幼き魔女
無様に吊されたホークを降ろし、
3人は少女の小屋へと入った。
「ふーん、意外とお洒落じゃん」
綺麗に片付いた中に可愛い小物や
素敵な壁飾りがちりばめられ、
少女のこだわりが感じられた。
「それで、何の用ですか」
素っ気ない少女に対し、リースが少し詰め寄る。
「わわ!凄んだって何も出ないですよ!」
リースはため息をつき、近くにあった椅子に座った。
「特に理由なんて無いんだけどね。
ただ、気になっただけよ……」
椅子にふんぞり返るリース。
少女は困ったような顔をした……。
「俺はホーク。こっちの無愛想はリースだ。
君の名前は?」
見かねたホークが口を開いた。
「シャルロット……」
「シャルロット、突然手荒な事をしてごめんな」
ホークが優しい口調で頭を少し下げた。
「俺達君に会いたくてここへ来たんだ」
君に会いたくてに少し反応する少女。
少し表情が和らぐ。
「君は魔術を使えるのかい?」
ホークは単刀直入に聞いた。
「まだです……」
「まだ?」
「その……」
口をつぐんでしまったシャルロットに
ホークはポケットから幻魔結晶の口ばしを取り出した。
「これについて何か知ってるかい?」
「ホーク!いきなり手の内を見せすぎよ!」
リースが慌てて静止する。
「いや、この子は大丈夫だろう。
それにこちらがお邪魔してるんだ。
先に信用して貰わないとな」
ホークの言葉に口をへの字にするリース。
テルルでの一件もあり、多少疑心暗鬼に
なっている様だ。
シャルロットは幻魔結晶を手に取り、
目を輝かせて眺めていた。
「誰かさんと同じ眼ね……」
やれやれと言った感じのリース。
「これを使えば、魔術が使えるみたいなんだけど……」
「少し借りてもいいですか?」
ホークが頷くと、シャルロットは幻魔結晶を
両手で握り、目を閉じて意識を集中させた……。
シャルロットの指の隙間からそよ風が吹き、
少女の髪を撫でる。
しかし、それ以上風が強くなることは無く、
シャルロットの集中力は切れてしまった。
「ふぅ……。初めてですが難しいです」
幻魔結晶をホークへ返し、
息を落ち着かせるシャルロット。
「魔方陣はどこで覚えたの……?」
リースの言葉にドキッとする少女。
暫くの沈黙の後、口を開いた……。
「偶然道で拾ったんです。
鞄に入った魔術について書かれた研究書を――
暫くして私の周りに怪しい人が出始めました。
どうやら鞄を探している様だ、と。
ここへも来ましたが、私は居留守を使いました。
そうしたら、留守の間に小屋が荒らされてて……」
「書類を持って行かれたって訳ね……」
少女は黙って頷いた。
「自業自得よ……」
少女は俯いたまま応えない。
「リース……」
ホークがリースの肩へ手を置き、首を横に振った。
「話してくれてありがとう。
俺達は帰るけど、近くの宿屋に居るから
困ったときは言ってよ」
ホーク達は小屋を後にした。
少女は俯いたままだった……。
「結局何も無かったわね……」
ベッドの上でへこたれるリース。
「仕方ないさ。書類も無いんじゃ
どうしようもないよ……」
ガバッと起き上がるリース。
「ねぇ!?魔術の習得って
すぐに出来るのかしら?」
言葉を荒げるリースに
ホークはまだついて行けてない。
「書類は取られたけど、
魔術を使えるようになったって事?」
「小屋に写しがあるのね!!
ホーク、あの子が危ないわ!」
いまいち理解の追い付いていないホークを引っ張り、
再び小屋へ急ぎ馬を走らせる2人。
湖に着くと、一目散に小屋へと急いだ。
「幻魔結晶はどこだ!!
貴様魔術を使ったな!!」
全力で小屋へと走るホークの目の前に、漆黒のローブに
身を隠した男がシャルロットを掴んでいるのが見えた。
「その子を離せ!」
ホークが男の近くへ迫る。
「こいつは知ってはいけない事に手を出した。
生かしては返さん……」
男はシャルロッテの首に手をかけた。
「待て!頼むからその子は許してやってくれ!」
「ホーク……」
「ほう……ならば貴様の持っている幻魔結晶と交換だ!
いくら隠しても貴様から幻魔粒子の気配がするぞ!」
「やっぱりそれが狙いなのね……」
首を絞める手に力を込める男。
「あ、あう……」
シャルロットが苦悶の表情を見せる。
ホークは躊躇い無く、ポケットの幻魔結晶を男に投げた。
男は黙って受け取ると、瞬く間に一陣の風となり消えてしまった……。