075.機械娘にするゆりかご
機械子宮は生身の肉体と機械を融合させる装置で、究極的には機械化人類を生み出すのを目標にしていた。当面は「着せてしまう」装置であるが。研究員七号の場合、着脱可能な外骨格として開発されたものを機械子宮の中で着装したものの、技術的な不具合が発生し過度に生体と機械の融合が進行してしまった。おかげで、現時点では安全に取り外し出来ない状態になった。そのため、はからずしも次のステップであった「長期着装型機械娘」の第一号被験者になった。
そのあとの実験では、問題なく着脱が出来る事が確認されたので、恵理が「前量産型機械娘」の被験者に選抜された。恵理のクラスメイトの女子二十名はそんな機械娘の被験者に半ば強制的にされる運命だった。彼女が最初に選ばれたのは偶然ではなかった。
機械子宮の周りには恵理に装着される機械娘の部品が用意されており、最終チャックが行われていた。体内に挿入される部品、全身を覆う人工筋肉と制御システム、それに外骨格。その全てが恵理の肉体を機械娘に生まれ変わらせる者たちであった。
「いよいよですね、綾先生」
研究員七号は綾先生とコンタクトを取っていた。その時、綾先生は別のミッションルームにいた。そこでは、来週行われる課外授業の教材選定をしていた。生徒たちに「機械を着込むスーツ」という存在を認知させるためだ。最初から生徒の大半が機械と融合させられる運命だと知らされることはなかったが。
「そうね、本当なら一気に生徒全員を機械娘や機械化人なんかに改造したいところだけど、サンプリングしながら徐々にしろというのが、上層部からの指示だからね。だから忙しくなるわよ、これから。来年の今頃はこの町の住民の過半数はあなたのような姿になっているはずだからね、七号」
七号は現在の姿、外骨格に覆われロボットにしか見えない状態になっているのが尋常な光景になった町の様子を想像すると、何とも言えない気持ちになった。綺麗な風景で自然もいっぱいでも、何もない田舎の風景の中に人間のかわりに機械にされた者たちが闊歩する状態が当たり前になるなんて。幼い時から暮らして来た町がそんなふうになるなんて、それっていい事であるのだろうか?
「そうですね、これから機械子宮を増設するのですよね」
「そうよ、来月には一気に二十五基納入されるわよ。それだけあれば一日当たり順調であれば百人ぐらい機械化できるからね。最終的には百基まで増設されるから、そうなったら全国から機械化希望者を募って・・・一大産業になるわよ、この町の!」
綾先生の声は嬉しそうであった。それが人類社会にとって最大の貢献だと信じているようだから。でも七号は不安に思っていた。これから恵理のような無理矢理機械と融合させられる人間がいっぱいいるだろうということに。この、機械娘にするゆりかごによって!
七号は機械子宮の中に浮かぶ恵理の身体を見ていた。その身体は見覚えがあって愛おしく思えたから。本当ならもっといろんなことを語らいたかったと思っていた、人間の姿の時に。今の七号と同じ機械娘に改造されたら、本音を言う事も出来ないというのは分かっていたから。そう思うと七号はモニターを握りこぶしでたたいていた。彼女のそのこぶしは硬い複合材で構成された外骨格に覆われていた。この外骨格が外れる日は、来ないかもしれなかった。




