第108話 「最終(いやはて)の地に立つ者よ。冥界(ポクナモシリ)へと送ってやろう!」
この小説の主題である、「喪われたものを取り戻す、復讐譚」。
その集大成を、この最終決戦を戦う理由に込めました。
無人大陸の豚野郎共は、殺戮を悦んでいた。
「ハハハハハ!落ちろ、墜ちろ、堕ちろ。【死兆星】!」
一方、【無機知性体】の拠点である火星の基地から、無人大陸へ向けた軌道に「反物質兵器」が装填された。
隕石がその軌道上を通過し始める瞬間を狙い、常井氏が発射の釦を押すことにより、隕石の破壊と同時に、無人大陸の豚野郎共を掃討するのだ。
「豚野郎共!貴様らにとっては、その無人大陸が最終の地となるだろう。さァ、貴様らを地獄に送ってやる。」
隕石が軌道上を通過しようとしたその刹那の瞬間を狙い、常井氏が発射の釦を押した直後、火星の基地から、反物質兵器が発射された。
そして、反物質兵器が軌道上の隕石に炸裂し、その残骸と共に無人大陸へと降り注ぎ、そこで、殺戮劇を嗤いながら、愉んでいた豚野郎共を蹂躙し、一瞬で壊滅させたのである。
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だが、反物質兵器でさえ、連中を斃すことは出来なかった。隕石を破壊した際に、威力が減衰したためである。
既に、隕石は破壊されており、二発目の反物質兵器を発射するための大義名分は存在しない。
とはいえ、豚野郎共は、既に再起不能だろう。
連中の再生能力にも、限界があり、回復するためには、莫大な時間を要する。その頃には、連中は既に老いて、場合によっては、寿命が尽きているだろう。
それでも、連中の死体を確認することなしに、勝利宣言をするわけにもいかない。
所謂、【残党狩り】を行う必要があった。
連中が目の敵にしている郡山青年と弓削青年がその役目を担うことになったが、一つ問題が生じていた。
計算RPG【Primzahl】の内部での【幽離】―幽体分離―によって、【幽者】ユゲタイとして、弓削青年の魂の宿主である、「フサルク」と命名された病みエルフの自我が戻り、その肉体の主導権を回復したためである。
【幽者】ユゲタイは、「勇者」ではなく、「幽者」。要するに、「幽世の者」。即ち、「この世ならざる者」。
郡山青年は、既にネメシス・ダムドを憑依させ、【蝙蝠山卿】となっている。
もし、そこに更に弓削青年の魂をも二重に憑依させるとしたら、郡山青年の技能【地獄耳】の副作用みたいに、その負荷に耐えられなくなり、彼の精神を蝕んでしまう危険性を孕んでいるという。
だが、郡山青年は、計算RPG【Primzahl】の内部で、自身のドッペルゲンガーとの対決を制したことにより、その精神力が向上しており、二重憑依に耐えられるという。
それでも、彼の精神を蝕む副作用を危惧して、短期決戦で終わらせるという条件の下、【残党狩り】への出動が許可されることとなった。
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蝙蝠の翼と蠍の尾を生やした、黒装束の青年は、遂に念願の転移系の術を習得し、以前、無人大陸上を探索したときに拠点とした地底湖へと転移した。
反物質兵器は、反物質を物質と衝突させた、そのエネルギーを放出する大量破壊兵器であるが、核兵器と異なり、放射性物質が残留しない、という利点があるため、現地の放射能汚染は懸念しなくてよい。
そこから、洞窟の入り口へと出て、断崖絶壁から飛翔する。超音波で索敵し、技能【地獄耳】で、その反響音から、手負いの豚野郎共の居場所を探る、【残党狩り】を行っていた。
そして、あの時、【ジェヴォーダンの獣】と対決したタールの沼地がある、岩山と森林に囲まれた、天然の闘技場の様な楕円形の平原に、咀嚼音を検知したので、現地へ向かうと、そこには、仇敵である、豚野郎共が共喰いをしている光景があった。
