第16話 【代田(だいた)ラボッチ】
2021/08/30(月)橘樹郡等の旧地名を追記。
【第漆號地下鉄】に乗っていたら、【代田】付近で、突然の地揺れ。車内放送によれば、【代田ラボッチ】が出現したらしい。
「また【代田ラボッチ】か。仕方ない。降りるぞ。」
「降りてどうするんです?」
「奴を黙らせる。」
常井氏は、【陰陽術士】として、【代田ラボッチ】と戦うつもりだという。以下、常井氏による【陰陽術】の説明である。
「【陰陽術】は、東洋版の【魔法】に相当する。【魔法】は四元素説、【陰陽術】は五行説に基づく、という違いはあるがな。【陰陽術士】は、【魔法使い】兼【魔物使い】或いは、【魔法使い】兼【召喚術士】のようなもので、【護符】に【魔物】を封印し、自分の眷属にすることが出来る。眷属になった【魔物】は、自分の【式神】として使役することが出来る。」
「どうやって、【護符】に【魔物】を封印するんです?」
「【魔物】を封印するためには【瀕死】、君に分かり易く言えば、残り体力、即ちHPが1になるまで弱らせなければならない。」
ここで、【八岐大蛇】を召喚するのは、どう見ても市街地に被害が出るから却下だろう。では、どうするか。
「私の【式神】を召喚する。来い、【三頭犬】。」
常井参狼氏の【式神】は、その名の通り、【三頭犬】。その三つの頭は、眼と口腔内の色が、青、黄色、赤である。まるで、信号機のようだが、それぞれ、氷・雷・火に対応しているらしい。この三すくみの属性は、師・ブルクドルフの影響だろう。
青い頭が、極低温の瘴気を放つと、【代田ラボッチ】の動きが鈍る。黄色い頭が、放電すると、【代田ラボッチ】は痺れ、さらに動きが鈍る。
だが、【代田ラボッチ】は、形勢不利を悟ったのか、己の影の中に沈み、その行方を眩ました。
「くっ、逃がしたか。まあいい。」
【魔物】の封印は、どうやら簡単にはいかないようだ。
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【代田】で降りて、また、【第漆號地下鉄】に乗ったとしても、すぐに降りることになってしまうので、折角だから、歩いて北上することにした。
【代田】から歩いて北上するとすぐに大通りに交差する。この、表世界における『国道20号線』は、この世界では【拾番道路】である。
【拾番道路】を過ぎて北上し、『方南町』をも過ぎたところで、左折し、表世界における『荻窪』方面に向かい『環状八号線』、この世界では、通称【捌番道路】に交差する。
既に自国は正午だが、銅貨5枚を支払って【第捌號地下鉄】に乗り、このまま【捌番道路】に沿って、今度は南下していく。
常井氏の職場である、【登戸研究所】は、神奈川県川崎市にある。
この世界でも、「神奈川県」も「川崎市」も名称はそのままであるが、旧名称である、橘樹郡稲毛領という呼び方も残っている。
こうした都市は、基本的には、領地として、政治士の資格を持った領主が治めている。
「神奈川県」の領主は、【神奈川氏】。領主直下で、序列第一位が、「横浜市」を治める【横浜氏】。序列第二位が、「川崎市」を治める【川崎氏】。序列第三位が、「相模原市」を治める【相模原氏】。【川崎氏】は、橘氏とも名乗る名門だったりする。
「政治士の資格が必要だから、世襲制は難しい。『氏』といっても、世襲制の一族というよりは、相撲の四股名のようなものと考えた方がいい。」
序列第一位の【横浜氏】に対抗するために、序列第二位の【川崎氏】と序列第三位の【相模原氏】が、「川崎市」と「相模原市」の間に地下鉄を開通させたという。
その地下鉄は、地下鉄とモノレールを融合させたものらしい……。荏原郡が、環状地下鉄の起点であるのに対し、川崎市は地下鉄だけでなく、モノレール大国でもあり、技術官僚が統治する、工業都市である。
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現在、「神奈川県」に渡るため、【第捌號地下鉄】
に乗り、【捌番道路】に沿って、南下している。
「神奈川県」に渡るには、
・『砧』付近で降車して、【参番道路】―表世界の『世田谷通』―
・『瀬田』、或いは、その次の『上野毛』付近で降車して、【双子玉川】―表世界の『二子玉川』―から、【肆番道路】―表世界の『国道246号線』―
・『田園調布』付近で降車して、【弐番道路】―表世界の『中原街道』―
・『蒲田』手前で降車して、【壱番道路】―表世界の『国道1号線』―
・『蒲田』付近で降車して、【伍番道路】―表世界の『国道15号線』―
という、複数の経路が考えられる。
常井氏曰く、【川崎氏】への挨拶をするため、【伍番道路】から、「神奈川県」に渡り、「川崎市」の中枢に行く経路を選択した。
午後2時頃、『蒲田』で【第捌號地下鉄】を降車する。
