第18話 【垂直尾翼】の政治結社【草茅危言】
2021/08/30(月)地名について、少し追記。
【鵺】は、型紙に封印され、郡山青年の式神となった。その経緯を依頼主に報告し、討伐完了、ということになった。報酬は、小隊を組んでいる場合、山分けが基本であるが……。
「今回は、君の総取りで構わないよ。私は何もしていないし、資金面でも特に不足はないが、この国の都市探索を始めたばかりの君には、これから資金が必要だろう。」
「分かりました。では遠慮無く頂いておきます。」
現在の残高は、金貨14枚、銀貨9枚、銅貨10枚。
「それで、今日のこれからの予定は?」
「今日はもう遅い時間だから、【登戸研究所】の見学は明日、ということになるだろう。宿は……私にいい考えがある。」
『読書喫茶』に泊まるとか言い出しそうではあるが……。
――――――――――――――――――――――――――――――
銅貨5枚を支払い、『川崎市営地下鉄』に乗る。
『川崎市営地下鉄』は、二方面に分岐しており、『新川崎』から『武蔵小杉』と『元住吉』の中間にある、【工業都市】駅を通り、【等々力緑地】駅から分岐した、【玖番道路】沿いに、【溝口】駅、【稲田登戸】駅、【生田浄水場】駅、【大丸】駅、【多摩一宮】駅を経由して、『日野』方面へ向かう路線と、【野川】駅、【馬絹】駅、【犬蔵】駅、【蔵敷】駅、【長沢】駅、【新百合ヶ丘】駅を経由して、『相模原』、『上溝』まで直通する路線とが、相互乗り入れしている。
これから乗るのは、前者の方である。
【稲田登戸】駅で、『川崎市営地下鉄』を降り、モノレールの高架沿いに、【宿河原不動】駅まで歩く。近くに植物園があるこの駅は、表の世界では既に廃止された駅である。
そう、現実世界の日本では、近くに『東名高速道路』があるが、この世界では、モノレールになっているようだ。
そして、『多摩川』、いや、この世界では【多魔川】か。その河原の近くにある宿場町という感じである。川の氾濫を防ぐために、用水路が流れているのは表裏共通か。
但し、現実世界の『東名高速道路』の径路からは、少しずれており、下り方面は、【宿河原不動】駅、南武線の登戸連絡線という廃線と同様の径路から、【稲田登戸】駅―現実世界の『向ヶ丘遊園』に相当する―を経由して、【登戸研究所】駅へ至り、再び、『東名高速道路』の径路へと復帰して、【犬蔵】駅で『川崎市営地下鉄』と乗り換えられる。
今後、【荏田】―相武電気鉄道の計画にあった―から、『十日市場』、『つきみ野』方面へと延伸される予定だという。
一方、上り方面は、【大蔵】駅―これも相武電気鉄道の計画にあった―を経て、やはり現実世界の『東名高速道路』の径路からは、少しずれるが、【瀬田】駅で【第捌號地下鉄】と、【上馬】駅で【第漆號地下鉄】と、乗り換えることができる。こちらも、さらに延伸の予定があるそうだ。
――――――――――――――――――――――――――――――
住所:橘樹群稲毛領稲田町宿河原不動。
少し歩くと、何だか見覚えがあるような場所に到着する。午前中と夕方という違いはあるが、一昨日、異世界初日にここから旅立った……所謂、基地ではないか。見覚えのある、黒い頭巾付きの外套を着た老人がいる。
「おお、蝙蝠山卿に第参皇児ではないか。」
「お久しぶりです。師・ブルクドルフ。」
常井氏は、大皇に【陰陽術】を、ブルクドルフ氏に【魔導科学】を教わったという。
「ただいま、で合ってるかな。そういえば、一昨日は結局名乗っていませんでしたね。」
この老人こそが郡山青年をこの世界に連れてきた張本人で、一昨日は【クネヒト・ループレヒト】と名乗った。また、【老魔法王】という渾名もある。
「そうだったかな。いや、失念しておった。とはいえ、既に棄てた過去の名だ。あまり意味は無い。」
ブルクドルフ氏もまた、大皇の【転移の鳥居】に巻き込まれる形で、約百二十年前にこの世界にやって来た。
「一昨日は、【転移の鳥居】で転送されたから、この場所も分からないし、戻って来るとは思わなかったな。転送先の神社で巨大蜘蛛に襲われたし。」
「それは災難だったな。」
その後の経緯を話すと、老人は静かに傾聴していた。
「今日は、ここに泊まっていくといい。」
現在、午後6時過ぎ。異世界三日目にして、漸く、基地への帰還を果たすことが出来たのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――
夕食後の基地にて。
「抑も、『基地』と呼んでいるけど、ここは、何の基地なのでしょうか。」
「何の基地なのか説明されていないのですかな?」
常井氏に尋ねられたブルクドルフ氏が説明する。
「いや、失念していた。ここは、政治結社【草茅危言】の基地なのだ。」
「政治結社【草茅危言】?」
「この国は三頭政治というのは以前説明したが、一応、政党のようなものがあるのだ。政治結社【草茅危言】は、右翼でも左翼でもない、敢えて言うなら、【垂直尾翼】の政党だ。そして、行政に携わる者は政治士の資格が必要だとも説明したが、政治士の資格を取得するには、難関の資格試験を突破する必要がある。その志のある者を支援する体制というか……いわば勉強会だな。」
つまり、【垂直尾翼】の政治結社【草茅危言】の基地へ帰還したわけか……。
「他にも、【魔導師】の資格を取得するために、【魔導科学】の勉強会を開いたりもするが、最近は、【登戸研究所】の付属学校の方でも、【魔導科学】の勉強会を開くようになったから、そちらの方が設備面では充実しているようだ。そうだろう?【登戸研究所】所長殿?」
【魔導師】は、【魔術士】を育てる職業で、教員免許のようなものだという。
「そうですな。確かに、最近は蔵書を寄贈してくれる方も多いので、【登戸研究所】の付属図書館の蔵書は充実してきていますぞ。」
「そういえば、私の弟子は、本の虫だったな。まさかとは思うが、寝食を忘れて没頭していたりするのではあるまいな?」
どうやら、図星のようだ。師には、お見通しというわけか。翌日は、【登戸研究所】の見学をする予定なので、明日に備えて早めに就寝することにし、異世界三日目を終えることにしよう。
・旧29話 基地への帰還
・旧30話 政治結社【草茅危言】の前半部分
を再編し、改めて、
第18話 【垂直尾翼】の政治結社【草茅危言】
としてまとめたもの。




