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幽かな記憶を手に刻んで  作者: 青鷺 長閑
8/8

Episode 5: December, 27th, 2013.

 次の日からまたいつもの日常が始まるわけで、告白したからといって支障をきたしてはいけないとなるべくいつもの落ち着きを取り戻そうとしたが、実際取り戻せていたかどうかは疑問が残る。少なくともバイトは何事もなく終えることができたはずだ。



 二日後。



 一ヶ月ほど前から大学の友人のアパートでみんなで鍋パーティをしようという話があった。

 みんなというのは本当に「みんな」で、なにも学内の生徒全員とかそんなことを言っているのではなく、単純に俺の友達を広くかき集めて楽しもうとした結果に過ぎない。

 その年の祭りや夏休みなどで遊んでいたこともあって、互いに見知った人もいたし、初対面の人もいた。俺が集めたのだから当然俺とは全員顔見知りなわけだが、その繋がりとしてメンツを挙げるなら、大学の同級生が三人、高校時代が三人、そして中学時代が二人という具合だった。男子が七人、女子が二人。


 その二人には、アイツも入っていた。



 前々からこれだけの日程が決まっていたのにどうしてあんなタイミングでイレギュラーを挟んだのかと聞かれたら、俺があの日に決定的に運命的な何かを感じたからとしか言いようがない。以前の関係のまま和気藹々とこの日を迎えるつもりは全くなかった。結末如何では二度と思い出したくない一日になっていたかも知れないことを考えるとなかなか危ない綱渡りをしたような気がしないでもない。


 昼頃から集まってボードゲームで遊んだり麻雀を打ったりトランプをしたりと、四、五人くらいに分かれつつ色々なことをやって、夕方には鍋の具材を買い出しに行ってついでにアルコールも調達して。久し振りに学生らしい一日を過ごせた気がした。


 二日前のことも、ほんの少しだけ、忘れることができた。



 ひとしきり騒いで、夜の十一時を回った頃だろうか。そのアパートで暮らす友達が翌朝早くから予定が入っているというので、家での徹夜は残念ながら叶わなかった。終電もない時間帯だったので残った連中でカラオケに行くことにした。三日間数えて二回カラオケというのは如何なものかと思うだろうが、あれだけの田舎町で夜中に歩いて出歩くとなるとまともに時間を潰せるような場所などカラオケくらいしか考えられないし、別にカラオケ自体嫌いな人がいたわけでもなかったのだが、本当に、もうね。


 アパートから店まではやや距離があったが、歩いて行けない距離ではなかった。俺はアイツと二人、一番後ろを歩いていた。



 実はその前の日の夜、日付がちょうど変わる頃だっただろうか。アイツから電話が来ていた。


 内容は――恋愛相談に近かった。今までも恋愛で悩んでいた時はそうしてずっと俺を相談相手として選んでくれていた。同じように今回も、俺に相談を持ちかけてきた。

 でも、俺から告白をしているのに俺に相談をしても何も始まらないのだ。電話越しでも少しはアプローチをした記憶はあるが、それでもあの日伝えたことが俺の気持ちの全てだったし、同じことしか言ってなかった。会った時から八年間好きだったこと、気付けばお前のことばかり考えていたこと、そして、良いところ悪いところ全てを知った上で、それでも気持ちが揺らがなかったこと――。

 そこで気持ちを伝えたところで、やはり何の解決にもならないのは自明だった。アイツの本心が知りたくて、気になって、ただそればかりを考えていた。


 一時間くらい喋って、電話を切る直前に、「私の返事は、ほぼ決まってる」と伝えられた。俺は「そうか」とだけ返したが、間違いなく振られるだろうなと思った。



 大学の坂をちょうど上りきって、大通りに出た辺りで、ゆっくりと、アイツは口を開いた。



「嬉しかったよ」


「……そうか」


「アンタのこと、ずっと友達だと思ってた。アンタと一緒にいる時が、凄く楽しかった」


 あの日の表情で、そして前の日の電話で、俺はアイツのことを諦めかけていたはずなのに、そんなお世辞としか思えないような一言にさえ、何かを期待してしまう自分がいた。まだ可能性はあるのかな、と思いたかった。


「ありがとう」


「だからね、昨日電話してから、ずっと考えてた」


「……うん」




「お互いに好きなら……それでいいんじゃない、かな……」




「…………、」



 何も、言葉が出なかった。




 出せるわけないだろ、馬鹿野郎。


 ずっと伝えたかった想いの丈を言うだけ言って、それだけでも気持ち的には十分だったのに。好きだって言って、嬉しかったって言われて。



 その気持ちに、答えてくれて。



 夢を見ているような錯覚にすら陥った。けど、東北の冬の、心身を突き刺すような北風がそれを正真正銘の現実だと証明してくれた。


 ストレートな返事ではなかったが、俺は確信できた。俺の女になってくれるのかどうか。直接訊くのはあまりにも無粋だけど、今まで生きてきて得た語彙でそれを言葉にしようとするのは、簡単じゃなかった。



 息を詰まらせながら、やっとの思いで声にした。


「ずっと……俺の傍にいてくれるか」



「……うん」



「ありがとう」



 ただそれだけは言いたかった。



 何度も何度も、ありがとうを言った。



 そして俺達はカラオケまでの残り少なな道のりを、またゆっくりと進み始めた。


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