国外逃亡
猪の牙の破片で土を掘り、騎士の亡骸を埋蔵した2人。
休憩もそこそこに、山の中をひたすらに進んで行き、夜が明ける頃に、ようやく隣の港町へ着いた。
「やっと、着いた……」
リースはもう歩く力も残っていなかった。
「朝一の船で隣の国へ行く。
もたもたしてると捕まるぞ!」
ホークが町中を見渡し、
追っ手が居ないか確かめる。
「どうやらまだ大丈夫みたいだな。
まずは服を何とかしよう……」
ホークは城へ侵入する為の黒装束のままだった。
船着き場を偵察し、
追っ手が居ない事を確認するリース。
「おまたせ」
そこへ現れたホークの服は、
とてもみすぼらしい物になっていた。
「どうしたのそれ?」
リースがホークの服を指差した。
「その辺で寝てたオッサンに
交換して貰った。
金貨1枚渡したら喜んでたよ」
ニシシ、と笑うホーク。
「リースの分もあるよ」
同じ様な服を一式リースに差し出した。
「これ……着るの?」
戸惑うリース。
「仕方ないだろ?」
リースは渋々と物陰に隠れた。
「覗かないでよね……」
ふて腐れるリース。
「はいはい」
クルリと後ろを向くホーク。
「何か臭いわよコレ」
着替え終わったリース。
良いとこのお嬢様が着る服としては、
とても似つかわしくなかった……。
「なんだ、以外と似合っ――」
「何か言った?」
「いえ、何でも……」
ホークは口を閉じた……。
朝一の船に乗り込み、船の出航を待つ2人。
乗客はホークとリースだけだった。
窓から外を見ていると、
城の兵隊達がゾロゾロと町へ現れ始めた。
「まずい。もう追っ手が来たぞ……」
焦りの色が出るホーク。
「出航はまだですか!?」
リースが急かすように船員に話しかけた。
「今準備しているから、もう少しだ」
そそくさとその場を後にする船員。
警備兵の1人が船着き場へ方へやってきた。
「すまない。王の命令でな……
中を見させてもらうぞ」
客室に現れた警備兵。
それは城の警備隊長でもあるリースの父だった!
「脱獄した騎士ライアスは居るか!?」
一瞬、警備隊長とリースの目が合うが
リースはすぐに視線を逸らした。
「君たちは?」
警備隊長がホーク達へ近づく。
「た、旅人です。今から隣の国へ……」
ホークは咄嗟に適当な嘘をついた。
「騎士ライアスを探しているのだが、
見なかったか……?」
警備隊長の威圧がリースに突き刺さる。
「それと、我が娘リースが家出してな……。
何か知らないか?」
2人は俯いたまま無言で首を振った。
「そうか……」
警備隊長は客室を出ようとした。
「あ、あの……」
リースは思わず声をかけてしまった。
父へ何とお詫びすれば良いか……。
決して許される事では無いが、
このままやり過ごす事などリースには
出来なかったのだ……。
「なにか?」
後ろを振り返る警備隊長。
「……その……あ……」
言葉が出ないリース。
「これは独り言だが……
我が娘リースは由緒正しき
我が家から絶縁とした。
少々おてんばが過ぎた様だ……」
父より放たれた『絶縁』の一言が、
リースに深々と突き刺さり、
リースは静かに涙した。
「しかし、リースは今頃誰かと
一緒に居るはずだ。
きっとその者がリースの支えなのだろう」
「誰かは知らぬが、
娘を宜しく頼む……。
と言いたい気分だ」
リースの父は、
ホークを一瞥し前を向く。
「お父様……」
リースは父の優しさに感涙し、
何も言えなくなってしまった。
「兵隊さん」
ホークが警備隊長に声をかける。
「ん?」
「探している人かどうかは分からないけど
誰かが山へ入るのを見たよ。
山の頂上付近で巨大な猪に襲われて
死んでなければいいけれど……」
ホークが俯きながら話す。
「そうか、ご協力感謝致します」
会釈をし客室を後にする警備隊長。
兵隊達を連れて山へ向かっていった。
「お客さん、船出しますぜ?」
船員が錨を外し、船は静かに港を後にした……。




