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第6話 告白〜そして願い

魔道具の心臓が、木製のテーブルの上に静かに置かれた。


紫色の宝石が埋め込まれたそれは、あまりにも無機質で、

しかしあまりにも人の形を模していた。

その瞬間、少女の瞳が大きく見開かれた。


「……それ、どこで……」


唇がわななく。手が震える。視線は心臓から一瞬たりとも外れない。


「それ、ツヴェルフの……心臓……」


声が、ひび割れた陶器のように砕ける。


「あなたが……殺したの……?」


少女――フィーアは、椅子から飛びのいた。

心臓へと一歩、また一歩、ふらつくように近づいていく。

その場にいた者たち――DD、GG、ローズの三人は、即座に危機を察知した。


空気が歪む。魔力が溢れ出す。


フィーアの小さな体から放たれる魔力は、まるで傷つけられた獣の叫びのように、

部屋の隅々まで突き刺さった。


「くるぞ……!」


DDが即座に結界魔術を発動する。「障壁(ベーリエ)」。

GGもそれに重ねて補強結界を上乗せし、ローズは紅茶のカップを素早く脇に避けながら、

静かに魔術発動の構えをとった。


しかし、それでもなお、暴走する魔力の奔流は結界をひび割らせていく。


「このままじゃ、抑えきれんぞ……」


GGの顔から表情が消える。

ゆっくりと立ち上がると、右手を胸に当てて言った。


「……しかたありませんね。

久々に、喰わせてもらいますか」


空気が一変した。

GGの足元から黒い影のような魔力が広がり、部屋中の光を吸い込む。


「咎を喰らい、罪を我が身に。

 真なる罪の形(シン・デューデ)――『罪喰い(フレスサール)』」


その言葉と同時に、GGの口元から影のような蛇が幾重にも伸び、フィーアの周囲を取り囲んだ。

それらは任意の物を喰らい尽くす暴食欲の具現。

暴走する魔力を絡め取り、貪り喰っていく。 あまりに異様で、凄絶な光景だった。


まるで世界そのものが喰われていくような錯覚。


やがて、魔力は鎮まり、影は静かに霧散した。

フィーアは崩れるように床に座り込み、震える肩を抱える。


「……おい、無事か?」


DDが問う。  しばらくの沈黙の後、少女は、か細い声で口を開いた。


「……わたしは……帝国の……実験施設から、逃げてきたの」


その声には、もはや怒りはなかった。ただ、痛みだけがあった。


「人工魔術師計画。帝国が……戦争のために作ったの。

死体に魔道具を埋めて、無理やり、魔術師として動かすの」


その言葉に、誰もが息を呑んだ。


「……わたしは、フィーア。……名前じゃない、番号。

私は『4』。ツヴェルフは『12』。

一緒に逃げた『6』のゼクスと、『9』のノインは、今どこにいるのか分からない」


手が、テーブルの上の心臓に伸びる。

フィーアは、それをそっと抱きしめた。


「ツヴェルフは……やさしい人だった。

でも、逃げる途中で力を使い果たして……きっと、もう、限界だったんだと思う」


唇を噛み、目を閉じて、必死に涙をこらえる。


「私たち、最初から人間じゃなかった。本当の私たちはね、もう死んでるの。

でも……でもね、それでもね……私はもう一度死にたくないよ」


声が震えながらも、真っすぐにDDを見上げる。


「私たちがね…魔術師を殺すと…その命を奪えるん…だって。

それで…計画が…完成するって…」


その目から大粒の涙があふれ出した。


「戦争の道具になんて…なりたくないよ。

他の子たちだって、そう。だから……お願い、助けて。 ……DD……私たちを助けて」


その光景を、DDは黙って見つめていた。


(死体は涙を流さない)


沈黙の中、彼の心の奥。

かつて大罪を犯した男の中の何かが、静かにうごめきはじめていた。


――罪の重さを知る者だけが、その手を差し伸べられるのだと。

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