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隕石を破壊した際に、威力が減衰したため、反物質兵器を以てしても、
七体の豚野郎共を斃し損なったが、それでも、連中は瀕死に近い状態に陥った。
だが、往生際が悪い、豚鬼枢機卿は、諦めていなかった。
共喰いであることさえ構わず、かつての仲間だった、豚鬼守護者×2、豚鬼強要者×2、豚鬼魔術士、豚鬼殺戮者をその魂ごと躊躇無く喰らい、連中の再生能力を統合させて、復活。
豚鬼枢機卿は、豚鬼人喰人へと最終変態を遂げた。
共喰いを終えた豚鬼人喰人は、かつての仲間への弔いの叫びを発した。
「うぉおおおおお!お前らの無念を!その強い想いを感じるぞぉおおおおお!」
【蝙蝠山卿】は、共喰いを厭わぬ、豚鬼人喰人の残虐性と、狂気に満ちた叫びにドン引きしながら尋ねる。
「何故だ?!そいつらは仲間だったんじゃないのか?!」
別に敵の凄惨な死に様を哀れんだり、義侠心を抱いたわけではないが、かつての仲間さえ共喰いしてまで、己の欲望に執着する豚鬼人喰人の狂気に満ちた姿からは、今までの詰めが甘いドジっ子属性の滑稽さは、微塵も感じられなかった。はっきり言って気持ち悪い。
「ハハハハハッ。俺達、豚人間族はな、非常時には、上位種の生存権が優先されるんだよ。要するに、生き残った俺様には、あいつらの魂を宿す、新たな肉体を産ませるという、使命が託されたってわけだ。」
「それが、幻想世界の豚人間が肉欲の権化の如き生態をしている理由というわけか。」
要するに、その肉体の中では、未だに連中の魂が蠢いているのか。【蝙蝠山卿】は、二人の仲間の魂を憑依させた、今の自分の状態と、六体の仲間に託された、彼らの魂を背負った、眼前の仇敵の状態が、酷似していることに気付く。そして、いや違うな、と思い直す。
確かに、仲間の魂を背負い、一対一で対峙しているのは同様だ。でも、そこに至る過程は全く違う、似て非なるものだと。
「あ”あ”ん?理解できねぇ、って顔してんな。でも、この世は、結局、『弱肉強食』。勝って生き残った方が正義なんだよ。そうそう、四字熟語の問題で、○肉○食に当てはまる文字を入れろっていう、問題が有名になったけどよ。『焼肉定食』って入れたヤツがいたから、ここまで有名になったんだぜ。気持ちは分かるけどな。」
出たよ、中学入試の有名問題。○肉○食。正直、これは設問に不備がある、と言わざるを得ない。しかし、仲間の肉を共喰いした後で、よく焼肉定食の話題で、話が出来るよな。どんな神経をしているんだろう。
「『弱肉強食』?確かにそれは一理ある。歴史は勝者の視点で紡がれてきたからな。だが、だからこそ、ここで貴様らを勝たせるわけにはいかない!勝ち残る者が正義なのではなく、正義が勝つのだ。」
【蝙蝠山卿】は、冷静に考えて、だからこそ、こんな人喰い人種を野に放つわけにはいかない。ここで討伐するべきだと思った。
「お前らからすると、俺達は悪か?ククク。違うなァ。俺達は正義なんだよ。但し、俺達なりの正義だがな。世界中に植民地を持ったから、英語が世界の共通語になったように、俺達がこれから世界を俺達の色に染め上げるのさ。そうだなぁ~。まずは、少子化対策として、俺達の魂を宿す肉体を大量に産ませてやろうかぁ~。」
何も考えずに「英語は世界の共通語」だと言って強要し、他の言語を学ぶ機会が、選択肢として与えられていない日本。
それは、英語帝国主義の傀儡となって、自ら植民地化を推進して、宗主国に頭を垂れる売国奴がいるからに他ならない。
その一方で、アイヌ語のような、母語話者が少ない言語が消滅していく日本……。
そういう話者数が少ない言語を学ぼうとすると、活力吸鬼が、「話者数が少ない言語を学んでも役に立たない」等と言って、その意思を踏みにじる。
その一方で、努力教徒は、話者数が多いからという理由で、英語を学ぶことを強要してくる。
でも、それらは多くの人と意思疎通をするため、という貴様ら陽キャの勝手な理屈だろうが!
