第21話 【登戸研究所】
政治結社【草茅危言】の基地は、【宿河原不動】駅から10分程度歩いたところにある。【宿河原不動】駅から歩いて5分の距離には植物園もある。【多魔川】の河原にある砂利採取場にも歩いて15分で行ける。【宿河原不動】駅から【多魔川砂利採取場】には貨物列車が通っている。
【登戸研究所】は、表の世界の日本にも同名の『登戸研究所』が存在したが、そちらは既に存在しない。表の『登戸研究所』には、731部隊の研究資料が有ったとか無かったとか。裏の【登戸研究所】は、草井氏という人物が率いる、931部隊によって設立したらしい。
【登戸研究所】は、【宿河原不動】駅から歩いても20分から30分程度の場所なので、これらよりは少し遠いが、わざわざモノレールで二駅乗るよりは、歩いて銅貨を節約した方がいい。
表の世界の日本では、この地域には、『東高根森林公園』、『向ヶ丘遊園跡』、『生田緑地』が概ね東西方向に尾根続きになっており、自然が多い場所だが、それは、この裏世界においても同様で、この周辺一帯は、【蛇蝎森林公園】と呼ばれている。
【登戸研究所】は、その拠点が【蛇蝎森林公園】に隣接しており、【稲田登戸】駅からは、モノレールも通っている。
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【登戸研究所】に着くと、常井氏は自ら構内を案内するという。構内には、大学のように掲示板があるが、これは講義の休講を知らせるものではなく、主に、薬草や鉱石などの素材蒐集といった、常設依頼が貼られている。
常井氏が入場手続きをしてくるらしいので、ここで暫くの間、常設依頼を見ていることになった。すると、長い鼻を持つ赤面の人物が声を掛けてきた。
「オイ貴様、何をしている?」
「常設依頼を見ています。」
「見掛けぬ顔だが、この【登戸研究所】に何の用だ?」
さては、不審者だとでも思われたか。そのとき、常井氏が戻ってきた。
「待て。その者は私の連れだ。一応、使徒―弟子兼部下―という扱いだ。私の講義の補助などをする予定になっている。」
「では、此奴は、お主の新たな式神か何かか?」
「表大和からの転移者で、私の式神ではない。」
「此奴からは、瘴気の気配がするが?」
「昨日、鵺を眷属化したばかりだからだろう。蝙蝠山卿、この者は【鞍馬天狗】。私の式神で、【決闘術】の実習を担当している。私が留守の間、この【登戸研究所】の警備を任せていた。」
「その年で爵位持ちか。少しは出来るようだな、小僧。」
感心したように呟き、【鞍馬天狗】は立ち去ろうとする。
「待ち給え。私の留守中に何かあったかね?」
「特に報告するようなことは無い。儂を愉しませる程の強者は滅多におらぬ。」
【鞍馬天狗】が立ち去った後、【登戸研究所】の所長室にて。常井所長は、常設依頼が書かれた何枚かの依頼書を手渡してくる。そのうちの1枚については、可及的速やかに処理した方が良い、という助言をしてくれた。その内容は次のようなものだ。
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[蒐集依頼] 鉱石の蒐集
・場所:【多魔川砂利採取場】
・条件:出来高制
・報酬:鉱石鑑定の結果による
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「三日ほど前、誰かさんが河原で魔術を放ったようだが?」
「俺かも知れません。ブルクドルフ氏に直接魔術の指導を受けたので。」
「そうか。特に責めているわけではない。師から、三日前に魔術の実習をした、と聞いたのでな。質の高い魔力だったらしく、河原の石が魔素の影響を受けて変化したようだ。そう、喩えるなら、まるで【錬金術】のようにな。だが、君が術者なら丁度良い。術者本人なら、魔力の痕跡を辿って、石を回収するのも容易だからな。」
「河原の石が魔素の影響を受けて変化した?」
「魔素の影響を受けた石は稀に変化することがある。それを利用する技術を発展させたのが【錬金術】だ。どのような石に変化するのかは、魔力色に依存するから、魔力色が何色か分かれば、候補を絞り込むことぐらいは出来るぞ。」
「魔力色というのは、魔術を使った際の色、という認識で問題ないでしょうか?火属性のときは紫炎、雷属性のときは紫電が発生していました。」
