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別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
第拾章 最終決戦編
109/120

第109話 「【極獄(コキュートス)】に果てよ。」

最終決戦の戦闘描写には、本作のこれまでの戦闘描写の集大成を込めました。

豚鬼人喰人(オーク・カニバリスト)から、莫大な瘴気が噴き出す。


かつて、郡山少年は思った。


―――逃げたい、でも逃げられない、運命の呪縛。


十年前に連中に虐待された記憶がトラウマとなって、

ドラマの番組宣伝で暴力シーンを見たりすると、

屡々(しばしば)、PTSDみたいな症状を引き起こす。


余談だが、「トラウマ」の語源は、独逸(ドイツ)語で、

「夢」を意味する、「Traum(トラウム)」に

由来しているのではないだろうか。そういう意味では、

連中を(たお)せば、この悪夢も終わるのだろうか。


かつて、弓削少年は思った。


―――生きたい、でも生きられない、こいつらがいる限り。


連中は、我々にとって、復讐を誓う仇敵であることは間違いない。

しかし、先に殺意を向けてきたのは、いつも連中の方であった。


「己が罪を(あがな)わせてやる。さァ、贖罪の時間だ。

ああ、それで貴様の仲間は、貴様の『食材』となったわけか。

ゲームの序盤にやられ役のボスとして定番の豚野郎(オーク)として。」


「贖罪」と「食材」という同音異義語を使って、

【蝙蝠山卿】の背後霊と化した、【幽者】ユゲタイがそう揶揄すると、

豚鬼人喰人(オーク・カニバリスト)は、その挑発にブチ切れて、


「誰が食材だとゴルァ、このゲーム脳が。

相変わらずふざけやがってぇ~

けじめをつけろけじめを。ヘラヘラしてんじゃねぇぞ!

テメェらに俺様を殺す覚悟が無いって言うんなら、

こっちから行くぜぇえええええ!」


と言って、例の野球のバットみたいな杖を桃色光線で包み込む。


「【熱い棍棒】!」


奴が初手に選んだ技能(スキル)は、相手に焼き印を入れる、【熱い棍棒】。


豚鬼人喰人(オーク・カニバリスト)は、【熱い棍棒】を闇雲に振り回してくる。


「うぉおおおおお!気絶しろ!顔よ、曲がれ!」


更に、四方八方に桃色光線が乱射されるが、

憑依したマンティコアノイドの蝙蝠の翼による、

飛翔と滑空を駆使して、全ての攻撃を(かわ)す。


そして、魔剣【ガルバノス】を顕現させ、【熱い棍棒】と

激しい剣戟を数合打ち合う殺陣を披露することとなる。


但し、絵面としては、電動鎖鋸(チェーンソー)と野球のバットなのであるが・・・。


しかも、最終(ラス)ボスは、序盤のボスにしか見えない。

(むし)ろ、主人公の方が最終(ラス)ボスの風格があるぐらいだ。


――――――――――――――――――――――――――――――


「この野郎!この期に及んで、ま~だ手間ァかけさせやがってぇ~」


すると、奴は痺れを切らしたのか、こちらの動きを完全に

停止させようと、時属性の古代魔法を詠唱し始めた。


「時計よ時計、俺様の邪魔をする者は誰だ?

その身の程知らずな者の時を止めよ。

【クロック・ザ・クロック】!!」


紡がれた呪文の詠唱と共に、桃色光線が地面を走り、

「時計の地上絵」を描いていく。


「その技は既に一度見せて貰ったぁ!

結界の発動に連動して、パウリ効果を発動!」


何かが砕け散る様な音とともに、「時計の地上絵」が崩壊する。


「なっ?!何ぃいいいいい!」


「やはり、その地上絵の時計は、機械仕掛け(クロックワーク)だったようだな。

相手が機械だと分かっていれば、パウリ効果で叩き潰してくれる!」


かつては苦戦した敵の大技も、瞬殺で攻略し、歯牙にもかけなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――


「では、これならどうだ。

verbatim(ヴァーベイティム)】!【WYSIWYG(ウィジウィグ)】!

恣意(しい)】のまま、全ては我が掌の中に!」


この技も、見たことがある。ネメシス・ダムドの記憶では、

ETAOIN(エタオイン) SHRDLU(シャドルー)と【ラプラスの魔】という

【無機知性体】が、二柱がかりで発動した程の大技だが、

六体の豚鬼(オーク)を共喰いし、その魔力を吸収した、

豚鬼人喰人(オーク・カニバリスト)は、単独でこれを発動出来るようだ。


再び、紡がれた呪文の詠唱と共に、桃色光線が地面を走り、

今度は、「掌の地上絵」を描いていく。


「うぉおおおおお!次だ、次だ次だ、次だ次だ次だ!

【射竦みの魔眼】、【自動(オート)重圧(プレッシャー)】!」


周囲の空気が、まるで水飴のように重くなる。

確かに、十年前なら、射竦んでいただろう。

それが、魔眼だと知らないまま。


だが、今はもう違う。対抗手段は既に確立している。

魔剣【ガルバノス】を収納し、鏡ノ楯(シュピーゲルシルト)を顕現させる。


「はじき返せ、鏡ノ楯(シュピーゲルシルト)!」


サンケベツ村で対決したときは、【射竦みの魔眼】を反射され、

腰を抜かしていた元・教室長だったが、

今回の反射光は、何故か奴を透過した。


「ここだ、ここだここだ、ここだここだここだ!