俺達陰キャはな、寧ろこう考えるんだよ。話者数が多い言語は、自分以外にも話せる人が大勢いる。でも、話者数が少ない言語を話せたら、そんな自分は希少価値のある人間になれるんだって。
自分にしか読めないカードや、自分にしか開けられない部屋があるように。
かつて、日本には、牧野富太郎という植物学者がいた。電磁誘導を発見した、イギリスの物理学者マイケル・ファラデーと同様、最終学歴は小学校卒だが、植物の知識に関しては、大学教授さえ上回っていた。
その牧野富太郎氏の言葉に、「雑草という名の植物は無い」という言葉がある。
そう、凡庸であろうとすることは悪だ。何故なら、画一的な価値観を強要され、やがては、自分もその価値観を強要する側へと、被害者から加害者へとその立場が変わっていく。
それは、雑草というレッテルの下にカテゴライズされた、可能性の芽を摘み取ることに他ならない。或いは、宝石の原石を屑鉄の山に眠らせてしまう愚にも似ているだろうか。
「確かに、十人いれば十人の正義がある。万人に共通の勉強法など幻想であるのと同じようにな。立場を変えれば、植民地政策によって、同化させられ、消滅させられた言語もある。文化的侵略に対しては、迎合せずに抗うことだって必要なことなんだ!況してや、貴様らが繁殖するための生け贄みたいな扱いなんて、絶対にお断りだ!」
人間をこいつら豚人間が繁殖するための生け贄にするわけにはいかない。必ずここで倒す必要がある。
「だったら、テメェら人間は絶滅するだけだ。自然の摂理によって淘汰された古生物や、テメェら人間が根絶やしにした絶滅種のようになぁ!」
古生物である、アンドリューサルクスやスミロドンはともかく、ドードーやフクロオオカミの絶滅は、人災であろう。それは、こういう豚野郎共みたいな連中が、環境を破壊しているからだ。どの面下げて言っているのだろう。
「表の世界の地球上では絶滅した生物も、この世界では生きている!サンケベツ村や、この無人大陸のタールの沼地で、生態系を破壊していた、貴様らの正義こそ、ただの偽善だろうが!」
こういう連中を野放しにしておいたなら、多くの言語が死語になったり、多くの生物が絶滅種となって†記号が付されるような世界線になってしまうだろう。
「あ”あ”ん?俺達の役に立って死ねるなら、ご褒美みたいなもんだろうが!寧ろ、テメェらみたいな役に立たない人間は必要ないんだよ!テメェら雑魚はさっさと淘汰されちまえ!鉄道だってそうだろ?不要になった駅が廃駅になったり、必要ない路線は、廃線になったり、未成線のまま、計画ごと消滅するのと同様にな!」
そして、それは言語学や古生物学だけじゃない。
実際、この世界では、表の世界の地球上では、未成線のままだった、川崎市営地下鉄や、8の字モノレール、メトロセブン、エイトライナーに相当する路線が走ったり、廃駅になった駅も存在している。
きちんと誰かの役に立っているんだ!
