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第7話 魔術師の命と罪

「やっと、落ち着いたみたい。今、眠ったわ」


少女の寝息が静かに響く。

ローズが毛布を直しながら囁くと、DDは小さく頷いた。窓の外には夜の帳が降り、魔素の気配もすっかり薄らいでいる。


「悪いな、ローズ。GGにも、迷惑を持ち込んじまったな」


そう言うDDの声に、ローズは静かに首を振った。

部屋にはカモミールの香がかすかに漂い、魔術的な防壁の音が、遠くに消えかけた風のように鳴っていた。


DDは、しばし少女を見つめたまま、重い口を開く。


「あの心臓……手に入れたのは、偶然立ち寄った村だった」


その声に、ローズとGGが顔を上げる。

DDは過去を掘り起こすように語り始めた。


「その村で、黒死の病が広がっていた。

聞けば、一人の魔術師が癒しを試みたらしいが――結局、病に倒れ、息絶えたと。

村人たちは彼を埋葬したそうだが……どうも引っかかってな。遺体を掘り返し、荼毘に付した」


DDの瞳が細められる。


「そして残ったのが――あの心臓だ」


「……ツヴェルフ、ね」


ローズが呟く。DDはゆっくり頷いた。


「フィーアが言っていた。“ツヴェルフは逃げる途中で力を使い果たした”と。

きっと彼は、死を悟ったうえで癒しを選んだんだろう。命の限界を、自ら燃やし尽くすように」


ローズは目を伏せて、静かに言った。


「優しい人だったんだね……」


「だが、それだけじゃない」


DDは声を低めた。


「人工魔術師計画の目的を考えると、あの心臓にはある程度の“魔力の蓄積”と“稼働限界”が組み込まれていたと考えるのが自然だ。

フィーアの暴走を見ても、それは明らかだ」


「つまり……殺しの道具として、完成していた可能性があるってこと?」


「ああ。仮に、魔術師を殺すまでの魔力出力が可能なら、あの暴走で――」


DDは少女に視線を向ける。


「……フィーアの命は、もう長くないかもしれん」


言葉の端に、痛みがにじむ。


沈黙が訪れる。やがて、GGが重く口を開いた。


「帝国がそんな計画を進めてたなんてな……。冗談抜きで、他国に戦争でも仕掛ける気かよ」


「どっちにしても放っておけない」とDD。

「“ツヴェルフ”って名を持つなら、フィーアと、消息不明の2体を除いても――最悪、あと8体は存在していることになる」


ローズが唇をかみしめた。


「でも……魔術師って、そう簡単に殺せる存在じゃないわ。

私たちは、“天命”が尽きない限り、死ねない。そうでしょう?」


DDは短く息を吐き、視線を伏せる。


「方法ならある」


その一言に、ローズとGGの視線が鋭くなる。


「我々魔術師の“天命”は、生前に犯した罪の重さが具現化したものだ。

もしそれを断ち切るとすれば……自分の罪とともに、相手の罪も、背負って生きることになる」


静かに、しかし確かな決意をこめて語るDDに、ローズとGGは言葉を失う。


やがてGGが小さく呟いた。


「……“真なる罪のシン・デューデ”ですか」


その魔術の名を口にした瞬間、空気がわずかに揺れた。


DDは答えなかった。だがその沈黙が、全てを物語っていた。


「……あなたは、実際に……魔術師を殺したことがあるのですか?」


GGの問いに、DDは淡々と返す。


「それは……今は関係ない」


話題を断ち切るようにして、彼は続けた。


「今はフィーアやツヴェルフの身元を調べる方が先だ。

もし帝国が“転生の可能性が高い死体”ばかりを選んで、人工魔術師に仕立てているのだとしたら――」


ローズが青ざめた声で呟く。


「それって……フィーアが、“重犯罪者”だったってこと……?」


部屋の空気が重く沈む。誰もが、否定したくて言葉を飲み込んだ。


ローズは、眠るフィーアの顔を見つめながら、小さく震える声で言った。


「……あんなに優しい子が……そんなはず、ないよ」


DDは静かに首を振った。


「まだ“可能性”だ。

だが、どんなに小さくても、その芽は――潰しておかねばならない」


その言葉は、部屋に冷たい現実を刻んだ。

少女の眠る呼吸が、静かに重なりながらも――その未来に、確かな不穏が潜んでいるのを、誰もが感じていた。

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