社【草茅危言】の基地(アジト)にて。もう、この世界に来て1週間が経とうとしている。


 石化させて封印していた【九尾の火狐】の封印が解ける周期が間近に迫っているらしい。


 ここ数日で、【(ぬえ)】、堀田少年、ノワール般若、そして、【九尾の火狐】に挑むために、【メデューサ・ゴルゴン】、【八咫烏天狗】、【代田(だいた)ラボッチ】と戦い、計6連戦して、既に4体の式神を眷属化している。


 常井氏曰く、


「【九尾の火狐】(クラス)と交戦するために必要な戦闘経験としても、及第点だろう。存分に戦ってくるといい。あとはこれも渡しておく。いざという時の切り札となろう。」


 ブルクドルフ氏曰く、


「【九尾の火狐】の封印地点は、無意味な混乱を避けるために、機密扱いになっているから、その詳細な場所は言えないが、初日に【転移の鳥居】をくぐったのと同じ場所で、既に【転移の鳥居】を、【九尾の火狐】の封印地点へと繋いである。」


とのことである。


 ゲーム的感覚で言えば、最初のボス戦といったところか。


 【転移の鳥居】をくぐって、いざ【九尾の火狐】の封印地点へ。


――――――――――――――――――――――――――――――


 【転移の鳥居】をくぐるとそこは……神社?余談だが、初日に転移した【蜘蛛神社】は、生姜が名物らしい……が、ここは【蜘蛛神社】ではない。


 火山が近いのだろうか?硫黄の臭いもする。一説には、溶岩が冷えて固まったもの『殺生石』と呼んでいるらしい。


 【九尾の火狐】の封印が解ける周期が近いためか、地揺れも激しい。ある一角に火山性の瓦斯(ガス)が溜まっている。おそらく、あれが【九尾の火狐】の瘴気だろう。近づいていくと、


「妾の眠りを覚ます者は汝か?」


という(こえ)が聞こえたので、これに応える。


「だとしたら、如何するつもりか?」


 すると、『殺生石』が砕け、【九尾の火狐】がその姿を顕現させる。


「この前は、常井と名乗る陰陽術士に不覚をとったが、汝では相手にならぬ。疾く去らねば、妾の贄としてくれよう。」


 四足歩行だから魔人ではなく、魔獣。魔物ではなく、人語を解するから、魔族。だが、それも、これまで戦ってきた相手とは、別格。まるで桁が違う。未だ届かぬ高み、それはもう……別次元の領域。


 しかし、ここで屈するわけにはいかない。瘴気に(あらが)い、歩を進める。


「ほう。多少の手応えはありそうだな。その心意気に敬意を表し、妾の炎で完膚なきまでに焼き尽くしてくれよう!」


――――――――――――――――――――――――――――――


 戦闘開始。【九尾の火狐】は、まずは小手調べと言うつもりなのか、狐火を発生させる。


 狐火にせよ、人魂にせよ、決して得体の知れないものではなく、科学的に解釈することが可能だ。


 かつては土葬だったので、埋葬された死体から出た、(リン)が自然発火したもの、とする説が有力だ。


 そして、黄(リン)は、白(リン)とも呼ばれるが、約60℃で自然発火するため、自然発火性物質として、第3類危険物に指定されている。『水中に保存』という保存方法は、選択科目が化学の受験生にとっても、無機化学の定番問題である。


「黄(リン)は、『水中に保存』しないとな。出でよ、一酸化二水素ジヒドロゲンモノオキシド!」


 言靈術(げんれいじゅつ)の呪文を唱えて、水を生成する【魔導科学】の奥義である。(ちな)みに、この呪文は、常井氏の直伝である。

 DHMOと省略されることもある、この呪文の元ネタは、単なる冗句(ジョーク)であるが、「人を騙す能力」を有する似非科学であり、騙されないためには、細心の注意を要する。普段から、化学の知識を自家薬籠中のものとしておくことが望ましい。


「窒息消火完了!」


 間欠泉が螺旋を描き、狐火は、渦に閉じ込められ、鎮火する。


「その小賢しい技は、あの常井とかいう者に教わったのか?実に忌々しい。だが、今度こそ焼き尽くしてくれるわ!」


 口から放たれる火炎放射が、水平方向に火柱を形成する。火属性の魔力を纏っても、氷属性の魔術の奥義【極低温の瘴気(クライオ)】でも、防ぎ切れそうもないので(かわ)すしかない。


