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別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
第壱章 都市探索編
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第13話 【八岐大蛇(やまたのおろち)】

 現在地の径路(パス):【罅谷】/【象牙の塔】/地下8階


 螺旋階段を降りていくと、【光庭】に通じる扉がある。その扉の向こうには、果たして何が待ち受けているのであろうか……。


「扉を開く前に(あらかじ)め断っておくが、是非、君には、この扉の向こうにいる存在に会ってほしい。」


「どんな人でしょうか?」


 図書館の管理人だろうか?


「その御仁からすれば、大皇(おおきみ)が若僧に見えるであろう、という方だ。」


「2600歳が若僧だとすれば、我々は一体何になるというのでしょうか?」


「8000歳を超える御仁から見れば、2600歳は若僧だろう。80歳から見た26歳だと思えばいい。我々は、産湯に入る前の赤子の如し、といったところか。その方は、我々のような【人族】ではないが、神格を有し、人語を解する。では行くぞ。」


 案内人の常井氏は緊張しているようだ。第参皇児(だいさんおうじ)が畏怖するとは、どのような存在なのだろう?


――――――――――――――――――――――――――――――


 現在地の径路(パス):【罅谷】/【象牙の塔】/【光庭】


 扉を開けて【光庭】に入ると、シューシューシャーシャーという音が聞こえる。【光庭】の中央には、八つの頭を持つ灰黒色の大蛇が存在していた。


 【八岐大蛇(やまたのおろち)】。この神話級の怪物は現在、皇国(おうこく)の頂点に君臨する、蛇神(じゃしん)と言っても過言ではないだろう。


「誰が来たかと思えば、いつぞやの(わっぱ)ではないか。」

「ここへ何しに来た?」

「見慣れない顔を連れているな。」

「人族を贄にするのは不味(まず)いから断った筈だぞ。」

「しかも魔素の臭いが薄い……。」

「この世界にはない臭いがする……。」

「だが、どこか懐かしい臭いだ。」

「皆が一度に喋っては混乱するだろう。それで、我々に何か用か?」


「皆様、お久しぶりです。荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)第参皇児(だいさんおうじ)常井参狼(つねいさぶろう)で御座います。本日は、表大和(おもてやまと)から来た、客人を紹介したく、挨拶に参った次第。まずは、手土産にこちらをどうぞ。」


 常井氏は、影属性の収納術により、己の影から二匹の巨大蜘蛛を取り出し、贄として献上する。この前、【蜘蛛神社】で遭遇し、墓地で大皇(おおきみ)が、(たお)した二匹の巨大蜘蛛、タランチュラとアラクネーである。


「上物ではないか。」

「よくやった、小僧。」

「美味そうな昼飯だ。」

「これは素晴らしい。」

(たお)してから時間が余り経っていないみたい。」

「それは新鮮だな。」

「新鮮なうちに昼飯にするか……。」

「待て。供物を寄越した礼をせねばな。」


 その後、郡山青年は、常井氏に促されて名乗る。八岐大蛇(やまたのおろち)も、八つの頭それぞれに名前があるらしく、各々が名乗り始める。


「あか」

「だいだい」

「きいろ」

「きみどり」

「みどり」

「みずいろ」

「あお」

「むらさき」


 どうやら、それぞれの眼と口腔内の色に基づいているようだ。(ちな)みに、各自に個性があるようで、多重人格気味である。

 「あか」は好戦的、「だいだい」は穏健派、「きいろ」は気まぐれ、「きみどり」は平和主義、「みどり」は、執念深い、「みずいろ」は冷静、「あお」は知性的、「むらさき」は狡猾、といった感じである。

 この蛇神(じゃしん)は、供物の礼に加護をくれるらしい。異世界小説にありがちな、反則級技能(チートスキル)だろうか?


「強敵と戦うときに、我々の力が必要ならば喚べ。」

「それは君が戦いたいだけだろうが。」

「でも、変わった相手と戦うのも結構面白いよ。」

「簡単に死なないように、身体強化も付与しておくよ。」

「瘴気などへの各種耐性も忘れずに付与しておいてやる。」

「よく考えると、戦闘面以外の加護も必要じゃないか?」

「ならば、【蛇語上級】を付与しておこう。」

「念の為、この程度にしておく。いきなり強くなり過ぎても困るだろ。」


 まずは、召喚獣扱いで呼べるようになるらしい。身体強化による能力向上、瘴気などへの各種耐性。そして、【蛇語上級】。蛇語を理解し、聴いたり喋ったり出来るらしい。


 加護の付与に対し、礼を述べ退出すると、中からは咀嚼音が聞こえてきた……。退出し終えてから食事を開始する辺りの配慮からは、高い知性を感じさせる。


――――――――――――――――――――――――――――――


 常井氏が解説を始める。


「東洋の【八岐大蛇(やまたのおろち)】は、九頭龍(くずりゅう)、ギリシャ神話のヒュドラなどと同一種とされる。頭を切り落としても、他の頭が残っていれば再生できる。」


 違うのは頭の数ぐらいか。


「頭の数が違うって?再生の際、稀に頭の数が増えてしまうことがあるらしいから、多分その所為(せい)だろう。」


 その辺りは、厳密には決まっていないらしい。常井氏の解説は続く。


「洋の東西をこの世界では、二通りの漢字で区別しているが、東洋の『(りゅう)』は、蛇を基盤として、水を司り、自然との共生を象徴する。一方、西洋の『(ドラゴン)』は、蜥蜴を基盤として、蝙蝠の翼が生えており、火を吐く炎の化身で、征服するべき対象という自然観なのだろう。」


「でも実際、両手両足に翼ということは、四肢ではなく、六本足扱いの爬虫類ということになり、地球の生物学上有り得ないし、『火を吐く』というのも、体内に火袋があるという設定では、どうして自分自身が火傷したり、酸欠にならないのかを科学的に説明するのは無理がありそうですね。」


「『六本足扱い』に関しては原理は未解明だが、この世界には実際そういう存在がいるしな。恐らく、魔素の関係で複数種類の生物が融合した、と言われている。『火を吐く』というのは、実際は、引火性の体液を吐き、それが大気中の酸素と化合することにより発火、というのが原理だろう。」


「では、この世界にも(ドラゴン)がいると?」


「いや、厳密な意味での西洋的な(ドラゴン)はいないし、東洋的な(りゅう)も確認されてはいないが、その意味では、八つの頭から各々の魔力色と同じ色の火を吐く【八岐大蛇(やまたのおろち)】は、最も(ドラゴン)に近いのかも知れないな。」


 魔力色ということは、魔素により生成された火であって、酸素と化合した火ではない。魔力色は、魔素版の炎色反応だ。

 そのことを鑑みると、八岐大蛇(やまたのおろち)が、赤・橙・黄色・黄緑・緑・水色・青・紫の火を吐く様子は―あくまで想像ではあるが―まるで花火のようだ。


「そして、(ドラゴン)(りゅう)がいないこの世界では、マンティコアや、マンティコアから進化した魔族の獣人、【マンティコアノイド】が、生態系の頂点にいる。別名【(りゅう)無き世界を統べる者】。」


「【マンティコアノイド】?」


「確か、現在の玖球(クーゲル)帝国の魔族の皇帝たる、帝王の座にある者が、【マンティコアノイド】だな。」


 この世界には、未だ見たことのない怪物がいるようだ……。

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