第25話 【メデューサ・ゴルゴン】
【登戸研究所】から、政治結社【草茅危言】の基地に常井所長と話しながら帰宅?する。
「こっちの世界では、部活動の指導監督業務がないから、その分、教材研究に時間を割けて、本当に有難いですね。」
「そちらの世界の制度は色々と破綻しているように見受けられる。『サービス残業』?サービスには対価が伴う。それは、『勤務時間外労働』かつ『無賃金労働』というのだ。この国では、残業すると、勤務時間内に処理できる能力がない、という烙印を押されかねない。悪質なら、国が『残業禁止令』を出すべきだ。況してや、『無賃金労働』は違法だ。その場合、管理者である校長は何らかの懲戒処分を受けることは免れないだろう。」
「日本でそのようなことをすれば、『協調性』がないとか言われそう……。」
「『協調性』?『同調圧力』に『迎合』するの間違いではないかね?」
「そういうこと言うと、今度は、『コミュニケーション能力』がない、とか言われますよ。」
「『commmunicate』という英単語は、第一義的には、『意思伝達をする』という意味で、その名詞系だから、名詞+名詞という時点で何かがおかしいし、間違っていることを指摘している段階で既に『意思伝達をする』ことが出来ているではないか。言葉の定義を疎かにしているから、言葉を権力者に恣意的に使われているのではないか?」
相変わらず、常井氏はこういう言葉の定義を疎かにしていることに関しては厳しい。
「そういう言葉は結構ありそうですね。」
「君の国の人間は言葉を正しく使えなくなる呪いでもかけられているのか?例えば、部活動関連でいえば、部活動に所属していないことを『帰宅部』というらしいが、帰宅の経路でも論文にまとめるのかね?『無所属』が正しいだろう。『体罰』?罰せられる側が法律にでも違反したのか?譬えその場合でも、『肉体刑』は法律で禁止されているから、これは明確に『虐待』だから、逆に『暴行罪』や『傷害罪』で訴えればいい。」
「若い人の立場からはあまり指摘できない仕組みになっているんですよ。」
「何処まで腐敗しているのか……。年齢の高い者とて、常に正しい判断が出来るわけではない、というのに。儒教思想の負の側面だな。例えば、君の上官・上司・上長が『地下鉄に毒瓦斯を撒いてこい』と言ったら、君はそれに素直に従うのか?全てに『ハイ』と答えるのが良い部下ではない。」
「あの、ノワール般若の件は……?」
【緑のフラスコ】は、先程の発言と矛盾しているのではないだろうか。
「あれは、『正当防衛』が成立する。抑も、模擬戦の水準を超えた殺意で襲ってきたのだから。しかも、あの者は怒りの沸点が低い代わりに、自身が暴走したことは憶えていないから、何度も繰り返すのだ。」
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政治結社【草茅危言】の基地にて夕飯である。
「今日は、模擬戦で大活躍したそうだな。」
【クネヒト・ループレヒト】、【老魔法王】の称号を持つ、師・ブルクドルフ氏。
「講義でも、私の質問に模範解答を示していました。」
文部卿、【登戸研究所】所長、及びその付属学校である、【暗黒学問塾】学長等を兼任している、常井氏。
「お褒め頂き大変光栄なのですが、俺はいつ元の世界に帰還できるのでしょうか?」
今日で異世界4日目が終わる。現実世界とは相互に時間的影響を及ぼさないとはいえ、このまま、この世界の住人になるつもりはないし、「どうぞ異世界の旅をお楽しみ下さいツアー」を続けるわけにもいかない。
「元の世界に戻るには、転移を自家薬籠中の物にする必要がある。自力で世界間を転移するのに必要な魔力は、任意の空間を繋ぐのに必要な魔力よりも桁違いに多い。敢えて、数値で準えるなら、最低でも10倍は必要だな。まずは、任意の空間を繋ぐことが出来る水準まで戦闘経験を重ねて、魔力を増幅させていくことが重要だろう。」
「どのくらい戦闘経験を積めばいいのでしょうか?」
「強敵と戦えば戦うほど、早く強くなるが……、そういえば、火急の問題が生じていたな……。それでも、件の相手と戦わせるのは時期尚早か?君の所感としては、如何思われる?【登戸研究所】所長殿?」
「如何に底の知れない戦闘能力を有しているとはいえ、戦闘経験の少ない現段階で、いきなり【九尾の火狐】級と交戦させるのは、かなり無謀でしょうな。」
「【九尾の火狐】?」
『九尾の狐』なら聞いたことがある。別名『玉藻前』で、那須の殺生石になったとか。
「定期的に発生するのだが、石化させて封印したものが、その封印が解ける周期が間近に迫っているのでな。」
「ふむ。いきなりは無理ということなら、段階を踏むか。石化能力を持つ魔眼持ちを眷属化するところから始めるか。前に渡した黒キ楯の調子はどうだ?」
