第11話 進展
広い石畳の通りの両側に、所狭しと露店が並んでいる。
焼いた肉の匂いと、香辛料の刺激臭。
果実酒の甘い香り。
呼び込みの怒鳴り声に、客引きの笑い声。
王都の商業区画は、今日も人で溢れていた。
DDは雑踏の中をゆっくり歩きながら、露店の商人たちに片っ端から話を聞いていた。
「移動サーカス?いや、知らねえな、最近は大道芸人ばっかりだ」
返ってくるのは、そんな曖昧な答えばかり。
DDは小さくため息を吐く。
「そう簡単には見つからんか」
通りの端に並ぶ屋台の一つで足を止めた。
「おっちゃん、カエル揚げ一つとビール」
「あいよ!」
油の弾ける音。
足先にホイルの巻かれたカエル肉が、香ばしい匂いを漂わせる。
DDは近くの丸テーブルに腰を下ろし、ビールを喉へ流し込んだ。
「……生き返る」
そんな時だった。
隣のテーブルから、妙な話が聞こえてきたのは。
「だから本当だって!喋るカラスが“いらっしゃいませ”って頭下げたんだよ!」
「なんだそりゃ」
「しかも犬がチケットのモギリしてんの!二本足で立って!」
DDの手が止まる。
「……サーカスか?」
男たちは酔った様子で笑い合う。
「変なサーカスだったぜぇ。団長も怪しい格好でよ。動物がみんな人間みたいなんだよなぁ……」
DDはゆっくり立ち上がった。
「――ちょっといいか」
DDが男たちのテーブルへ歩み寄る。
酔っぱらいたちは一瞬だけ警戒したように顔を上げた。
「なんだ兄ちゃん?」
「今の話、少し聞こえたんだが……」
DDはビールを一口飲み、淡々と言った。
「チビデブで、丸眼鏡のサングラス。赤と青の縞々のシルクハットにタキシード。ちょび髭を生やした男が団長やってる移動サーカスのことか?」
男たちが目を丸くする。
「お、おお! よく分かったな!そうだよ、その変な団長!」
「やっぱりドクターか……」
DDが小さく呟く。
「そのサーカス、いつ頃いた?」
「一ヶ月くらい前だな。南の漁業都市ボックスヘルに来てたんだ」
「ボックスヘル……」
「しばらくそこを拠点にするって言ってたぜ。多分まだいると思う」
DDは軽く頷いた。
「助かった」
懐から財布を取り出し、銀貨を数枚テーブルの上へ置く。
「情報料だ」
男たちが慌てる。
「いやいや、そこまでしなくても――」
「受け取っとけ。酒代くらいにはなる」
DDはそう言い残し、背を向けた。
しかし――ボックスヘル、か。
DDは雑踏の中を歩きながら、小さく呟いた。
南方最大級の漁業都市。
同時に、海の向こう――帝国からの侵攻を監視するための要塞都市でもある。
高い防壁。
海岸砲台。
常駐する王国海軍。
王国南部防衛の要となる軍事拠点。
「……疑問には思ってたんだ」
海の向こうから来た人工魔術師、フィーアとツヴェルフ。
どうやって帝国から逃げ出し、海を渡って王国内へ入った?
密航した?
あるいは――。
「内部に手引きした人間がいるのか」
DDの目が細められる。
もし人工魔術師計画が帝国の極秘案件なら、国境警備を抜けて王国へ渡るなど、本来不可能なはずだ。
それなのに、フィーアたちはここにいる。
そして今。
そんな場所に、ドクターが拠点を構えている。
「偶然とは思えんな……」
潮の香りが風に混じる。
南方の海。
帝国。
そして、ドクター。
あの男が無意味に動くとは思えない。
「……何を知ってる、ドクター」




