第19話 師(マイスター)・ブルクドルフの過去
回想として、ブルクドルフ氏の過去話。
ブルクドルフ氏側視点の郡山青年との邂逅時の話を追加(2022/07/11)。
郡山青年が常井氏とともに、政治結社【草茅危言】の基地へ帰還した日。
その同日深夜、ブルクドルフは、今から約120年以上前のことを思い出す。師・ブルクドルフの過去。彼が、まだ郡山青年ぐらいの年齢だった頃のことを。
現在、師・ブルクドルフは、多言語話者であり、10種類以上の言語に通じている。独逸語、英語、仏蘭西語、伊太利亜語、西班牙語、ラテン語、ギリシャ語、露西亜語、日本語、アイヌ語、等々。勿論、各言語の習熟度にはバラツキはあるけれども。
ブルクドルフ青年の故郷は、当時のプロイセンの統治下にあった。田舎から上京し、都会の大学で物理学を学び、論文を執筆するまでに至った。しかし、その論文に書かれた内容は、当時の科学技術を揺るがす危険性を孕んでいた。
その論文を読んだ学者の中には、その危険性に気付き、彼を排除しようとする者がいた。
その学者は、当時の政府の暗部、秘密結社に内通していた。論文は闇に葬られ、ブルクドルフ青年は、何者かに襲われた。
ブルクドルフ青年も、最初は単なる暴漢と考え、これを返り討ちにした。しかし、追っ手が迫る。ロシア帝国経由で、極東へ脱出した。アイヌ民族の集落の中に紛れ込み日本へ。彼は、この時に、アイヌ語も習得している。
当時の日本政府は、科学技術を教える、お雇い外国人を募集していたから、今度はそれに紛れ込んだ。
当時の首都・東京の秋葉原付近で、秘密結社が差し向けた追っ手と遭遇し、これと対峙する羽目になる。「もはやこれまで」と思ったそのとき、白装束の着物を着た者が、聞いたことのない呪文のような言葉を唱えると、いつの間にか、追っ手は気絶して倒れていた。
白装束は鳥居をくぐってその姿を消した。助けてくれた礼を述べるため、そして、気絶した追っ手から一刻も早く離れたかったため、ブルクドルフ青年は白装束の後を追った。そして、鳥居をくぐるとそこは……異世界であった。
蜘蛛神社にて、巨大な蜘蛛に襲われ、死を覚悟したとき、再び助けてくれた白装束にこれまでの経緯を話すと、この世界の科学技術の発展に寄与することを条件に、荒脛巾皇国の住人となったのだった。
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そして、現代へ。時は2000年代後半の12月下旬、場所は秋葉原。
老朽化が少し進んだビルのエレベーターに、【蝙蝠山卿】という渾名の、郡山俊英青年が一人で入ったことを確認すると、師・ブルクドルフは、彼の影に潜んで、同じエレベーターに入り、その扉が閉まり、動き始めた直後、液体金属状の異物を挿入し、回路を短絡させて、エレベーターを停止させる。
「臭化水素酸スコポラミン」
魔導科学には、魔素を用いて、原子を転移させ、分子を生成する呪文がある。「臭化水素酸スコポラミン」は、かつては目薬、今は酔い止め薬に入っている成分で、抽出し濃縮することで、睡眠薬として使えるが、普段から酔い止め薬を服用している場合には、耐性があったりもする。
片手で郡山青年を持ち上げ、絞め上げているが、彼には、どうやらこの成分に対する、睡眠耐性があったみたいで、脇腹に蹴りを放ち、抵抗してきたので、鎮圧に時間が掛かってしまったが、何とか気絶させて転移させ、荒脛巾皇国のある、こちらの世界に連れ出すことに成功した。
万世橋駅は、荒脛巾皇国の首都、荒脛巾の最寄駅であって、かつては、現実世界側にも存在したが、現在は廃駅となってゐる。
この万世橋駅から、気絶させた郡山青年を、橘樹群稲毛領稲田町宿河原不動にある、【垂直尾翼】の政治結社【草茅危言】の基地まで運ばなければならない。
そこで、この異界の最重要路線を使う。荒脛巾の最寄駅の【万世橋】駅の次が、荒脛巾に隣接する、荏原郡の行政の中心である荏原区、その最寄駅である、【蛇窪】駅である。【漆番道路】に沿った、環状地下鉄【第漆號地下鉄】はお乗り換えである。まぁ、今回は乗り換えないが。
【蛇窪】駅の次は、【新奥沢】駅である。【捌番道路】に沿った、環状地下鉄【第捌號地下鉄】はお乗り換えである。今回は、これに乗り換えることにしよう。因みに、【新奥沢】駅の次は、【野川】駅で、橘樹郡稲毛領の行政の中心である、橘の最寄駅であり、ここでは、川崎市営地下鉄と乗り換えられる。
さて、【新奥沢】駅で、【第捌號地下鉄】に乗り換えたが、下り方面に乗車し、【上野毛】駅の次の【瀬田】駅で、今度はモノレールに乗り換える。
モノレールに乗り換えて、【宿河原不動】駅で下車し、【垂直尾翼】の政治結社【草茅危言】の基地に到着。翌朝、郡山青年が目覚め、物語は始まるのであった。




