クリプトンの古神殿
セレンより更に東。キガス地方の最果てにあるクリプトンの古神殿。
標高の高い山々に囲まれ、今まで人目に触れることの無かった天然の要塞の中に、その神殿はポツリと存在していた。
「……荷車の痕だ。最近誰かがココを通ったんだ。きっと奴等だろう」
ホークはシャルロットと共に馬に乗り、険しい道を進んでいた。
魔女の幻惑は冷水をかけ続けたら解けたが、風邪をひき一日寝込んでしまった。
「うわあ、綺麗な神殿!」
シャルロットが声に出すのも無理は無かった。
山の中腹から見える神殿は太陽の光に照らされて眩しく輝いており、まるで光で出来た神殿の様だった。
「行こう。リースが待っている!」
「はい!」
2人は神殿の前に着くと、馬から降り辺りの気配を探る。
神殿は大理石の様にツルツルとした石で出来ており、太陽の日を浴びて表面は暖かい温もりに包まれていた。
意を決して中を覗くと、大広間の真ん中に棺が1つあり、その上にはリースが横たわっていた。
「リース!」
ホークは無我夢中で駆け出し、リースの安否を確認する。
リースの身体は暖かく息もしていたが、いくら揺さぶっても起きる気配は無かった。
「ふふ、大分待たせるのね。」
大広間の奥から、魔女がゆっくりと歩み寄ってくる。
赤いハイヒールの甲高い靴音が大広間に響く……。
「リースに何をした!」
「さあ?幻魔結晶をくれたら起きるかもよ……?」
魔女は前にホークを幻惑した時の様に、怪しい手つきを見せ始めた。
「ま……じょ……さ――」
「ゴミムシ!!」
シャルロットの怒号が響き渡った!
「はっ!シャル様!」
ホームはシャルロットへ跪いた。
「なにっ!私の術が効かないだと!?」
魔女は再びホークを幻惑しようとするが、ホークの様子は変わらなかった。
「リースさんを返しなさい!!」
シャルロットが幻魔結晶に手を当て意識を集中させると、床から無数の無機質な硬質的の金属が先の尖った槍の様に、魔女へと向かって行った。
「このガキッ!」
魔女がパキンと指を鳴らすと、魔女の背中に翼が生え、大広間を自由に飛び回り、シャルロットの飛ばした金属槍を避けながら2人へ向かってくる!
「そいつを寄こしなさい!」
魔女の手から近付くことすら躊躇われる程の火の玉が発射された!
ホークはリースを抱え、転がるように回避する。
シャルロットは地面に手をつくと、地面から無機質な金属が盾となりシャルロットを遮った!
火の玉が金属へと降り注ぐ!
「鉄をも溶かす私の炎に耐えられて!?」
魔女は次々に火の玉を放ち金属の盾へぶつけていく。
ホークは火の粉がリースにかからぬよう回避するので精一杯だった。
金属の盾は次第に赤くなり、柔らかくなってグニャリと溶けてしまう。
「ああっ!」
慌てるシャルロットへ、空から体当たりをかます魔女。
シャルロットは地面へ転がり、宙へ飛んだ幻魔結晶は魔女の手の中へ納まった。
「ふふふふふ……ついに! ついにこの時が来たわよ!!」
魔女は棺の前へ降り立つと、4つの幻魔結晶を棺へ置いた。
幻魔結晶は棺へ吸い込まれるように消えて無くなり、棺の蓋が静かに開くと隙間から七色の黒い光がうねる様に飛び出した!!
「な、何が起きたんだ!?」
「分かりません!でも最悪な事態なのは確かです!」
目をこらすことも出来ず、光が消える間での間、二人は絶望を覗き込む事しか出来なかった……。
次回よりラストバトルです。