【第漆號地下鉄】も【第捌號地下鉄】も乗車時に、銅貨5枚を支払っているので、現在の残高は、金貨10枚、銀貨10枚、銅貨0枚。
異世界初日夜と同様、丼と麺類が主の学生食堂風の店に入る。銅貨10枚なので、銀貨1枚を支払い、お釣りは銅貨10枚。この国では、通貨の両替率が20進法だからね。現在の残高は、金貨10枚、銀貨9枚、銅貨10枚。
そして、常井氏は、昨日と同様、『野営用の食料』を分けてくれた後、『読書喫茶』に入っていった。あの人は相変わらずだな。断食週間なのかも知れない。
食後の運動に【伍番道路】を歩いて、『多摩川』を渡り、神奈川県川崎市へ。勿論、『読書喫茶』に引きこもりそうになった案内人を引きずり出すことも忘れない。この世界でも、『多摩川』は暴れ川で、【多魔川】とも書くことも多いらしい。
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この裏世界では、表世界では喪われた地名がそのまま残っている。常井氏曰く、浪漫とかではなく、完全に両世界が同期することが難しい故、とのこと。
例えば、神奈川県川崎市。現在、そう呼ばれている場所は、かつては、橘樹郡と呼ばれていた。表の世界の『末長』と『千年』の中間辺りにある、橘という地名のある場所は、この世界では、かつての橘樹郡時代の行政の中心であり、【肆番道路】と【弐番道路】の中間地点にあるらしい。
更に、橘樹郡北部は、稲毛領、現在の川崎市南部地域は、河崎領等と呼ばれていた。だから、荒脛巾皇国内に限っては、【河崎】と表記しても間違いではない。
常井氏が所長として勤めている、【登戸研究所】は、登戸村、菅村、中野島村、宿河原村、堰村という、五つの村によって構成される、稲田町にあり、その住所は、橘樹郡稲毛領稲田町稲田登戸、と言った具合に書ける、という。
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午後4時頃、「川崎市」の中枢に到着する。出迎えた【川崎氏】当主は、本名橘氏とも名乗る名門の当主であるが、40歳から50歳の特に印象に残るような特徴のない人物で、そこら辺を歩いていても、「風景の一部」としか認識しないだろう。
【川崎氏】当主は、突然の第参皇児の訪問には驚いていたが、【登戸研究所】の所長である常井氏とは、面識があるため、必要以上に畏まることなく、淡々と用件を処理していく。
「ところで、そちらのお連れの方は?」
「表大和からの亡命者で、私の使徒―要するに、弟子兼部下―ということになった。」
この後、互いに名乗ったりしていると、無線放送から警報が発令される。
「【鵺】が出たぞ~」
この後、本日2回目の魔物との戦闘になりそうだ。
――――――――――【世界観の設定資料】――――――――――
【荒脛巾皇国】は、鏡に映った日本の姿であり、日本の影でもある。両者は、似て非なる世界なのだ。
以下に、大まかな対応関係を【荒脛巾皇国】⇔『日本』
の形式で、作中で分かっている範囲で示す。厳密には、細部が異なる場合があることをご了承願いたい。
※原則として、現実世界の地名には『』を、架空世界の設定には【】を用いてゐる。
地名:
【荒脛巾】⇔『秋葉原』
【神代古書店街】⇔『神保町』
【二本橋】 ⇔『日本橋』
【罅谷】 ⇔『日比谷』
【荏原三角商店街】⇔『戸越銀座』+『武蔵小山』+『中延』
【蛇窪】 ⇔『馬込』辺り―※両世界間で位置のズレがある―
【代田】 ⇔『代田』
【瀬田】 ⇔『瀬田』
【双子玉川】⇔『二子玉川』
【橘】 ⇔『橘』―『末長』と『千年』の中間辺り―
道路:
【壱番道路】⇔『国道1号線』
【弐番道路】⇔『中原街道』+『綱島街道』
└※『東京都道・神奈川県道2号東京丸子横浜線』とも呼ぶらしい。
【参番道路】⇔『世田谷通』+『津久井道』+『鶴川街道』
└※『東京都道・神奈川県道3号世田谷町田線』とも呼ぶらしい。
【肆番道路】⇔『国道246号線』
【伍番道路】⇔『国道15号線』
【陸番道路】⇔『国道16号線』の『八王子』~『つきみ野』を想定
【漆番道路】⇔『環状七号線』
【捌番道路】⇔『環状八号線』
【玖番道路】⇔『国道409号線』+『府中街道』+『川崎街道』
【拾番道路】⇔『国道20号線』
鉄道:
【第漆號地下鉄】⇔『メトロセブン』
【第捌號地下鉄】⇔『エイトライナー』
【川崎市営地下鉄】⇔『川崎市営地下鉄』
河川:
【多魔川】⇔『多摩川』
※覚え方:現実世界では「摩擦」の「摩」、架空世界では「魔法」の「魔」。
・旧26話 【代田ラボッチ】
・旧27話 「【鵺】が出たぞ~」
を再編し、改めて、
第16話 【代田ラボッチ】
としてまとめたもの。
再編の際、『国道20号線』の対応関係を
【弐番道路】から【拾番道路】に変更。




