脱獄しました
「脱獄させるですって――」
思わず声が大きくなるリース。
咄嗟にホークがリースの口を塞いだ。
「しーっ!
声が大きい……」
ホークはキョロキョロと辺りを見渡し
誰も居ないことを再確認した。
「お嬢様はこれ以上深入り
しない方がいい。脱獄は俺一人でやるから」
覚悟を決めた様なホークの顔を見て、
リースは戸惑いの色を隠せなかった。
(これ以上家族に迷惑はかけられない……)
リースは心の中で騎士の罪悪感と、
脱獄の手引きによる家族への制裁とで揺れていた。
「ごめん……なさい。私は……」
言葉に詰まるリース。
そんなリースの頭をポンポンと軽く撫でるホーク。
「いいんだ。後は俺に任せろ……」
リースは己の軽率な行動に静かに涙した。
――次の日――
真夜中にホークは黒い衣装を身に纏い、頭と口元を隠し城の中へと忍び込んだ。
(昔、リースとかくれんぼで入った事が役に立つなんてな……)
牢屋の前は見張りが1人椅子に座っており、退屈なのかあくびが出ていた。
ホークは懐から吹き矢を取り出し、矢を込め始めた。
矢には軽い睡眠薬が塗っており、当たれば3時間は夢の中だろう。
ホークは狙いを定め、吹き矢を構えた。
ビュン…… ドスッ!!
凄まじい速度で発射された矢は見張りの背中に命中し、
見張りはそのまま転がるように倒れてしまった。
「よし……」
ホークは見張りを軽く蹴り、起きないか確認する。
泡を吹いて倒れている見張り。起きそうに無い。
しかし、ここでホークは痛恨のミスを犯した事に気付く。
「あ……俺 騎士の顔も名前も知らないや……。
1人1人聞いてたら騒ぎになりそうだ……」
途方に暮れるホーク。
「まったく、何やってるのかしら……」
溜息をつきながら黒いボロに身を包むリースがそろりと現れた。
一目見てリースと気付くホーク。困った様な嬉しい様な表情を見せた。
「あーあ、来て良かったのか?お嬢様……」
冷やかすように話すホーク。
しかし、リースも覚悟を決めた様な目をしていた。
「騎士は一番奥よ。
あんた去年剣術大会でボコボコにされたじゃない。
顔ぐらい覚えておきなさいよ……」
リースが指差す一番奥の牢屋は、他の牢に比べ特別頑丈な作りになっていた。
ホークが静かに一番奥へと進む。
最奥の牢屋には1人の青年が入っており、こちらを睨みつける様な顔で様子を覗っていた。
「何の用だ……。俺を殺しに来たのか?」
青年の圧が一段と上がり、ホークの肌にジリジリと突き刺さる。
ホークは落ち着いて事情を話し始めた。
「今回の件は騎士さんには何ら落ち度は無いと思ってね。
親切心で助けてやろうとここへ来たのさ」
ホークの言葉に耳を疑う騎士。
「一体なんのために?
ばれたらお前らの命も無いぞ」
ホークたちがここまで冗談を言いに来た訳では無い事位
察する騎士だが、にわかに信じがたかった。
「自分たちの為だ……。
あんたに死なれちゃ後味が悪い。
悠長に話している時間が無い。
出るのか?出ないのか?」
騎士の顔を見つめ、真意を問うホーク。
「ああ、出たいさ。
でもどうやって――」
騎士がホークの目の前まで迫る。
「ちょいと横にどいてて」
ホークが右腕を捲る。
「ホーク?」
リースが不思議に思い、声をかけた。
ホークは牢の扉を掴むと、ありったけの力を込めた!
「ぐ、ぎぎ……」
「バカな!力で開けようってのかい!?」
困惑する騎士。
ホークが渾身の力で扉を引っ張ると、扉は次第に曲がっていき
最後には鍵が壊れ扉が開いてしまった!
「なんて事だ……」
騎士は唖然として、壊れた扉をまじまじと見つめていた。
「まさかホーク……」
リースが駆け寄りホークの腕を触る。
しかし、いたっていつもの腕だった。
「説明は後でな」
ホークは焦ること無く冷静に辺りの様子を覗い、
城の外へと2人を誘導した。
「ここの壁を取れる様にしておいた」
ホークがレンガの壁を押すとレンガの一部が外れ、
人が通れる程の穴が空いた。
リースを通し、騎士を通す。
最後にホークが穴を埋めようとした瞬間、見回りの警備兵に見つかってしまった。
「おい!! 何をしている!!」
警備兵が警笛をならそうと笛を取り出す。
ホークがその動きに反応し、吹き矢で警備兵の笛を弾いた。
ホーク達はそのまま走り去る。
その後ろで先ほどの警備兵がホーク達に向かって弓を引く。
その姿を見たリースは咄嗟にホークを庇った!
「危ないホーク!」
ホークの前に腕を広げ立ち塞がるリース。
放たれた矢がリースに迫る。
しかし、矢はリースの前に突如として現れた白金の盾に弾かれ、地面へと落ちた。
「な、なに?」
状況が理解出来ないリース。
ホークや警備兵も同じ様に何が起きたのか
理解が追い着かず、唖然としていた……。
「と、とりあえず逃げるぞ!」
ホークは戸惑うリースの手を引き、その場を後にした……。
もう少し表現力を身につけたいです……(泣)