第28話 【九尾の火狐】
政治結社【草茅危言】の基地にて。もう、この世界に来て1週間が経とうとしている。
石化させて封印していた【九尾の火狐】の封印が解ける周期が間近に迫っているらしい。
ここ数日で、【鵺】、堀田少年、ノワール般若、そして、【九尾の火狐】に挑むために、【メデューサ・ゴルゴン】、【八咫烏天狗】、【代田ラボッチ】と戦い、計6連戦して、既に4体の式神を眷属化している。
常井氏曰く、
「【九尾の火狐】級と交戦するために必要な戦闘経験としても、及第点だろう。存分に戦ってくるといい。あとはこれも渡しておく。いざという時の切り札となろう。」
ブルクドルフ氏曰く、
「【九尾の火狐】の封印地点は、無意味な混乱を避けるために、機密扱いになっているから、その詳細な場所は言えないが、初日に【転移の鳥居】をくぐったのと同じ場所で、既に【転移の鳥居】を、【九尾の火狐】の封印地点へと繋いである。」
とのことである。
ゲーム的感覚で言えば、最初のボス戦といったところか。
【転移の鳥居】をくぐって、いざ【九尾の火狐】の封印地点へ。
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【転移の鳥居】をくぐるとそこは……神社?余談だが、初日に転移した【蜘蛛神社】は、生姜が名物らしい……が、ここは【蜘蛛神社】ではない。
火山が近いのだろうか?硫黄の臭いもする。一説には、溶岩が冷えて固まったもの『殺生石』と呼んでいるらしい。
【九尾の火狐】の封印が解ける周期が近いためか、地揺れも激しい。ある一角に火山性の瓦斯が溜まっている。おそらく、あれが【九尾の火狐】の瘴気だろう。近づいていくと、
「妾の眠りを覚ます者は汝か?」
という聲が聞こえたので、これに応える。
「だとしたら、如何するつもりか?」
すると、『殺生石』が砕け、【九尾の火狐】がその姿を顕現させる。
「この前は、常井と名乗る陰陽術士に不覚をとったが、汝では相手にならぬ。疾く去らねば、妾の贄としてくれよう。」
四足歩行だから魔人ではなく、魔獣。魔物ではなく、人語を解するから、魔族。だが、それも、これまで戦ってきた相手とは、別格。まるで桁が違う。未だ届かぬ高み、それはもう……別次元の領域。
しかし、ここで屈するわけにはいかない。瘴気に抗い、歩を進める。
「ほう。多少の手応えはありそうだな。その心意気に敬意を表し、妾の炎で完膚なきまでに焼き尽くしてくれよう!」
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戦闘開始。【九尾の火狐】は、まずは小手調べと言うつもりなのか、狐火を発生させる。
狐火にせよ、人魂にせよ、決して得体の知れないものではなく、科学的に解釈することが可能だ。
かつては土葬だったので、埋葬された死体から出た、燐が自然発火したもの、とする説が有力だ。
そして、黄燐は、白燐とも呼ばれるが、約60℃で自然発火するため、自然発火性物質として、第3類危険物に指定されている。『水中に保存』という保存方法は、選択科目が化学の受験生にとっても、無機化学の定番問題である。
「黄燐は、『水中に保存』しないとな。出でよ、一酸化二水素!」
言靈術の呪文を唱えて、水を生成する【魔導科学】の奥義である。因みに、この呪文は、常井氏の直伝である。
DHMOと省略されることもある、この呪文の元ネタは、単なる冗句であるが、「人を騙す能力」を有する似非科学であり、騙されないためには、細心の注意を要する。普段から、化学の知識を自家薬籠中のものとしておくことが望ましい。
「窒息消火完了!」
間欠泉が螺旋を描き、狐火は、渦に閉じ込められ、鎮火する。
「その小賢しい技は、あの常井とかいう者に教わったのか?実に忌々しい。だが、今度こそ焼き尽くしてくれるわ!」
