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父と息子 (ショートショート82)

作者: keikato

 寺へと続く坂道。

 老いた男が花束を手に登っている。

――アイツ、いまだにこの世に未練が……。早く成仏させてやらなきゃあ。

 男はそんなことを考えながら、息子の墓参りに向かっていた。

 息子が死んだのは、ひと月前。

 交通事故であった。

 それがいまだに幽霊となって現われる。

 オマエは死んだんだ――そう言い聞かせても、オレは生きていると返されるばかりであった。


 寺へと続く坂道。

 息子が花束を手に登っている。

――オヤジのヤツ、オレのことが気になって……。早いとこ成仏させてやらなきゃあ。

 息子はそんなことを考えながら、先を歩く父親のあとを追っていた。

 父親が死んだのは、ひと月前。

 心臓発作であった。

 それがいまだに幽霊となって現われる。

 オレは生きているんだ――そう言い聞かせても、早く成仏してくれと返されるばかりであった。


 寺の境内。

 父親と住職が話している。

「息子のヤツ、自分がまだ生きてると思いこんでおって、いまだに成仏ができないようでして」

 父親はこまり顔で首を振った。

「どうもそのようで」

「死んだとは、さすがに何度も話しづらいもんで、今はそっとしておるのですが」

「でしょうなあ、相手が幽霊では」

「こまったものです。今もわしのあとをつけて……」

 父親はチラッと振り返ってから、寺の裏にある墓地へと足早に向かった。


 寺の境内。

 住職のもとへ息子がやってきた。

「オヤジのヤツ、ボケてたんで死んだことがわからないらしくて」

「どうもそのようで。お父さんには私なりに話を合わせましたが」

「すみません、毎日のように来ちゃって」

「いいえ、ここはお寺ですから」

 住職が小さく笑って返す。

 息子は頭を下げてから、父親のあとを追って墓地に向かった。


 墓の前。

 父親は花束を取り替えた。

――どうか、早く成仏してくれ。交通事故でとつぜん死んで、おのれの死が信じられんのだろうが……。

 手を合わせ一心に祈る。


 墓の前。

 息子は花束を取り替えた。

――早く成仏してくれよな。ボケてたんで、死んだ自覚がないのだろうが……。

 手を合わせ一心に祈る。


 父親は帰りに住職のもとへ立ち寄った。

「どうです? 息子のヤツ、あなたのところにも来たのでは?」

「はい、つい先ほど。息子さんには私なりに話を合わせましたが」

 住職が首を振って答える。

「あれが幽霊でなかったらどんなにいいことか」

 父親はそう言い残し立ち去った。


 父親のうしろ姿を目で追いながら、息子は住職のもとに立ち寄った。

「オヤジのヤツ、まだオレが幽霊だと?」

「ええ、そのようなことを」

「そうですか……では、私もこれで」

 息子も寺をあとにした。


 二人が帰ったあと。

 住職は深いため息をついた。

――あの幽霊たち、互いに未練が強すぎて成仏できんのだな。さっそく経をあげてやらねばな。

 と、そのとき。

 背後で住職の息子の声がした。

「父さんたら、今日もまっ昼間っから出できて。早く成仏してくれよな。オレは毎日、父さんのためにお経をあげてるんだからね」


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― 新着の感想 ―
[一言] 未練ある人多過ぎ!
[良い点] どんでん返しに継ぐどんでん返しですね。 まさか住職さんの息子さんまで幽霊では?と、疑心暗鬼になりそうです。 自分は幽霊ではないと思っている幽霊たち、みんな納得して成仏してくれるかな。
[良い点] おもしろかったです。 なんと最後のオチ読めました! やったぁ。 自分に星ひとつ(笑)
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