「廃駅だって、存在していた頃は誰かの役に立っていたし、必要とする人がいれば、開通する未成線だってあるだろう。何がいつどこで役に立つのかなんて、誰にも分からない。それを『役に立たない人間は必要ない』だと?自分の存在意義を貴様らのエゴで、勝手に決められてたまるか!」
活力吸鬼、努力教、反知性主義者、売国奴。連中は、俺達が憎むもの全てを体現していた。
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そんな諸悪の権化に対し、【蝙蝠山卿】の背後霊と化した、【幽者】ユゲタイも最後通牒として、反論の言葉を贈る。
「kanto oro wa yaku sak no a=ranke p sinep ka isam.」
「あ”あ”ン?何だってぇ?」
「知らないのか?『天から役割なしに降ろされたものはひとつもない。』という意味で、アイヌ語の諺とか格言のようなものさ。どんな気分だ?貴様みたいな英語脳が、少数言語と決めつけて切り捨てた言語で論駁されて、しかも反論されたことにすら気付かない自分の愚かさを露呈された感想はよ。」
「オウッ、オウッ。十年経ったぐらいで、随分偉くなったなぁ、オイ。十年前のテメェらは、痩せてて声も小せぇし、俺にビビってよォ、ヘラヘラしてたじゃねぇか。そんな雑魚如きが、俺様に意見するってんのか?かつての教師である、この俺様に逆らおうってのか?もう俺様が怖くねぇのか?」
元・教室長だった、豚鬼人喰人が問う。
しかし、もう、この程度の相手の恫喝に怯えることはない。
そこに既に恐怖はなかった。だから、【蝙蝠山卿】はこう答えた。
「ああ。貴様はもう、俺に手も足も出ないだろうからな。それに、以前は、『自分は教育者ではない』、と言っていたくせに、今更、教師面して、恫喝しようとでも言うのか?」
【蝙蝠山卿】は冷静に相手の主張の矛盾を突いて反論する。
「そうだ。俺達ゃ、教育者じゃねぇから、何やったっていいんだよ!」
反論したら、開き直りやがった。
「教育者でなくても、指導者的立場には違いない。ノブレス・オブリージュ、とまでは言わないが、それなりに社会的責任がある立場の筈だ。それを放棄して、欲望のままに振る舞う、とでも言うのか?」
「だから、そう言ってんじゃねぇか。ハッ!結局、俺達、豚人間族と、テメェらゲーム脳とは、水と油の関係だな。どれだけ議論しても平行線にしかならねぇ。」
「確かに、我々と貴様らは、水と油の関係だった。どれだけ議論しても平行線どころか、ねじれの位置にあった。だが、何度戦っても、互いの思想は理解し合えないとはいえ、自分達のやってきたことに後悔の欠片も無いというのか?!」
「後悔?今更何を言ってやがる?」
「どうやら改心の余地は無いようだな。」
「改心?俺様とテメェらは、殺るか、殺られるか、の関係よぉ。」
「元の世界に戻れるのはどちらか一方。一方が生きれば、他方は死ぬのみ、か……。」
互いに相容れない者同士の対決は、ドッペルゲンガーとの決闘と同様に、勝者のみが現世への帰還を果たすことになるだろう。
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「オウッ、オウッ。勝った方が正義ってわけだ。その方が、分かり易いだろうが。だけど、俺様は負けるつもりはねぇぜ。さっきも言ったけどよ、生き残った俺様には、仲間の魂を宿す、新たな肉体を産ませるという、使命が託されているんだよ!それを認められないテメェらはな、要するに邪魔なんだよ!」
「だが、我々が邪魔だからと排除しようとする、ということは、逆に言えば、仲間の魂を宿す、貴様を斃せば、全ての因縁に決着が付くということか!」
「ハハハハハッ。出来るものならやってみなぁ!だが、今の俺様の力は、以前の俺様の比じゃあねぇ!この力でテメェらをあの世に送ってやるぜぇ!ここがテメェらの墓場となるだろうよ!」
「貴様らこそ、ここが最終の地となるだろう。最終の地に立つ者よ。冥界へと送ってやろう!」
こうして、不倶戴天の仇敵との、最後の戦いが幕を開けた。
本作では、典型的な異世界小説の二番煎じを避けるために、
定番ともいえる展開にならないよう、条件を縛る制約を課しています。
・チートスキルによる主人公無双展開を避ける。
⇒互角の実力を持つライバルを登場させる。
・学園モノを主軸とする展開は避ける。
⇒社会批判の題材として教育行政を例に挙げる程度に留める。
・ドラゴン、龍、竜をかませ、引き立て役にしない。
⇒マンティコアや、【マンティコアノイド】が、
この【龍無き世界】の生態系の頂点にいる。
・安易に「剣と魔法」の展開に頼らない。
⇒【龍無き世界】では、剣は廃れている。
・英語帝国主義の汚染に抗うため、技名等のカタカナ英語は極力避ける。
⇒専門用語等、人口に膾炙していない英単語等は使うので、
全く使わないわけではないが、ドイツ語やアイヌ語等が中心に。
旧字体や、ギリシャ文字、キリル文字を使うことも。
・スライムや犬・狼系を自軍に加えない。
⇒エルフと魔族は自軍に加えた。また、敵軍はこの限りではない。
・安易に登場人物から人死にを出さない。
⇒主人公は異世界転生ではなく、異世界転移。
・物語後半の戦力の過剰なインフレを避ける。
等々…。