口から放たれる火炎放射が、水平方向に火柱を形成する。火属性の魔力を纏っても、氷属性の魔術の奥義【極低温の瘴気】でも、防ぎ切れそうもないので躱すしかない。
「顕現せよ、黒キ楯!」
「その程度の楯で妾の炎を防げるとでも?楯ごと灰にしてくれるッ!」
「【重力の軛】の前に跪け!」
「妾を愚弄するか?小僧。その身で贖わせてやるッ!」
【重力の軛】の技能は効かないのか……それなら。
「黒キ楯をアイギスに変更!石化光線!」
【メデューサ・ゴルゴン】の石化能力を引き継いだアイギスから放たれた光線は、口から放たれる火炎放射の火柱ごと、【九尾の火狐】を石化させることに成功した。
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だが、【九尾の火狐】も【メデューサ・ゴルゴン】の時と同様、石化状態を解除しようと抗い、【九尾の火狐】の全身を覆っていた石が砕け散る。
「この程度の小細工で、以前と同様に妾を封じられると思うなッ!」
石化状態が解けた、【九尾の火狐】の9本の尻尾のうち、妖狐としての生来の1本を除き、残りの8本が赤、橙、黄色、黄緑、緑、水色、青、紫に輝く。
「聖なる炎をその身に受けよ。」
しかし、郡山青年も【九尾の火狐】が石化している間に【烏天狗の仮面】を装備し、背中から黒翼が生え、飛行能力を得ていた。
複数の【魔力色】を操る光景は初めて見たものの、どこかでこういう話を聞いたことがあるな……と、八色の火炎放射の間を縫うように飛び回りながら考え、解答に至る。
【八岐大蛇】か。あの好戦的な蛇神を降臨させて、助太刀をしてもらうことにしよう。
「出でよ、【八岐大蛇】。我に力を!」
【八岐大蛇】が顕現し、【九尾の火狐】に対峙する。
「あか」が赤い尻尾に、「だいだい」が橙の尻尾に、「きいろ」が黄色の尻尾に、「きみどり」が黄緑の尻尾に、「みどり」が緑の尻尾に、「みずいろ」が水色の尻尾に、「あお」が青の尻尾に、「むらさき」が紫の尻尾に、各々の頭が噛み付いていき、【九尾の火狐】の動きを止める。
自分と相手の魔力色が同色の時は、燃焼しないため、【八岐大蛇】が、【九尾の火狐】の炎で燃えることはない。
最後の1本の尻尾は、飛んで躱し、楯で弾きながら、【九尾の火狐】の懐に飛び込んで、喉元に迫る。顎への掌底からの『喉輪』で、火炎放射は撃たせない。
そして、事前に常井氏に渡された切り札がその真価を発揮する。
「テオブロミンを経口投与!」
その切り札とは……勿論、ノワール般若戦で登場した、あの【緑のフラスコ】である。【緑のフラスコ】の中身を【九尾の火狐】の口内に流し込む。
「お、おのれえええええ」
その結果、【九尾の火狐】も、ノワール般若と同様、目を回して、痙攣し、のたうち回ることになる。
『テオブロミン』は、犬や猫にとっては、死に至ることもある猛毒であり、それは、この世界の狗族や猫族にとっても、同様である。【九尾の火狐】は狐、狐は犬の仲間、即ち、【九尾の火狐】も狗族であることに変わりはない。
従って、【九尾の火狐】は既に瀕死状態に追い込まれることになる。そして、【陰陽術】は、瀕死状態の相手のみ、護符に封印することが可能である。
【陰陽術】の護符を手にかざすと、【九尾の火狐】は、纏っていた瘴気とともに、黒紫色の魔素へと変わり、白紙の護符へと吸い込まれていったのであった……。
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│九尾の火狐との戦闘に勝った。│
│妖狐の仮面を入手した。 │
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※【重要】
念の為に注意喚起しておきますが、絶対に、
犬や猫にチョコレートを与えてはいけません。