「顕現せよ、黒キ楯(シュヴァルツシルト)!」


「その程度の楯で妾の炎を防げるとでも?楯ごと灰にしてくれるッ!」


「【重力の(くびき)】の前に(ひざまず)け!」


「妾を愚弄するか?小僧。その身で贖わせてやるッ!」


【重力の(くびき)】の技能(スキル)は効かないのか……それなら。


黒キ楯(シュヴァルツシルト)をアイギスに変更!石化光線!」


 【メデューサ・ゴルゴン】の石化能力を引き継いだアイギスから放たれた光線は、口から放たれる火炎放射の火柱ごと、【九尾の火狐】を石化させることに成功した。


――――――――――――――――――――――――――――――


 だが、【九尾の火狐】も【メデューサ・ゴルゴン】の時と同様、石化状態を解除しようと(あらが)い、【九尾の火狐】の全身を覆っていた石が砕け散る。


「この程度の小細工で、以前と同様に妾を封じられると思うなッ!」


 石化状態が解けた、【九尾の火狐】の9本の尻尾のうち、妖狐としての生来の1本を除き、残りの8本が赤、橙、黄色、黄緑、緑、水色、青、紫に輝く。


「聖なる炎をその身に受けよ。」


 しかし、郡山青年も【九尾の火狐】が石化している間に【烏天狗の仮面】を装備し、背中から黒翼が生え、飛行能力を得ていた。

 複数の【魔力色】を操る光景は初めて見たものの、どこかでこういう話を聞いたことがあるな……と、八色の火炎放射の間を縫うように飛び回りながら考え、解答に至る。


 【八岐大蛇(やまたのおろち)】か。あの好戦的な蛇神を降臨させて、助太刀をしてもらうことにしよう。


「出でよ、【八岐大蛇(やまたのおろち)】。我に力を!」


 【八岐大蛇(やまたのおろち)】が顕現し、【九尾の火狐】に対峙する。

 「あか」が赤い尻尾に、「だいだい」が橙の尻尾に、「きいろ」が黄色の尻尾に、「きみどり」が黄緑の尻尾に、「みどり」が緑の尻尾に、「みずいろ」が水色の尻尾に、「あお」が青の尻尾に、「むらさき」が紫の尻尾に、各々の頭が噛み付いていき、【九尾の火狐】の動きを止める。

 自分と相手の魔力色(オーラ)が同色の時は、燃焼しないため、【八岐大蛇(やまたのおろち)】が、【九尾の火狐】の炎で燃えることはない。


 最後の1本の尻尾は、飛んで(かわ)し、楯で弾きながら、【九尾の火狐】の懐に飛び込んで、喉元に迫る。顎への掌底からの『喉輪』で、火炎放射は撃たせない。


 そして、事前に常井氏に渡された切り札がその真価を発揮する。


「テオブロミンを経口投与!」


その切り札とは……勿論、ノワール般若戦で登場した、あの【緑のフラスコ】である。【緑のフラスコ】の中身を【九尾の火狐】の口内に流し込む。


「お、おのれえええええ」


 その結果、【九尾の火狐】も、ノワール般若と同様、目を回して、痙攣し、のたうち回ることになる。


 『テオブロミン』は、犬や猫にとっては、死に至ることもある猛毒であり、それは、この世界の狗族や猫族にとっても、同様である。【九尾の火狐】は狐、狐は犬の仲間、即ち、【九尾の火狐】も狗族であることに変わりはない。


 従って、【九尾の火狐】は既に瀕死状態に追い込まれることになる。そして、【陰陽術】は、瀕死状態の相手のみ、護符に封印することが可能である。

 【陰陽術】の護符を手にかざすと、【九尾の火狐】は、纏っていた瘴気とともに、黒紫色の魔素へと変わり、白紙の護符へと吸い込まれていったのであった……。


┌──────────────┐

│九尾の火狐との戦闘に勝った。│

│妖狐の仮面を入手した。   │

└──────────────┘

※【重要】

念の為に注意喚起しておきますが、絶対に、

犬や猫にチョコレートを与えてはいけません。

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