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神とはなんだ

ナンジは私に果実と魚をくれた。


「この果実は腐りやすいので早く食べてしまってくださいね。魚は焼くと美味しいです。それからジイヤがこくを取りに来てくださいと言っておられましたよ。」


ここでは、頼まれずともいつも自ら何かをする。

頼まれてから仕事をするのは私とシサイだけ。

シサイは死を弔い、私は生を賛美する、と言われているが私はそうは思っていない。ただ、何も出来ないから、誰もが知っている神詞かんしの冒頭を繰り返しているだけだ。




ジイヤの家は穀の畑の向こうなので、少しだけ遠いところにあって、大きい。ジイヤが建てたらしく、最初は小さかったものをどんどん大きくしたと言う。


コンコン、と戸を叩いても返事が無かった。

もう一度、コンコン、と叩く。

それから一度、穀の畑を見に行った。


「ジイヤーァ?」


どこにおられますかと言うまでもなく、穀の畑は、刈られた穀の茎だけになっている。



もう一度戸まで戻ったとき、微かに


「オミ…」 


という声が聞こえた気がした。

歩みを完全に止めて耳を澄ますと、


「オミ…」


と微かだが確かに聞こえた。


私はジイヤの家の戸を開けて中に入ると、手前から全ての部屋の戸を開けた。最後の戸の先にジイヤがいた。


ジイヤはまるで、というより本当に行き倒れてしまった様子で、変に腰を折り曲げて倒れていた。


「ジイヤ!今すぐイシを呼んできます!」


立ちさろうとした私の足にジイヤが触れた。


「大したことではないですよ、仰向けになりたいので手を貸してください。」


私は少し迷いながらも、そういうジイヤの顔がとても穏やかで笑っていたので、手を貸してジイヤを壁にもたれかけるように座らせた。


「ありがとう、オミ。私はね、オミにこくをあげたくて呼んだのではないのです、嘘をついてごめんなさい。」


「いえ、そんなのは嘘のうちには入りません。」


ジイヤの体に触れるとなんとなく予感がする。

それを口にするよりも前にジイヤが話し出した。


「オミ、ハンリョのことは知っていますね?ついこの間亡くなってしまって、私は、大変寂しい思いをしましたよ。」


ハンリョはジイヤと共に生きていて、織るのが得意だった。

私も、皆も寂しい思いをした。


「それで神詞かんしを子供の頃以来始めて、何度も何度も読み返しました。ハンリョは今、神境かんけいで楽しくやってるはずだと、今一度確認したかったんです。それでわかったんですよ、神境かんけいここです。」


「え?」


ジイヤは穏やかな笑顔から更に口角をあげて、そう言うだろうと思ってたと言いたげな視線を私に送る。


「率直に言うと、オミ、貴方はかんですね?」


驚いて、黙ってしまった。

ジイヤは今、真面目な顔をしている。




かんはいつも観ておられます。

 貴方のことを観ておられます。

 貴方を大切に想い、

 貴方をここに留めてくれます。

 貴方に心の準備ができた時、

 かんは貴方を神境かんけいに招きます。」


神境かんけいは楽園ではありません。

 ここと同じです。

 しかし、かんがおられます。」


かんは貴方がここにおられる時、

 貴方を助けることはありません。

 ただ観ておられます。

 しかし神境かんけいにおいては、

 望むなら、かんが貴方を助けるでしょう。」


「善くあろうとせず、

 くあろうとせず、

 貴方らしくありなさい。」


「あれば、ある。

 貴方がここにある。」





神詞かんしの冒頭をジイヤが口にする。


「オミは今までいくつの憎しみを絶やして、ここせいを留めたのですか?憎しみを絶やすことで、どれだけの新しいせいを産み出したのですか?オミは今日まで、私が産まれてから今日までずっとここに"あり"ました。オミはいつも誰かを助けますね?皆が望んだときに助けていました。"ある"ことに気づいた時、ここ神境かんけいなのだと、わかりました。」


「いえ・・・私は、かんではありません!私は、誰のことも助けることなどできていません!」


ジイヤがあまり力のない手で肩に触れた。


「オミの憎しみを絶やせる者はいないのですね。悲しい事に、そうなのですね。」


「私は何も出来ないだけです。長く長く生きすぎて、皆のことが、本当には、何もわからなくなってしまいました。せいの作る果実はより甘く、魚はより多く、皆病気にもかからなくなりました。私のすることはその間もずっと同じでした。私だけ同じなのです。」


「あぁ、オミ。オミ、貴方らしくあるというのはそういうことではないのですか?何も変わらずとも、皆、オミを愛している。それは貴方がかんだからではなく、"ある"から」


「あぁ、ジイヤ・・・あの、シサイを呼びますか?今私はハンリョを看取った時と同じ気持ちです。」


「えぇ、お願いします。心の準備ができました。」

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