ニッケル森の黄金蟲 ①
「ホークさん、しっかりー!!」
シャルロットはホークを小屋へと連れて行き、椅子に座らせて耳元でフライパンをガンガン叩き始めた。
「ま……女……さ…………ま……」
ホークの目は虚ろなまま、ただ遠くを見つめるばかり。
「そう言えばさっきも魔女とか何とか言ってた様な気がします……」
シャルロットは自分のローブを整えると、周囲を確認してから大人びた声を出した。
「ホーク……私が分かりますか?」
大人の女性を思わせる声はどことなく魔女に似ており、ホークが僅かに反応した。
「ホーク?」
もう少し音を低めに……。
ホークの様子は変わらない。
「ホークゥ?」
声を張ってみた。
ホークの様子は変わらない……。
「ねぇ?ホーク……?」
ヤケクソで嫌らしい声をだしたシャルロット。
「魔女様!!」
急にホークが立ち上がり、シャルロットに抱き着いてきた!
シャルロットの胸に顔を埋め、グリグリを顔を動かした。
「ひゃああああぁぁ……」
シャルロットは思わず変な声をあげてしまう。恥ずかしさのあまり顔が赤くなった……。
しかし、ホークはすぐにシャルロットから手を離してしまう。
「?」
「抱き心地が違う……」
また椅子に座ったホークは虚ろな目に戻ってしまった。
「ぐぬぬ……!」
シャルロットはタンスから布を取り出し、自分の胸に詰めだした!
背伸びして買った新品の紅い口紅を不慣れな手つきで着けると、トドメにハイヒールを履いて再びホークの前に立った!
「ねぇ?ホーク……いらっしゃいな……」
その言葉にホークが再び立ち上がり抱きついて来た。
(今度こそ……!)
しかし、顔を埋めた後、三度椅子へと戻るホーク。
「今度はなに!?」
もはや意地となっているシャルロット。
「匂いが違う……」
「……はぁ!?」
シャルロットは自分の持っている香水を1つずつ使い正解を求めた。
しかし、5つ程あった香水全てを使っても、ホークが満足する事は無かった……。
「ああ!もう!! 魂が抜けたように虚ろなくせに注文が多い!!」
シャルロットは疲れて椅子に座りこんで、机に置いてあったミカンを食べ始めた。
「あ……魔女様……」
ホークはシャルロットの手に顔を擦り付け始めた。
「もしかして柑橘系?」
シャルロットは蜜柑の皮を体中に擦り付け、残りの皮をポケットへと入れた。
「ああ!魔女様!何なりとお申し付け下さい!」
ホークの目は虚ろなままだったが、とりあえず元気にはなった。
「正気に戻す予定が何だか操れる様になっちゃった……」
シャルロットはホークの顔を見てしばらく考えた。
「……これはこれで良いかも」
シャルロットはホークを連れて外へと向かった……。




