忍び寄る影
「あったかしら?」
インジウム山脈の一角で
数人の怪しい人影が何かを探していた。
「ダメだ。何処にも見つからない」
巨鳥の周辺。木々の間。
彼らは口ばしの片割れを探していた。
「と、なると残りは……」
「ふんふふんふ〜ん」
鼻歌を歌いながら朝ご飯を作っているリース。
ホークとの2人暮らしにも慣れ、気分は――
「まるでホークのお嫁さんみたい」
自分で言って頬を盛大に赤らめた。
「頂きます!」
2人で食べる朝食は美味しかった。
「どう?美味しい?」
頬杖ついて、食べるホークを見つめるリース。
「ああ。リースが料理上手で助かるよ」
ホークは凄まじい勢いで平らげた。
「今日はどうしようか?」
食事を終え、くつろぐホーク。
「少し調べ物でもしない?
図書館へ行きたいわ」
洗い物を終えたリースが支度を始める。
2人が向かったのは街の小さな図書館。
地図や怪事件の本を幾つか探す。
当然ながら幻魔粒子や
魔物についての本は一冊も無かった……。
「情報規制がされてるみたいね」
「こっちも何も無かった……」
図書館を諦め、足早に外へ出る2人。
「つけられてる……」
リースが小声で話す。
「ああ……」
図書館を出てから、2人は誰かに
見られているような感覚に襲われた。
「家まで来られるのは嫌よ。
どこかで片付けましょ」
すっかり荒事思考になったリース。
2人は人気の無い草むらへと入っていった……。
「ここなら誰も来ないでしょ。
さあ!出て来なさい!」
リースが啖呵を切る。
「うちのホークがボコボコにしてあげるわよ!」
「やっぱり俺だよね……」
分かっていただけに悲しいホークであった。
しかし、人の気配はすれど一向に来る気配が無い。
「ホーク」
リースはホークに向かって
落ちていた石を放った。
ホークは石を思いっきり殴り、
砕けた破片が散弾の様に周囲に高速で散らばった!
「ちぃぃぃぃ!」
草陰から黒子の様な格好をした2人が
破片を避けながら現れた。
「一体何の用かしら!?」
リースが腰に手を当て相手を威圧する。
しかし黒子達は答える気は無さそうに、
無言で戦闘の構えを取った……。
「問答無用って訳ね……」
リースはホークの少し後ろに隠れた。
黒子達は風の様な早さで地面を駆け、
2人を撹乱する。
リースは障壁を張り、奇襲に備えた。
2人が黒子達を目で追えなくなった一瞬――
ガギィン!
リースの障壁を突き破る音がした。
腕から鋭い刃を出した黒子がリースの後方から
障壁の中へ刃を突き立てていた。
咄嗟に障壁を回転させるリース。
しかし、回転が始まる瞬間に黒子達は、
草むらへと隠れてしまった……。
「ホーク気をつけて!
こいつら私達の戦い方を知っているわ!」
「リースの障壁を突き破る武器か……。
只者じゃ無さそうだけど」
2人は気を引き締め、次の攻撃に備えた。
ここへ来て、周囲に身を隠せる草むらが多い事に軽く後悔する2人。
現れては消えを繰り返し、2人の隙を窺っている。
「私に考えがあるわ。
とりあえず襲われなさい!」
リースの無茶振りにホークが驚く。
「よく分からんが任せるぞ」
ホークの周囲の障壁を消し、無防備になったホーク。
黒子達は隙だらけのホークへと瞬く間に襲い掛かった!
ドン―― ドン――
黒子達が白金の球体障壁に包み込まれ、地面へと落ちる。
障壁には適度な穴が空いており、腕くらいは出せそうだった。
「つまりこう言う事だな?」
ホークが障壁の穴からボディブローをお見舞いする。
障壁はコロコロと転がっていき、中に居た黒子は動かなくなった。
くるりと振り返り、もう1つの障壁を見るホーク。
じわりじわりと黒子へ近づく……。
「今度は穴が有る分強度も強いわよ!
あんたに切れるかしら?」
腕を組み、勝ち誇った笑みを浮かべるリース。
必死で障壁を貫こうとする黒子だが、びくともしない。
ホークが拳を構えた……。
「分かった!俺たちの負けだ!
命だけは助けてくれーーーー!!」
黒子はついに観念し、命乞いをした。
「で、あんたらは何者なの?」
尋問を始めるリース。
その刹那、遠くから何かを飛ばす男の姿が見えた!
「危ない!!」
咄嗟に障壁を展開し、針の様な物が弾けて地面へ落ちた。
「ぐ、ぐぐ……」
しかし、黒子達までは手が回らず、
黒子達は針のムシロにされてしまった……。
「死んでる……毒針だ!」
ホークが男の方を向くが、もうそこに男の姿は無かった……。
己の身の危険を感じる2人。
「もうこの国も危ないわね……」
また、どこかへ旅立つことにした。