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ショートショート

父と息子 (ショートショート82)

作者: keikato
掲載日:2018/03/21

 寺へと続く坂道。

 老いた男が花束を手に登っている。

――アイツ、いまだにこの世に未練が……。早く成仏させてやらなきゃあ。

 男はそんなことを考えながら、息子の墓参りに向かっていた。

 息子が死んだのは、ひと月前。

 交通事故であった。

 それがいまだに幽霊となって現われる。

 オマエは死んだんだ――そう言い聞かせても、オレは生きていると返されるばかりであった。


 寺へと続く坂道。

 息子が花束を手に登っている。

――オヤジのヤツ、オレのことが気になって……。早いとこ成仏させてやらなきゃあ。

 息子はそんなことを考えながら、先を歩く父親のあとを追っていた。

 父親が死んだのは、ひと月前。

 心臓発作であった。

 それがいまだに幽霊となって現われる。

 オレは生きているんだ――そう言い聞かせても、早く成仏してくれと返されるばかりであった。


 寺の境内。

 父親と住職が話している。

「息子のヤツ、自分がまだ生きてると思いこんでおって、いまだに成仏ができないようでして」

 父親はこまり顔で首を振った。

「どうもそのようで」

「死んだとは、さすがに何度も話しづらいもんで、今はそっとしておるのですが」

「でしょうなあ、相手が幽霊では」

「こまったものです。今もわしのあとをつけて……」

 父親はチラッと振り返ってから、寺の裏にある墓地へと足早に向かった。


 寺の境内。

 住職のもとへ息子がやってきた。

「オヤジのヤツ、ボケてたんで死んだことがわからないらしくて」

「どうもそのようで。お父さんには私なりに話を合わせましたが」

「すみません、毎日のように来ちゃって」

「いいえ、ここはお寺ですから」

 住職が小さく笑って返す。

 息子は頭を下げてから、父親のあとを追って墓地に向かった。


 墓の前。

 父親は花束を取り替えた。

――どうか、早く成仏してくれ。交通事故でとつぜん死んで、おのれの死が信じられんのだろうが……。

 手を合わせ一心に祈る。


 墓の前。

 息子は花束を取り替えた。

――早く成仏してくれよな。ボケてたんで、死んだ自覚がないのだろうが……。

 手を合わせ一心に祈る。


 父親は帰りに住職のもとへ立ち寄った。

「どうです? 息子のヤツ、あなたのところにも来たのでは?」

「はい、つい先ほど。息子さんには私なりに話を合わせましたが」

 住職が首を振って答える。

「あれが幽霊でなかったらどんなにいいことか」

 父親はそう言い残し立ち去った。


 父親のうしろ姿を目で追いながら、息子は住職のもとに立ち寄った。

「オヤジのヤツ、まだオレが幽霊だと?」

「ええ、そのようなことを」

「そうですか……では、私もこれで」

 息子も寺をあとにした。


 二人が帰ったあと。

 住職は深いため息をついた。

――あの幽霊たち、互いに未練が強すぎて成仏できんのだな。さっそく経をあげてやらねばな。

 と、そのとき。

 背後で住職の息子の声がした。

「父さんたら、今日もまっ昼間っから出できて。早く成仏してくれよな。オレは毎日、父さんのためにお経をあげてるんだからね」


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― 新着の感想 ―
[一言] 未練ある人多過ぎ!
[良い点] どんでん返しに継ぐどんでん返しですね。 まさか住職さんの息子さんまで幽霊では?と、疑心暗鬼になりそうです。 自分は幽霊ではないと思っている幽霊たち、みんな納得して成仏してくれるかな。
[良い点] おもしろかったです。 なんと最後のオチ読めました! やったぁ。 自分に星ひとつ(笑)
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