インジウムの巨鳥
テルルより隣の大小様々な山に囲まれしインジウム山脈。
険しいながら、交通用に整備された道を1台の馬車が通っていた。
「どこまで行くの?
そろそろ疲れてきたわ……」
狭い馬車の中ぎゅうぎゅうに座るリース、魔女、ホークの3人。
「最近、ここらで巨大な怪鳥の目撃情報が相次いでね。
それで調査しようと思ったのよ」
狭い馬車の中で魔女の吐息がホークの頬に微かに触る。
時折柔かい物がホークの腕に当たり、ホークは話しどころではなかった。
それはリースも同じで、腕に柔かい物が当たる度に、
ホークが嫌らしい事を考えているのではないかと
気が気では無かった……。
「またこの前みたいにデカブツを倒せっての!?」
「報酬は勿論はずむわよ」
「ホーク頑張りなさい!」
報酬と聞き、金の匂いにホークを売るリース。
ホークは呆れ顔で外を眺めた……。
怪鳥の目撃現場に到着すると、見晴らしの良い場所へ登り
辺りを見渡すホーク。
「良い景色だな〜」
「ホーク何か見えるー?」
リースがはるか上まで登ったホークに声をかける。
「何も居ないよ〜」
ホークは小さくなったリースに向かって叫んだ。
ホークはおもむろにズボンのベルトを外し始めた。
ベルトをズボンから取り外し先っぽを持って、
バックルを光らせながら振り回した。
「鳥は光物が好きって言うから来るかな?」
ニコニコしながらベルトを振り回すホーク。
――遠くに見える高い木が大きく揺れた。
木の中から何かが飛び立ったかと思うと、
その姿は徐々に大きくなり、ホークの近くへ
来る頃にはホークの身体を悠々と超える大きさに
なっていた!
慌てて降りるホーク。ベルトを木にかけ、
ターザンの様に地面へ降り立った。
「ちょっとホーク、こっちに来ないでよ!!」
巨大な怪鳥は雄々しい翼を羽ばたかせ、
桔梗色の鋭い口ばしと肉食獣の様な目を
リース達へ向けた。
「じゃ、後は宜しく〜」
一目散に逃げて行く魔女……。
「こんなところから落ちたら死ぬわよ……」
リースが見つめる山道の下は、崖になっており
生い茂る木々と岩肌がホーク達を誘い込む様に
ざわめいていた。
怪鳥は一度引き、勢いを付けてホークへ突っ込んできた!
ホークは咄嗟に岩陰に隠れた。
「ちょっと!あんたがやらないとダメじゃないの!!」
同じく岩陰に隠れたリースが怒った。
「早すぎて狙えないんだよ!!」
ホークは再び姿を現し、バックルを光らせ巨鳥を挑発した。
巨鳥は翼で木々を薙ぎ払いながらホークへ突っ込んだ。
倒れる木々を障壁でガードするリース。
巨鳥がホークにぶつかる瞬間。
ホークは巨鳥の下へ潜り込み、足を掴んだ!
足をばたつかせ必死で振り払おうとする巨鳥。
空高く飛びホークを落とそうとした。
一方のホークは落ちたら一たまりも無い。
必死でしがみ付く。
巨鳥が口ばしでホークを突こうとした!
ホークは咄嗟に手でガードを――
しようとして落ちて行った……。
ドンッ……
大きな白金の盾の上に落ちたホーク。
リースがとっさに空中に盾を出現させたおかげで
事なきを得た。
「あんまり持たないからさっさとなさい!」
リースは意識を盾に集中させ、
更に2つ、合計3つの盾を空中に出現させ
ホークの足場とした。
「ありがとう!
リースは器用だな〜」
お礼を言うと、ホークは巨鳥を睨み気合を入れた。
巨鳥の攻撃を3つの足場を使って器用に避けるホーク。
足場の場所を変えたりして上手く立ち回るリース。
2人の息はぴったりであった。
「次で決めるわよ!!」
翼を広げ、突進してきた巨鳥にリースが声を合わせた。
「おう!」
ホークもそれに応える。
巨鳥がホークとすれ違う瞬間、巨鳥の目の前に大きな盾が
出現し、咄嗟の事に回避出来ず正面からぶつかりよろめいた!
「今だ!!」
ホークが巨鳥の近くの足場に飛び移り、渾身の力を込めて
巨鳥の身体を突く。
巨鳥の身体は大きく吹っ飛ばされ、はるか崖の下へ落ちて行った……。
「やったな!」
地面に降りたホーク。疲れたリースの元へ駆け寄る。
「力を使い過ぎたわ……。もう無理……」
リースは地面に座り込んでしまった。
「下に落ちてったけど、大丈夫か?」
巨鳥が落ちて行った崖を覗き込むホーク。
巨鳥は大木をなぎ倒し、横たわる様に木に引っ掛かっていた。
「よっ……と」
崖を降り、巨鳥の上に乗るホーク。
大きく凹んだ身体は、もう動く事は無かった……。
いくら魔物化したとは言え、今まで生きていた
罪も無い生物を殺める事に深い罪悪感を感じたホーク。
巨鳥の桔梗色に輝く口ばしを両方根元から折り、ポケットへしまった。
「おーい!」
上から魔女の声が聞こえた。
ホークは崖を登り、リースの元へ戻った。
「ごめん、片方しか無かった……」
とポケットから巨鳥の口ばしを魔女へ渡す。
「綺麗な桔梗色……。口ばしが幻魔結晶になっていたのね。
これだけ大きければ片方だけで十分よ!
ありがとうホーク君」
ホークは多少の後ろめたさを感じつつ、3人は帰路についた。
家に着き、荷物を降ろし一息つく2人。
「で、もう片方は?」
帰り道の浮かない表情のホークを見て、
リースはホークが隠し事をしている事は知っていた。
ポケットからもう片方の幻魔結晶を取り出すホーク。
綺麗な桔梗色の口ばしは、見る物を魅了するかの様に
鮮やかで美しかった。
「これどうするつもり?」
リースは幻魔結晶を見つめたままだ。
「これが何なのか俺達でも調べてみよう」
ホークは幻魔結晶を握りしめた。
「ふふ、あんたのそう言う所、嫌いじゃないわよ」
リースがホークが握った手の上に、そっと手を重ねた。
人間でも魔術を使えるキーアイテム『幻魔結晶』
彼らは知らず知らずのうちに世界を揺るがす悪意へと
導かれつつあった……。