「紫なら紫水晶辺りだが、黒という可能性もあるな。その場合は、黒曜石や黒瑪瑙辺りも候補に挙がってくるだろう。どれも本来なら、【多魔川】の河原には存在しないものだ。まだ三日前だから、他の者に気付かれて、既に先を越されている可能性は低いから、早めに拾ってくるといい。己の魔力の痕跡を辿る練習にも丁度良いだろう。」
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【登戸研究所】から【多魔川】の河原に向かうと、【宿河原不動】駅から【多魔川砂利採取場】に向かって、貨物列車の線路が敷かれているのでこれを辿る。
【多魔川砂利採取場】に到着したので、ブルクドルフ氏に魔術の指導を受けた場所を探す。己の魔力の痕跡を辿るのは、結構高度な技術ではあるが、魔術の基礎となる重要な技術でもある。
まるで、砂漠に落ちた針を探すかのような作業に、「何故自分は石なんて拾っているのだろう?」と思いながらも、苦心惨憺して、僅かな黒紫色の石を拾う。
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【登戸研究所】にて、鉱石鑑定を待つ間、研究所付近を散策する。ガチャがある。1回銀貨2枚か。1回だけ回してみよう。
寄木細工もどきの直方体の木箱が出て来る。この箱、実は結構大きく、贈り物をする際に便利である。詰め将棋のように七手詰めのからくりを解かなければならない点を除けば。
「右下右下左下手前、開封!」
中身は、「ナックル」か。「ナックルダスター」の略だが、「メリケン」、「メリケンサック」、「カイザーナックル」などといった名称で呼ばれることもあり、指輪状のものもある。実際、表世界の日本でも、蝙蝠印の指輪状のナックルを見たことがある。
さて、この世界では、カプセルの代わりになっている、この寄木細工もどきの直方体の木箱だが、不要の場合は、銀貨1枚で買い取ってもらえるらしい。【荏原三角商店街】でガチャした時の分と合わせて3個もあるので、そのうち2個を売却する。実質、銀貨消費0枚でガチャ出来て得した気分だ。
そして、鉱石鑑定の結果、銀貨8枚を得た。1日の報酬としては悪くない。現在の残高は、金貨14枚、銀貨17枚、銅貨5枚。
しかし、常井学長の講義における、補助業務の依頼報酬は、1コマ辺り銀貨4枚と破格で、週3コマ×15週で銀貨180枚、金貨に換算すると9枚にも達するという。
常井学長の講義の補助業務について打ち合わせを行う。
「君にはまだ、この国の教育制度について詳しく話をしていなかったと思う。この国では、学校は、六・三・三制ではなく、四・四・四制になっていて、初等、中等、高等と呼んでいる。それぞれ、次の段階の学校に入学するためには、試験を突破する必要がある。留年は原則としてないが、浪人と飛び級の制度が存在している。」
「学習範囲はどうなっているのでしょうか?」
「例えば、『学習指導要領』などというものはない。表大和における小学校の6年間を初等の4年で終わらせ、中高6年間を中等の4年で終わらせる。高等の4年間は、大学や専門学校のようなものだが、【魔術】や【陰陽術】、【魔導科学】といったような、表大和にない科目が存在している。学長である私が講義を受け持つのは、高等学校のみ。」
「教育内容を詰め込んでいる印象を受けますね。」
「そうでもない。こちらでは、『部活動』などという、ブラックな業務はないから、教員は教材研究に集中できる。教員と職員で業務が完全に分担されていて、講義を担当するのが教員、担任、生徒の進路指導、成績管理などの事務作業は職員が担う。教員の頂点が学長、職員の頂点は校長で、各校舎に1名づついる管理者だ。『制服』もない。但し、華美な服装は、避けること。入学式も、運動会も、文化祭や体育祭も、卒業式といった、『学校行事』も殆どない。社会科見学とか校外実習があるぐらいだ。講義は本部校のみ生講義で、全国で生徒は映像授業を受けられる。基本的に『学区』もないから、『モデル校』も『底辺校』もない。転校も自由。嫌な奴と同じ学校に卒業まで拘束されないから、所謂『いじめ』も起きにくい。」
「完璧な教育制度だな……。」
要するに、まとめると次の様な感じである。
・学習指導要領なし
・部活動なし
・制服なし
・学区なし
どちらかというと、塾とか予備校に近い気がする。
学園モノの小説を書こうとしたら、
いつの間にか教育行政に関する
小論文になっていたことがありました。
学校時代にいい思い出があまりないから、
脳が拒否反応を示しているのかもしれませんね。




