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幽かな記憶を手に刻んで  作者: 青鷺 長閑
6/8

Postlude: Pieces

 この話の結末を迎えるにあたって、最後の最後のひと押しとなった出来事があるのをすっかり失念していた。



 大学に入ってすぐ運転免許を取れと言われ、嫌々ながらも自宅から徒歩五分もしない教習所にのんびり通い、免許センターの卒業検定に何とか一発合格してやっと暇になると思ったその年の七月だったか八月だったか、その時から今まで俺はバイトを続けている。具体的に何をしているとまでは、ここでは特に必要性もないのであえて明言はしないが、無難に言ってしまえば地元の小売店だ。けっこう小さい頃から行っていたので、不器用で使い物にならない俺がせめて力になれるような場所はここくらいかな、と思っていた。実際周りにはそう言ってあるし、面接でも伝えたことだが、実際ただ家から近いからというのと、実は昔からそこで働くのがちょっと憧れだったというのもある。


 基本的にはコミュニケーション力が著しく低く、人前に出て話すのが滅法苦手なタチの俺だったが、そのバイトを通して何事にも物怖じしないだけのメンタルはついたと自負している。二十人程度の生徒を前にしたプレゼンでも難なく話せるくらいには落ち着くこともできた。


 そのバイト先には、度々アイツが来ていた。最初は男と来ることもあったが、別れてからは一人で来たり、親と来たりもしていた。

 アイツと俺がそこそこ良い仲にあるということがバイト仲間に知られると、いやしくもそこを具体的に突っ込んでくる輩も当然いるわけで、アイツが好きだと明確に自白した相手はいなかったはずだが、まぁそれなりに心に留めている女だということは薄々勘付かれていたことだろう。



 あれは高校二年の十二月が終わる二週間くらい前の話だろうか。バイト中に突然こんな話を振ってきた後輩の女子がいた。



「そういえばこないだ――さんに涼介さんのことどう思ってるか聞いてみたんですよ」



「……は?」



 ちょっと何言ってるか分からなかった。


 いや、言ってることは簡単だ。その言葉をそのまま頭の中に流し込むことができなかった。

 つまりはだ、コイツは俺が言い淀み数年間悩み続けてきたことの答えに直結するようなことを、アイツに訊ねていたということか。

 その時アイツがちょうど独り身だったこともあるだろうが、俺は気が気じゃなくなった。


「それで、なんて答えたんだ」

「えーっとねー」

「おお」

「内緒にします」

「何でだよ」

「えー、だって……」


 とかなんとか。案の定というか何というか、結論ははぐらかされてしまった。


 如何せんソイツがやたらニヤニヤしていたものだから俺はその真相がどうしても知りたくなってしまい、その日のバイト中はずっとそのことばかりを考えていた。良い意味でのニヤニヤならば、つまりそういうことだろうし、悪い意味でのニヤニヤならば、やはりそういうことなのだろう。


 果たしてどっちなんだろうかと考えた。しかし考えれば考えるだけ無駄であり、結局は小学校のあの出来事まで遡って今までの自分を信じて突き進むくらいしかできなかったので、そんな感情論のいたちごっこは無意味に帰した。ここでどうなっていようとどうせ運命が変わることなんてないのだから。



 後から聞いた話になるが、本人はこのとき


「アイツが彼氏になるってことはない」


 と返したらしい。


 この件を聞いていたら俺はいよいよ女としてのアイツを諦めていたかも知れない。




 だが、何もせず後悔するよりはやるだけやって後悔した方がいいとよく言うだろう? それが俺の信条でもあった。だから事の顛末を知った世界線なんてものは所詮杞憂に過ぎないのさ。


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