魔術
「どうぞ」
出された紅茶はお世辞にも美味しそうに見えず、リースは飲むのを躊躇った。
女は自分用に淹れたコーヒーを1口すする……。
「……魔物の中には不思議な力を使うものが居る事が分かってきたの。
手から火を出す者、水を出す者。私たちはその不思議な力を
『魔術』と、呼んでいるわ……」
「私は、魔物化せずに幻魔粒子を人の手でコントロールし、
魔術を使う事を研究しているの」
「それで『魔女』ってわけね……」
「そういう事……察しが良くて助かるわ」
魔女がコーヒーを1口すする……。
「で、私たちを研究資料として扱おうって事かしら?」
リースの顔色が強ばっていく。
「たち?」
魔女の眼光が鋭くなる。
リースは表情を変えないまま、心の中で軽率な発言を後悔した。
「色々ありそうな顔してるわね。まぁいいわ。
貴方たちの研究はまだいいとして、実はお願いが1つあるの」
『お願い』と言われ、露骨に嫌な表情をするリース。
「残念ね。私たち忙しいの」
魔女の『お願い』を一蹴するリース。
頭に?マークが乗るホーク。
「そう、残念……」
魔女は来ていたローブを脱ぎ椅子に掛けた。
ホークの眼には魔女の赤いワンピース姿が目に留まる。
胸元は大きく開き、豊満な谷間にはファスナーが
まるで「開けて……」と言わんばかりに怪しい輝きを放っていた。
ホークはその姿に視線を外すことが出来なくなっていた……。
(色仕掛けなんて下品な女ね……)
リースは心の中で失笑し、チラリと隣を見た。
そこには鼻の下を伸ばしきった残念なホークがいた……。
「ホーク!」
リースは思わず大声を上げてしまった。
しかしホークの表情は変わらず、視線は魔女に釘付けのままであった。
「魔術の研究をしているけど、使えない……とは言ってないわよ」
魔女の表情が怪しくなっていく。
「ホークに何をしたの!!」
リースは盾を出し、臨戦態勢を取った。
「おっと、私に何かあったら二度とこの子は元に戻らないわよ♪」
交渉……いや、もはや脅迫染みた話しは完全に魔女のペースだ。
リースが苦悶の表情を浮かべる。
「この子が私の物になってもいいのかしら?」
ホークを誘うように指を動かす。
ホークは恍惚とした表情で魔女へすり寄っていった。
「分かったわ……何をすればいいの」
リースは盾をしまい、諦めた様にソファに座り直した。
「ふふ、ごめんなさいね。
私も手段は選んでいられないの」
魔女がローブを着ると、ホークは元の様子に戻った。
ゴンッ!!
小さな盾がホークの頭にめり込む。
「いっでーーー!!」
「あらごめんなさい。手が滑ったわ♪」
「??」
頭をさするホークをよそ眼に、リースは涼しい顔をした。
「幻魔粒子は自然エネルギーの強い場所に集まりやすい、
と言われているわ。そこで貴方達にはリン湖に行って
欲しいの。勿論私も一緒にいくわ」
無表情のまま話を聞く リース。
頭に出来たたんこぶを撫でるホーク。
「いいわ。で、出発はいつ?」
「明日よ」
会話に着いて行けず?マークがこぼれそうなホーク。
2人は研究所を去り、今度こそ宿屋へと向かった。
「なぁリース。何を怒っているんだ?」
魅了されていた間の記憶が無いホークには、
何が何だかさっぱりであった。
「何でもないわ!」
その日、リースの機嫌が直る事は無かった……。