前世編 一話
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ご注意ください。
前世編【第一幕】
ここはナツメ村。
人々と異形のモノが共に生きている平穏な村。
「こら!セツナ!お前また森に入っただろ!」
「あら兄様、やっと起きたの?」
「『あら兄様』じゃない!また人が寝ている夜中に森に入って!」
「ごめんなさい(笑)でも大丈夫よ?ただ森の奥にあるオクリ樹様のところに行っていただけだから」
「危ないだろ、お前は『巫女』なんだから」
「は―い、兄様のお説教は飽きました。これからは気を付けるわ」
「ったく・・・」
この村の巫女であるセツナとその兄、ナナセはこの村で・・・否、この国で一番有名な神社に生まれた『選ばれしモノ』である。
二人にはそれぞれ厄介な運命があった。
特にセツナには、最悪の仕事があった。それは・・・おっと、これはまた追々話すとしよう。
「で、お前が連れてきたあの『黒天』のガキはどうするつもりだ?」
「ん~どうしましょう・・・ねぇ兄様、あの子をこの村に住ませるっていうのはどうかしら?」
「はぁ⁉・・・まぁ、あのまま放り出すわけにはいかないからな。いいんじゃないか?俺はいいと思うぞ」
「ありがと。あ、そういえば兄様は確か剣が使えたよね。ちょっと後であの子の腕を見てくれない?」
「あぁ⁉なんで俺がそんなこと・・・」
「お願い、お兄様☆」
「う・・・わ、分かったよ」
「ありがとう♡」
話がまとまると二人は『ガキ』が眠っている部屋に向かった。
部屋の前までくると、きれいなリズムを刻む呼吸が聞こえてきた。
セツナが扉を開けると、黒髪でまつ毛の長い美少女が眠っていた。
しばらく、二人がその少女を眺めていると、さすがに見すぎたのか視線を感じた少女は目を覚ました。
「・・・」
「あ、ごめんなさい、起こしてしまったね。」
「やっと起きたのかガキ」
「ちょ!兄様!」
二人の会話を聞いていた少女が口を開いた。
「あなた達・・・誰?・・・ここは?」
「ここは、ナツメ村。私はセツナ、この村で巫女をしているものよ。で、こっちが兄の・・・」
「ナナセだ。お前、『黒天』だろ」
「・・・あぁ、そうだ」
『黒天』とは、異形のモノと共存しているこの国で、犯罪を犯したモノと人間(逆もまたしかり)の間に生まれた子供のことである。
この『黒天』には、首に薔薇の模様、そして目が皆、紅いという特徴がある。
このように呼ばれる存在は、この国で、研究施設に監禁されたり、最悪政府のいい駒にされ殺されるなど、迫害の的だった。
「あなたはこの先の森の中で傷だらけで倒れていたのよ。それでそのままにしておくわけにいかないから、この村に連れてきたの。ねぇ、あなたはどこから来たの?」
「・・・」
「・・・研究所か?」
「‼・・・あぁ、そうだ。僕は・・・カルデア研究所から逃げてきた・・・」
「やっぱりな・・・まぁ、あそこは国で一番関わりたくない研究所だしな」
「行くところはあるの?」
セツナが問うと少女は、顔を俯かせた。
「ないのね?」
さらにセツナが投げかけると少女は静かに頷いた。
「名前は?」
「・・・名前なんて・・・ない」
自分で改めて口にしたことで、悔しく思ったのか、少女の目には涙が浮かび始めていた。すると、その様子を静かに見ていたセツナは兄と決めたことを告げることにした。
「名前がないなら私がつけてあげるわ!えっとね~、あなたの名前は・・・」
セツナはしばらく考え込むと、何やら思いついたのかとびっきりの笑顔で話し出した。
「あなたの名前、『トウコ』っていうのはどう⁉」
「『トウコ』・・・」
「なんでトウコなんだ?」
「だってこの子の目、紅くキラキラしてて綺麗なんだもん♪」
「⁉」
「そんな理由でつけるなよ・・・汗」
「いいじゃない!これであなたは私の友達よ!これからはこのナツメ村で暮らすといいわ!」
「え・・・いいの・・・?」
「うん!」
「っ・・・」
黒天の少女・・・トウコにとって、今まで『黒天』としてしか扱われなかった自分に名前をつけてもらえるというのは、とっても幸せであり、ここにいていいんだと思える場所を与えられたことは、自分を認めてもらえたという実感を得ることができたのだ。
セツナの言葉に必死に抑えていたトウコの涙はついに溢れ出てしまった。
「てことで、これから俺がお前を一人前の剣士として育ててやる!」
「・・・お願いします・・・」
それからの日々は、トウコにとって辛くとも楽しい日々だった。
第一幕終了
『あなたに逢えますように・・・』前世編一話をご覧いただきありがとうございます。
今回はセツナとトウコが出会ったお話でした。
トウコは作者が特に好きなキャラなので、初登場嬉しいです(笑)
次回は数年後からのスタートになるので、トウコの変わり様にご期待ください!
(あまり変わってないかもしれませんw)
では!!