0-3.始まるアフターストーリー
序章第3話
10年ぶりとなる『M t O』シリーズ最新作『Magic the Origin Ⅱ』は、『Magic the Origin』にてウリエルとフィン、そして仔ドラゴンのジェイドがアンセーフを生み出す存在・アンセーフ:マスターを倒し冒険を終えたその後を描いており、青年へと成長したフィンを主人公としたストーリーである。
アンセーフに関する調査任務を全うした師・ウリエルは「賢者」と呼ばれ、人々から尊敬された。その弟子であるフィンも王に認められ、平民の出にありながら、オーシェント中央都市・グレーセントラルの王立研究所に所属することとなった。この快挙にある者は彼を称え、ある者は彼を妬んだ。
アンセーフ:マスターを倒しても、未だアンセーフの残党は国に蔓延り、人々は脅威にさらされている。2人は冒険の経験から得た知識を糧に、アンセーフを倒すための武器や装置、人々を守る魔法道具の研究に努めた。
冒険が終わっても尚、師と国を救うため、忙しない日々を送っていることに、フィンはやりがいと充足感を得ていた。穏やかな幸せを感じていたのだ。
しかし、その幸せは突如として崩れる。
これまでは本能のままに活動し、統率のとれていなかったアンセーフが突然集団で行動するようになり、訓練された兵士のように明敏に、そして無慈悲に町や人々を襲うようになったのだ。まるで指揮官の許に進軍するアンセーフの群れを、だれも止めることはできなかった。
この変化に国中が動揺し、ウリエルたちに救いを求めた。2人が原因を明らかにしようと調査を開始した矢先、ウリエルが病に倒れてしまう。ウリエルの症状は重く、長くは生きられまいという医師の言葉にフィンは絶望した。
そんな失意の中、王から託され、指揮を任された調査団を壊滅状態に追い込んでしまったフィンは、彼を妬む者の企みによって、王立研究所の研究員としての地位をはく奪されてしまう。
フィンは病床に臥すウリエルに己の無力さを謝罪した。そんな愛弟子にウリエルは最期の言葉を遺す。
「少年よ、きみには過去の冒険から得た、なにものにも代え難い力を持っているではないか。
それは知恵であり、戦う力であり、きみを形作る意志であり、未来の指標である。
その絶望も、長い年月をかけて、少年の力となるだろう。そのときに、きみが後悔することのない選択をすべきだ」
私がいなくてもきみはもう大丈夫さ、と微笑み息を引きとった師を看とったフィンは、軍隊化したアンセーフを調査するため、かつての冒険の仲間・ジェイドがいる〈銀雪の洞窟〉を目指し、新たな冒険に出るのだ。
『M t O Ⅱ』では第4章で再会するジェイドのほかにもう1人、仲間となるメインキャラクターがいる。
その仲間の名前はレナード。連続殺人鬼に無理やり契約させられてしまった最上位精霊である。
レナードが登場するのは第2章である。女性ばかりを狙う残虐な連続殺人鬼を、被害者の親友だった女性に依頼され、フィンが捕まえることとなる。連続殺人鬼の正体はレナードに一目惚れし、無理やりに契約を結んだ契約者であった。彼女はレナードに心酔し、彼と少しでも関わったすべての女性に嫉妬しては、殺人を繰り返していた。
レナードは彼女を止めようと何度も説得したが、契約に縛られ逃げることはできず、そのうえ自身が与えた力で女性たちを殺していく彼女の行いに心をすり減らしていた。
レナードを解放するため、フィンは依頼者と協力して殺人鬼を捕らえ、契約を破棄させることに成功する。人間不信に陥っていたレナードはフィンを新たな主として認め、自ら契約を結び、フィンに力を与えるのだ。
短く揃えられた赤髪に縁どられた端正な顔立ちの中でも、まるで雲が流れているかのように絶えず色が変化する灰色の瞳は、この世のものとは思えないほどに美しい。逞しい身体は金色に輝く光をまとい、この男がただの人間ではないことを物語る。
コスプレだとしたらクオリティが高すぎて某SNSでバスること間違いなし、と自分が置かれている状況を受け入れられず場違いなことを考えていた美晴は、レナードの鋭い目つきに肩をすくめ、目の前の精霊に意識を戻す。
「ずいぶんと不躾な女だな」
しまった、と美晴は慌てて視線を逸らす。
フィンを信用し仲間になったレナードだが、ストーリーに登場する女性キャラクターに対しては冷淡に接していたり、ストーリー上でも「女は信用ならん」と発言していたりと、それは見事な女嫌いっぷりを発揮するのだ。
「ご、ごめんなさい」
「求めているのは謝罪ではない。貴様は何者かと聞いている」
「えっと…正直私も混乱していまして……私はたしかに小森美晴というのですが、この身体は私ではないといいますか。
事実確認を行いますので少々お時間を頂きたく存じます」
「なにを言っている」
コールセンターのクレーム対応よろしく、よどみなく答えた美晴に、レナードが心底理解できないといった表情で聞き返す。
(マジレスつらい。てか絶対日本人じゃないのに言葉通じてるんだけど。ああ、これは詰んだ、詰みましたわ)
正直に「異世界転生しました」と言って信じてくれるような、柔軟性のあるキャラクターではないことは重々承知している美晴である。
どうにか敵ではないことを伝えようと言葉を探す美晴は、部屋の入口から聞こえた物音に振り向き、再度言葉を失った。
「どうしたんだ、レナード。急にいなくなったりして」
「! 1人で階段をのぼるなと言っただろう!」
杖をつく男性にレナードが駆け寄り、その身体を支える。レナードの大きな手に支えられた男性は「ありがとう」と微笑むと、呆然と立ち尽くす美晴に視線を向け、きょとんと目を丸く見開いた。
「おや、きみは?」
「……異世界転生ルート確定乙」
「ん?」
(身体が金色に光っていることに気づかないふりをしたうえで)レナード1人なら神コスプレイヤーのコスプレの可能性もわずかに残されていたが、二次創作だとしても、公式から供給されていない彼の年老いた姿をここまで再現できるコスプレイヤーはいないだろう。
現実逃避のためにすがっていたコスプレイヤーという可能性が潰えた今、美晴は合掌して天を仰ぎ、無駄な抵抗をやめ異世界転生を受け入れた。
「ふふ、面白い子だね」
老人は小さく笑い、レナードの制止をやんわりと流すと、美晴に手を差し出した。
「はじめまして、僕の名前はフィン・タウンゼンド。きみの名前を教えてくれるかい?」
『Magic the Origin』では主人公の弟子として、『Magic the Origin Ⅱ』では主人公として、そしてプレイヤーとして一緒にオーシェントを救った仲間であるフィンの手を、美晴は握り返した。
「小森美晴です」
オーシェント大陸の中心都市・グレーセントラルの雑踏から少し外れた、静かな丘の上に建つは、アンセーフとその魔王の脅威から国を救った「英雄」フィン・タウンゼンドと精霊・レナードが暮らす屋敷。
『Magic the Origin Ⅱ』のアフターストーリーが、この屋敷を、美晴の異世界転生を起点に始まる。