魔女の画策
戦闘で疲れた2人をよそに、魔女は倒れたヤドカリを注意深く観察し、メモを取り始めた。
「どこかにきっと……」
ヤドカリに触れ、なぞり、時に叩く。
しきりにヤドカリの身体を覗き込む魔女。
まるで何かを確かめるかの様に……。
ホークは取れたハサミで遊んでいた。
顔出しパネルの様にハサミの間から
顔を出してはリースの反応を楽しんでいた。
「さっきから何をしているの?」
遊ぶホークをスルーし、魔女の様子を見に行くリース。
魔女は少しの沈黙の後、静かに口を開いた。
「幻魔粒子の結晶よ」
魔女の手には桔梗の花を想わせる、
紫の綺麗な正六角形の塊が冷たい輝きを放っていた。
「どういう事?」
リースがしかめっ面で魔女の顔を見た。
「自然エネルギーの中で蓄積された
幻魔結晶が結晶化した物よ。
私達は幻魔結晶と呼んでいるわ。
これがあれば魔術を使うことも
出来るはずよ!」
魔女は少し興奮し、幻魔結晶を握りしめた。
「あんた、これがあるのが分かってて
私達をここへ連れてきたわね!?」
リースは魔女の思惑を知り激昂した。
「リース?」
ホークがリースに駆け寄る。
「聞いてホーク!
この女、それを手に入れるために
私達を危険に巻き込んだのよ!!」
「いいえ、たまたまよ?
こんな大きな主が居るなんて
私も知らなかったわ」
真顔で応える魔女。
「それに、貴女に拒否権は無かった筈よ?」
嫌らしい笑みを浮かべる魔女。
まるで勝ち誇ったその顔は、
自身の研究への揺るぎない確信と
純真な好奇心に満ちあふれていた。
「ふふ、ここで見せてあげるわ。
私の研究発表会といきましょう!!」
魔女は幻魔結晶を両手で抑え、
目を閉じ静かに念じ始めた。
ホークとリースは固唾を飲んで魔女を見つめた。
ポトン……ポトン……
魔女の手の中から滴が垂れ始める。
次第に水量は多くなり、勢いを増していった。
「ぜぇ……ぜぇ……」
水が止まり、目を開けた魔女は
酷く疲れた顔で荒く呼吸を始めた。
「これだけ?」
リースが呆れた顔で物申した。
「想像以上に疲れたわ。
もっと練習しないとダメね……」
魔女は幻魔結晶を布にくるみ、荷物入れにしまう。
「俺もやってみたい!」
ホークが手を上げ名乗りを上げた。
「ダメよ」
魔女が意地悪そうに答えた。
「と言うか出来ないのよ。
これは幻魔結晶の結晶構造から
幻魔粒子に働きかけるイメージと
頭の中で魔方陣の展開が必要なの。
ちょっとやそっとじゃ出来ないわ。
そしてどちらも企業秘密♪」
魔女は人差し指を口に当てると、荷物をまとめ終わり立ち上がった。
「さ、帰りましょ。
帰ったら忙しいわよ~」
魔女は嬉しそうに来た道を戻っていった。
「ホーク」
リースは静かに話しかけた。
「あの女は信用しちゃダメよ」
「あんなに楽しそうなのに?」
「……女の勘が、そう告げているわ」
最後は適当な理由で帰路につくリース。
「どゆこと?」
ホークは?マークを過積載したままリースの後に続いた。
研究所まで戻ってきた3人。
リースは歩き疲れ、途中から何も言わなくなっていた。
「はい、お駄賃」
魔女が袋に入ったお金をホークに手渡す。
リースは袋の中を覗き、コホンと1つ咳払い。
「まあいいでしょ。
ありがたく頂戴するわ」
と、ホークの荷物入れにしまい込んだ。
2人と別れ、研究所へと戻った魔女。
手に入れた幻魔結晶を手に取り眺める。
「ふふ、綺麗ね」
昆虫採集を楽しむ子どもの様に
まじまじと幻魔結晶を見つめた。
「首尾はどうだ……」
魔女の後ろから陰のある男の声が聞こえた。
「ちょっと!いきなり話しかけないでよ」
魔女が振り向き声に応えた。
「その様子だと手に入れたのだな?」
「ええ。結果はもう少し待って頂戴」
「楽しみにしているぞ……」
男の声は消え、魔女は机へ向き直した。
「あんたらにはやらないわよ……」
魔女は愉悦の顔で幻魔結晶を指でなぞった。