コレだよ。【衝突判定:無効】!全ては我が掌の中。

掌の地上絵という結界がある限り、

テメェらの攻撃は全て、お見通しなんだよ!」


「黙れ!鏡ノ楯(シュピーゲルシルト)をアイギスに変更!

石化光線!石化によって、未来永劫、沈黙せよ!」


これが決まれば、豚鬼人喰人(オーク・カニバリスト)は、彫像と化す(はず)だった。

だが、石化光線も奴を透過してしまう。

奴の言う通り、掌の地上絵という結界がある限り、

如何なる攻撃も奴には通用しないとでもいうのだろうか。


――――――――――――――――――――――――――――――


「ハハハハハッ。テメェらは、神である俺様の

掌の上で踊っているに過ぎないんだよ!」


「ならば、貴様という邪神の掌であるこの大地に、

神をも殺す悪魔の(つるぎ)を突き立ててくれよう!

出でよ、魔剣【ガルバノス】!」


今度は、アイギスを収納し、魔剣【ガルバノス】を再び顕現させる。


「ぐわぁあああああ!」


ボトボト。ボトボト。ボトボト。


電動鎖鋸で大地を割ると、豚鬼人喰人(オーク・カニバリスト)

掌からは、穢れた血が滴り落ちる。


豚鬼人喰人(オーク・カニバリスト)は、大地に描かれた「掌の地上絵」と、

自分の掌との連動を切っていなかったようだ。


まぁ、強力な技には、何らかの制約が課される。


或いは、任意に衝突判定を無効にするという、

強力な掌の地上絵にも、そういう制約が課されるのは、

当然の仕様なのかも知れないが・・・。


いずれにせよ、何処までも詰めが甘い。

どうやら最終(ラス)ボスになっても見かけ倒しで、

ドジっ子属性は相変わらずだったようだ。


――――――――――――――――――――――――――――――


「クソッ!よくもやりやがったな!苦しみながら死ねや!

生成しろ!イソプロピルメチルフルオロホスホネート!!」


ここで、毒瓦斯(ガス)を生成する禁呪を詠唱してきたか。

早く勝負を終わらせようとして焦っているようだな。


「【一酸化二水素ジヒドロゲンモノオキシド】!」


直ちに水を生成して、加水分解することにより、無力化する。


ここまで、奴の使う技を(ことごと)く、正面から、

完膚無きまでに叩き潰して、完封してきた。


だが、今回はこれだけでは終わらない。


今度こそ、ここで終わらせるために、

次の技能(スキル)を発動し、連携を繋いでいく。


「【極低温の瘴気(クライオ)】!!」


極低温の猛吹雪(ブリザード)が吹き荒れる。


【蝙蝠山卿】の背後霊と化した、【幽者】ユゲタイも同時に、

短剣符、(ダガー)記号状の氷の(つるぎ)を降らせた。


氷の(つるぎ)の雨は、豚鬼人喰人(オーク・カニバリスト)

影に刺さって、その動きを【影縫い】で封じ込める。


そして、大量の水を浴びてずぶ濡れになった豚鬼人喰人(オーク・カニバリスト)

極低温の瘴気が冷却し、凍結させた。


――――――――――――――――――――――――――――――


やがて、奴の【熱い棍棒】も凍て付き、それに宿った生命(いのち)の炎も消える。


「【絶縁破壊】!」


【蝙蝠山卿】は、地面に刺さっていた魔剣【ガルバノス】を抜くと、

その技能(スキル)を発動し、【熱い棍棒】を根底から切断した。


そして、この悪夢を終わらせるため、最終奥義を放つ。


「【高圧電流印加(ガルバノ)】!!!」


極低温下では、超伝導により、電気抵抗がなくなり、

(いかずち)属性の威力が上昇する。


()してや、ずぶ濡れの状態なら尚更だ。

純水自体は電気を通さないが、この脂ぎった豚野郎(オーク)の体液が、

純水であることは、まず有り得ないだろう。


「ぐわぁあああああ!」


【蝙蝠山卿】は、凄まじい憎悪が敵に苦痛を与えるのを(たの)しむ。


「【極獄(コキュートス)】に果てよ。」


ギリシャ語で「嘆きの川」を意味する、「κωκυτος(コキュートス)」に由来する、

この技能(スキル)三連携(トリプルコンボ)極獄(コキュートス)】は、禁則級奥義だが、

水・氷・(いかずち)属性のいずれも、使われているのは、

基礎的な技能(スキル)に過ぎない。だが、その威力は、

この【術理の世界】においても、文字通り【別次元の領域】であった。


それは、達人ほど基礎を大切にすることの証左でもあった。


そして、この氷も電流も魔素で出来ているため、

これから、豚鬼人喰人(オーク・カニバリスト)は、

その生命(いのち)の炎が消えるまで、未来永劫、

氷の結晶の檻の中で、永久電流を浴び続けることになる。


体液ごと凍て付かせたから、【汚泥(ヘドロ)スライム】や

飛蝗に変形して、氷の檻を破ることも出来ない。


また、氷の結晶は太陽光を透過するため、奴の肘から生えた

ジャガイモの芽が、光合成することによって、共生関係にある

豚人間(オーク)の体を生かし続けるから、

そう簡単に死ぬことも赦されない。


永久(とこしえ)に苦しむために、

永遠(とわ)に生き続けるというのは、

一瞬で終わる死よりも苦しかろう。


結局、欲望は絶望には勝てないのだ。

次回の第110話は、第拾章のまとめ。

次章が最終章。第111話が、最終話。

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