リン湖の闘い
翌日、2人は魔女の研究所へと向かった。
「勝手に行く事決めちゃって、怒ってないの?」
リースがばつが悪そうな顔で聞いた。
「あの時、何があったか分からないけど、
リースが決めた事に文句は無いよ。
さっさと終わらせちまおうぜ」
屈託の無い笑顔で応えるホーク。リースは単純にそれが嬉しかった。
「やあ、お二人さん。時間通りだね」
研究所の前で魔女が待っていた。
「ええ、早く行って終わらせましょう」
優しい言葉と厳しい顔でちぐはぐなリース。
「リン湖はここから北の森の中にあるわ。
今は立ち入り禁止になっているから、
こっそり忍び込むわよ」
リン湖への道は整備されておらず、獣道の様な酷い悪路であった。
「ちょっと!後どれくらいで着くの!?
いい加減疲れたわ……」
リースがその場に座り込んでしまう。
「後少しよ。あなた体力無さすぎるわよ?
少しは彼を見習ったら?」
荷物持ちのホークはまだまだ元気であった。
「少し休憩しないか?流石にこの道は歩くには辛いぞ……」
ホークはリースの為休憩を提案し、荷物を降ろす。
そして水を取り出してリースに差し出した。
「ありがと……」
リースは差し出された水を一気に飲み干した。
「仕方ないでしょ、お忍びで行くんだから。
表の道は使えないのよ!」
と言いながら魔女にも疲労の色が覗える。
普段研究所に籠って運動なんかしないので、
体力に難ありはリースと同じであった。
座り込む3人。会話は無く微妙な空気が流れる。
「ま、魔女は本名は何ていうの?」
ホークが切り出した。
「女はミステリアスな方が良いじゃない?
それに私は自分の名前あんまり好きじゃないの」
どうやら教える気は無い様だ。
「リースの盾カッターで
草むら切りながら行けば楽じゃないかな?」
今度はリースに話を振る。
「嫌よ。アレ使うと疲れるんだもん」
会話が終わってしまった……。
休憩が終わり、再び歩き出す3人。
ようやく目的のリン湖へと到着した。
「やっと着いたわね……」
ヘトヘトでもう歩きたくないリース。
(帰り道もある事は今は言わないでおこう)
ホークは無言で魔女の後に続いた。
「何をするんだ?」
砂浜へ降りえ湖の水を汲む魔女。
砂、石、木片等様々な物を回収していく。
「リン湖の幻魔粒子の濃度を測定するのよ。
濃度が高ければ魔物化する確率も高いわ」
と説明しながら作業を進めると――
「危ない!!」
後ろからリースの声が聞こえた瞬間、
砂浜から巨大な赤い鎌の様な物が現れ、ホークに襲い掛かった!
キィィン!!
間一髪でリースがホークを盾で守る。
ホーク達が後ろへ引くと砂浜から現れたのは、
巨大な鎌の様な4本の爪と2本のハサミ。
蒼白い巻貝の殻を背負った大きな赤いヤドカリの
様な生物だった!!
体長はホーク達を上回り、ヤドカリが出てきた跡は
大きく凹んでいた。
「信じられない……」
茫然とする魔女。まるで夢の中にいるかの様だ。
「あんたは下がってなさい!」
リースとホークが魔女の前へ出る。
ホークは素早くヤドカリの横へ回り込もうとする。
しかしヤドカリの動きは早く、
回り込んだ瞬間に正面を向かれてしまう。
ヤドカリは爪で2人を薙ぎ払おうとした!
リースが盾でガードするも、ヤドカリの力は強く
押し負けそうになる。
「ホーク!長くは持たないわ!!
早く何とかしましょう!!」
「何とかってなんだよ!
こいつ早すぎて攻撃する隙が無いぞ!」
ホークは襲い掛かるハサミを避けながら攻撃の機会を窺う。
「凄い……凄いわ……」
目の前で繰り広げられる光景に魔女は感銘を受けていた。
ヤドカリのハサミがホークの頬をかすめる。
(ホークまで守る余裕が無い……)
リースは爪の攻撃を受けるので精一杯だった――
ホークの頬をかすめたハサミはそのままリースの方へ向かう。
「リース!!」
ガキイイィィン!!!!
爪の攻撃を受けながら、新しい円盾でハサミをガードする。
ハサミは円盾を挟み、徐々に力を込める……。
「この野郎!!」
ホークが盾を挟むハサミの腕に強烈なパンチをお見舞いした!
パンチを受けた部分の甲羅が割れ、柔かい中身が露わになった。
「くそっ、流石に硬いぞ!!」
「いえ、十分よ!」
リースは柔かい中身の部分に小さな円盾を出すと、高速回転で切断しはじめた。
「ガッ!!」
ヤドカリの悲痛な叫びが聞こえた。
「もう一発!!」
ホークが割れた部分の近くに再度パンチをお見舞いした。
すると、腕はハサミの重さに耐えきれず、千切れて地面に落ちた。
「これならどうだ!」
ホークは指をすぼめ、抜き手の構えを取る。
素早く近づき、ヤドカリの胴体に思いきり抜き手を突き立てた!
ホークの手は甲羅を容易く突き破り、中身に致命的なダメージを与えた!
「相手に当たる部分が小さい方が攻撃力が高いんだな!」
ホークが自慢げにリースの方を見る。
「それ昨日私が言ったわよ……。
まあいいわ。さっさと終わらせなさい」
リースは呆れた顔で応えた。
「うおおおおおおお!!」
ホークの抜き手が幾度もヤドカリに突き刺さり、
ヤドカリは倒れ動かなくなった……。
「よっしゃ!」
ガッツポーズを決め、リースの元へ駆け寄るホーク。
「何とかなったでしょ?」
リースは笑顔でハイタッチをした。