001.キャラメルママのVRゲーム機
僕、鈴木翔太が住んでいる町はとある地方の山地のなかにあった。町の中央にある川に沿って市街地が伸びていて、鉄道も同じように伸びていた。川は周辺からいくつもの支流が流れ込んでいて、鉄道は南北に入っていた。鉄道は幹線と位置づけなので特急電車が運行されているけど、町の駅で複線から単線になっていた。そして町は過疎化が進み高齢化率も高いという、この国の少子高齢化が進行している典型のようなところだった。実際、町を歩くのは老人が目立ち若い者を見る方が珍しかった。
そんな街の駅前にあるゲームセンター「キャラメルママ」に最新VRアーケードゲーム「鋼夜叉」が設置されたのは夏休み前の七月はじめだった。そのゲーム機はネットで調べても詳しい事が分からない謎のものだったけど、その種のVRゲームにしては安すぎる「一回ワンコイン」というものだった。ただ「調整」しないといけないなどといって実際にプレイできるのは一日数人だけだった。
そんな、ある日のこと。僕は高校から帰っていた時「キャラメルママ」の前を通った。その日は期末試験のため午前中で学校は終わり、家までぶらぶらしながら帰っていた。それはいつもの事だけど幼馴染の金城恵理らしき影が店に入るのを見たのだ。彼女は幼い頃から見慣れているので、特別な存在ではなかった。もちろん、恋愛感情なんてなかった。それでもなんか気になったので後をつけるように入った。
「キャラメルママ」は完全に店主の趣味のような店だった。本屋コーナーがあったりアンティークを売っていたり、この町の土産物を売っていたりと、不統一な商品の陳列をしていた。その奥にあるゲームコーナーは今まで昭和時代のメダルゲームや手打ちのパチンコ台があったが、その一角にオーパーツ(場違いな)みたいな最新ゲーム機「鋼夜叉」があった。その前に恵理がいた。
「金城さん、ゲームなんか興味ないって言っていたのに何できているんの?」
恵理とは幼馴染であっても、そんなに親しい関係ではないのでいつも苗字にさん付けでよんでいた。まあ女になれなれしく呼び捨てしていたら同級生に仲が疑われかねないし。
「いやねえ綾先生にやってみないかといわれたのよ。それでこんな招待券みたいなものを渡されて」
綾先生とは僕たちのクラス。もっとも一学年二つしかないけど、そのクラス担任の生物担当の女性教師だ。その先生の趣味が様々な種類のゲームをプレイする事というゲーマーだと認識していた。
そういっていると、奥から店員が出てきた。その店員は見たことない理系エリートのような顔つきをした若い男だった。
「招待券を確認いたします。では、これを装着してください」
そういって恵理にVRヘッドギアとグローブ、ブーツをはめて、マシーンの座席みたいなものに跨る様に固定した。そしてヘッドギアやブーツとグローブにマシーンからの端子が接続された。その時奥から近づいて来たものがあった。それはメタリックボディの二足歩行ロボットだった。最近では高価だけど市販されているものだけど、こんな田舎町で直にみるのは初めてだった。
「それでは調整しますね。この招待券に書かれている情報に間違いありませんね」
そのロボットは、いやゆるガイノイド・タイプだった。つまり女性型アンドロイドということだ。女性らしい華奢な外骨格に覆われていて、胸や腰は膨らんでいて女性らしいボディラインを描いていた。
「ええ、それにしても鋼夜叉ってバトルゲームよね! カーソルとかどこにあるのですか?」
恵理は聞いていた。そういえば彼女は何故か綾先生と話をすることがあったので、興味があると思ったから招待券を譲ったのだと思ったけど、それって教師がやる事なのか?
「大丈夫です、ヘッドギアがあなたが考えていることを感知します。だからあなたがやりたいことを仮想空間で出来ますわ」
そう言っている間にギャラリー用のモニターに仮想世界の恵理の姿が映し出された。そこには目の前にいるガイノイドと色違いの姿だった。その姿が未来の恵理の姿になろうとは思いもよらなかった。
予定では毎日400~600字連載予定です。