「巨大蜘蛛や鵺と交戦した時も、今日の模擬戦でもそうでしたが、頑丈で罅も凹みもなく、重宝してます。」
「現状では、単なる楯として使っていると?」
「そうですね。他の用途があるのでしょうか?」
「そういえば、魔鉄製ということ以外、殆ど教えていなかったな。魔鉄は、魔力を通した鉄のことで、影属性の重力操作関連の技と相性がいい。【重力の軛】という技能は御存知かな?」
「大皇が巨大蜘蛛退治の時に使っていたので、それ真似して、鵺戦で使ったことがありますが?」
「初見であの技能を模倣しただと?」
「まさか、鵺戦で初めて使ったのか?かなり熟練しているように見えたのだが……。」
「ゑ?そこまで難しい技能なのか?」
「別名【影縫い】とも呼ばれ、汎用性の高い技で、真の意味で使いこなすのには、かなりの熟練を要する。」
「だが、見た限りではそろそろ次の段階に進んでも良さそうな頃だ。『重力』の別名は当然知っているだろう?『万有引力』だ。そこで、糸口を与えておこう。黒キ楯を顕現させた状態で、【重力の軛】を使ってみるといい。」
「まさか、黒キ楯の中に魔物を吸い込んで封印するとか?」
「察しがいいな。確かにその通りだが、吸収できるのは魔物だけではない。例えば、ここにミスリル鉱石があるだろう?これを吸収してみてほしい。」
「顕現せよ、黒キ楯!そして、【重力の軛】を発動!」
楯の表面に橙の眼のようなブラックホールが描かれ、ミスリル鉱石を吸収する。そして、ミスリル鉱石が楯に吸い込まれると、銀鏡反応の実験のように、楯の表面にミスリルが付着して、鏡面を形成した。
「この状態を、鏡ノ楯と呼ぶ。両者の状態は、任意に切り替えることが可能で、勿論、最初から鏡ノ楯の状態で顕現させることも出来る。」
「ということは、師・ブルクドルフの狙う『石化能力を持つ魔眼持ち』とは、【メデューサ・ゴルゴン】か!」
「【メデューサ・ゴルゴン】?」
「『Μεδουσα』は、ギリシャ神話に出て来る怪物で、『Γοργων』三姉妹の三女。相手を石化させる魔眼を持つが、鏡の楯によって反射されて斃され、今度は、その首を楯にはめ込んで使用し、その楯は『アイギス』と呼ばれている。」
「それは知っていますが、あくまで伝説上の怪物では?」
「石化能力を持つ魔眼持ちの蛇髪で、下半身が蛇の魔物がいるので、その伝説に準えて【メデューサ・ゴルゴン】と呼んでいるだけだ。【メデューサ・ゴルゴン】は、【蛇蝎森林公園】に出現する。」
「件の魔物は、蛇語を話す。八岐大蛇の【蛇語上級】の加護が役に立つだろう。【蛇蝎森林公園】に行くなら、ついでにこの依頼も頼む。出来れば、トリカブトやトウゴマの種子を中心に頼む。トリカブトにはアコニチンというアルカロイド、トウゴマの種子には、ricinという毒タンパク質が含まれている。」
依頼書は、写真付きのようだ。
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[蒐集依頼] 薬草の蒐集
・場所:【蛇蝎森林公園】
・条件:出来高制
・報酬:薬草鑑定の結果による
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翌朝、【蛇蝎森林公園】に到着し、薬草を採取しつつ、【メデューサ・ゴルゴン】を探すと、背後から、シューシューという音が聞こえる。
「ワタシヲ探シテイルノカ?」
件の蛇髪で、下半身が蛇の魔物が現れたようだ。石化の魔眼を持っている相手なので、振り向かずに返答する。
「【九尾の火狐】の討伐に協力してほしい。」
「蛇語ヲ話セルノカ?」
「ああ、話せる。」
「討伐ニ協力ダト?断ル!オマエノチカラ、ワタシニハ及バナイ。ドウシテモ?トイウノナラ、ソノチカラヲ見セテ貰オウ。オマエノヨウナ身ノ程知ラズハ、石像ニナルトイイ!」
戦闘開始。
「顕現せよ、鏡ノ楯!」
「グギャアアアアア!」
魔眼から放たれた石化光線は反射され、【メデューサ・ゴルゴン】は、あっさりと石化する。しかし、その石像には罅が入り、石化状態を解除しようとしているのが分かる。
「黒キ楯に変更し、【重力の軛】を発動!」
楯の表面に橙の眼のようなブラックホールが描かれ、【メデューサ・ゴルゴン】は、石化状態を解除するのと殆ど同時に、楯に吸い込まれてしまう。
【重力の軛】に抗おうと試みるが、どうやら力尽きたようだ。
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│メデューサ・ゴルゴンとの戦闘に勝った。│
│義眼型レーザーポインターを入手した。 │
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